第十三章 改革の一年
第十三章 改革の一年
高瀬社長との会議から一週間後。
本社講堂には幹部社員や各部署の責任者が集まっていた。
突然の全社会議だった。
社員たちはざわついている。
「何か大きな発表らしい。」
「新事業かな?」
壇上に立った高瀬は静かに話し始めた。
「本日から、一年間の特別プロジェクトを開始する。」
会場が静まり返る。
そして続けた。
「神崎麗華さんを、臨時役員兼経営改革責任者として迎える。」
会場は騒然となった。
「誰だ?」
「役員経験ある人なのか?」
「聞いたことがない。」
社員たちは戸惑った。
当然だった。
彼らは知らない。
目の前の女性が歌舞伎町で伝説と呼ばれる店長であることを。
高瀬はあえて経歴を詳しく説明しなかった。
実績だけを語った。
顧客満足度。
人材育成。
組織改革。
離職率改善。
売上向上。
数字で示された成果に社員たちは次第に耳を傾ける。
壇上へ呼ばれた麗華は一礼した。
「私は皆さんの仕事を変えに来たのではありません。」
会場が静かになる。
「皆さんが持っている素晴らしい経験を、もっと活かせる会社にしたいんです。」
それが改革の始まりだった。
最初の三か月。
麗華は何も変えなかった。
会議室にもほとんど現れない。
各部署を回り続けた。
工場。
営業所。
コールセンター。
物流センター。
支店。
現場。
ただ話を聞き続けた。
社員たちは驚く。
役員なのに指示を出さない。
命令もしない。
ひたすら質問する。
「困っていることは?」
「改善したいことは?」
「なぜそう思うの?」
ノートは日に日に厚くなっていった。
三か月後。
改革第一弾が始まる。
名称は「知識共有プロジェクト」。
各部署の成功事例と失敗事例を記録する仕組みだった。
営業部では成約事例を共有。
製造部では改善事例を蓄積。
サービス部では顧客対応のノウハウを登録。
最初は反発もあった。
「忙しくて入力する時間がない。」
「自分のノウハウを公開したくない。」
だが麗華は急がなかった。
成果を出した社員を評価する制度を導入する。
知識共有が昇進評価に加わった。
すると徐々に協力者が増えていく。
半年後。
変化が見え始めた。
新人教育期間が短縮された。
営業成績のばらつきが減った。
クレーム対応時間も短くなった。
何より部署間の会話が増えた。
以前は交流の少なかった部署同士が情報交換を始める。
総務と営業。
開発とサービス。
人事と製造。
会社全体が少しずつつながり始めていた。
その頃。
麗華はさらに大きな計画を進めていた。
集まった膨大なデータ。
顧客情報。
業務記録。
成功事例。
失敗事例。
教育履歴。
数百万件に及ぶ情報だった。
ある夜。
高瀬社長と二人で会議室に残る。
窓の外には東京の夜景が広がっている。
高瀬が尋ねた。
「次は何を考えている?」
麗華はパソコン画面を見せた。
そこには大量のデータが表示されている。
「人間だけでは分析できません。」
「確かに。」
「だからAIを使います。」
高瀬は少し笑う。
「とうとう来たか。」
麗華も笑った。
愛知のノート。
歌舞伎町の顧客管理。
CLUB HARMONYの教育システム。
上場企業の知識共有。
すべてが一つにつながっていた。
「経験を未来へ残す。」
「誰でも成長できる仕組みを作る。」
それが麗華の夢だった。
高瀬は静かに頷く。
「会社改革は成功しそうだ。」
「でも君はそれだけで終わらないだろう。」
麗華は窓の外を見る。
東京の無数の明かり。
その一つひとつに企業があり、働く人がいる。
「終わりません。」
静かに答える。
「これは始まりです。」
その目には新しい未来が映っていた。
一年契約の企業改革。
しかし、その成果は一企業に留まらない。
やがて日本中の企業を変えるAI事業へと発展していく。
誰もがその予感を抱き始めていた。




