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第4話 全力疾走委員長

 翌日、珍しく寝坊せずに気持ち良い朝を迎えることが出来た。

 昨日は運勢最悪だったからな~。色々あって疲れたので早めに寝たのが功を奏したのだろう。

 洗面所へ行って顔を洗い、髪を整え、再び自室に戻り制服を着る。居間に繋がるドアを開けると味噌汁の匂いがフワッと香ってきた。テーブルの上に用意された今日の朝食は和食であった。


「あら、珍しく早起き」

「そんな日もあるさ」

「毎日そうであってほしいわね」


 お母さんの無理な願望を聞き流して、きゅうりの漬け物をおかずにご飯を頬張る。朝の強敵である温い布団には毎回勝てる気がしないのだ。是非必勝法を教えてほしい。

 BGM代わりのテレビからは最新のニュースを読み上げるアナウンサーのよく通る声が耳に入ってくる。株価がどうのこうのなんて私には関係ないことなので、これもまた聞き流す。今日は占いコーナーを見ている時間はないかな。見終わってから出たんじゃ昨日みたいにまた遅刻してしまう。

朝ごはんを食べ終わると、学校へ行く準備をしていつもより早く家を出る。

 通学途中、曲がり角でパンを咥えた女の子とごっつんこ……なんて恋に発展しそうな出来事は起こらない。

そうそう続いてひったくりのような事件が起こるわけもなく、無事に遅刻せず教室へ着くことが出来たのだった。


「これは完全にセーフだよね」


 いつもより20分は早く出たのでクラスに居る人はまばらだ。私が遅刻常習犯だと知っている人は驚きに目を見開いている。失礼な、と思うが身から出た錆なので口にはしない。

 自分の席に行くと昨日からお隣さんになった少女が座っていた。

 毎日こんな早くに来てるのかなぁ。真面目だなぁ。


「おはよう、委員長!」

「おはよう、ございます」


 なんだか委員長の歯切れが悪い。それに目も合わせてくれない。


「どうしたの? 今日は遅刻しなかったよ」

「そう、ですね」


 おかしな委員長。具合でも悪いのかな。あ、寝癖がついてる。

 いつも性格通りきっちりとした三つ編みにして髪型はバッチリきめているのに寝癖がついたままとは珍しい。

 委員長にもおっちょこちょいな面があるのだなと朗らかな気持ちで寝ぐせを見つめていると、にわかに教室が騒がしくなってきた。そこかしこで「おはよう」の声が入り乱れる。予鈴が鳴り、みんな粛々と席に着いて先生の登場を待つ。

 しばらくするとコツコツ教室に足音が近づいてきて引き戸が開かれる。


「では、朝のホームルームを始めるぞ」


 先生の掛け声と共にいつもの一日が始まる。

 それからの本日の学校生活は何事も起こらずに過ぎ去っていった。昨日のことをネタにされたりもしたが、概ねいつも通りだ。委員長が挙動不審なこと以外は。

 朝から一度も目を合わせてくれないけど、その割にはチラチラこちらを見ている気がする。その視線が気になってブンと顔を向けると目を逸らされる。それが何回も何回も繰り返された。まるで無限だるまさんがころんだ状態。

 それに委員長らしからぬ凡ミスも多かった。何もないところでコケたり、眼鏡をかけ忘れたりもしていた。真面目っ娘は辞めてドジっ娘に転職でもしたのだろうか?


「ねぇ、委員長、今日はどうしちゃったの?」

「……あのっ!!」


 急に大きな声を出すのでビクッとしてしまった。委員長が大声を出すことは滅多にないのでクラス中から注目されている。


「じゅ、授業が終わったら体育館裏まで、き、来てくれませんか? お話があるので」

「え、別にいいけど」


 何故に体育館裏? かつあげでもされるのかな。それに声震えてるけど大丈夫? よくわからないけど断る理由もないのでオーケーの返事をしておく。ていうか外野がうるさい。「委員長がんばれ!」「愛の告白キマシタワー!」「わたくしの藍ちゃんがあああ」「真面目委員長とポニテアホの子……ありだな」とか意味不明なことを騒いでいてとにかくうるさい。あと最後に私のことアホの子扱いしたやつ、後で覚えてろよ。


 色々と気になることはあるけど、それでも時間は過ぎていく。帰りのホームルームが終わり、クラスのみんなは蜘蛛の子を散らすように部活へ向かったり遊びに行ったり家に帰ったりする……はずなのだが、じいっとこちらの方を見ている。めっちゃ見られている。

 後ろで椅子に座ったまま動く気配のない友人Aに声をかけた。


「あんた、部活あるんじゃないの?」

「二人の逢瀬を見届けるまでは行けないの……」


 いや行けよ。それに逢瀬は見届けちゃだめだろ。そっとしておいてやれ。

 友人Bに目を移すとウインク付きでサムズアップされた。

 私今すごくイラッとしました。

 他のクラスメイトもニヤニヤ顔だ。こいつら楽しんでやがる……。

 さっさと委員長と一緒に体育館裏まで行こうかなと横を見ると。


「ありゃ?」


 隣の席がすっからかんだ。かばんだけは置いてあるけど。

私の視線に全てを見ていた友人Aが答える。


「藍ちゃんが余所見してる間に脱兎のごとく走って行っちゃったよ」


 突然全力疾走する委員長! なにそれ見たかった。

 先に行ってるなら私も行くか。


「お前たち、ぜえっったいについて来るなよ! そんで、はよ帰れ!」


 友人共に釘を差してから体育館裏へと向かう。

 そこは雑草が無駄に生い茂ったじめじめとする場所だった。

 建物の影だし、手入れなどされている様子は全く無かったから当然と言えば当然か。これが真夏でなくてよかったと思う。きっと暑い日ならば羽虫飛び交う鳥肌モノの光景にぶち当たっていたことだろう。幸いにも今は冬真っ盛りなので虫さんたちはお休み中である。

 そんな中、地面が一部剥き出しになっている場所に佇む少女がいた。委員長だ。

 こちらにはまだ気が付いていないようで、前に垂らした二本のおさげの片方を両手でいじくっている。その姿は、体育館裏に呼び出して「おいコラテメエ、最近目立ち過ぎなんだよ! 有り金全部吐き出せやオラァ!」な雰囲気ではない。


「あ、藍さん!」


 おっと、見つかってしまったか。隠れてたわけじゃないけどね。


「やあ、委員長。久し振りだね」

「そうです、ね」


 ツッコミがないだと!?


「それで、こんなところに呼び出して何の用なのかな?」


 委員長は意を決した様子で顔を上げると、直角に腰を折った。それはもう見事な90度だった。


「ごめんなさい!」


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