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第十一章 経営者との出会い

第十一章 経営者との出会い


CLUB HARMONY は歌舞伎町でも有数の人気店へと成長していた。

売上は安定。

再来店率は業界トップクラス。

離職率も低い。

スタッフ同士の雰囲気も良い。

「働きたい店」として評判になり、求人応募も増えていた。

麗華は以前ほど店頭に立たなくなっていた。

今の仕事は接客よりも経営だった。

新人教育。

顧客分析。

イベント企画。

組織運営。

毎日が学びの連続だった。

そんなある日のこと。

常連客の一人が店を訪れた。

五十代半ばの男性。

穏やかな口調だが、どこか威厳がある。

名前は高瀬隆一。

東証上場企業の創業社長だった。

製造業からスタートし、全国に事業を展開する成功者として知られていた。

高瀬は月に一度ほど来店する。

派手に遊ぶわけではない。

スタッフとの会話を楽しみ、静かに帰る。

そんな客だった。

その夜、高瀬は珍しく麗華を指名した。

席に着くなり言う。

「面白い店だね。」

麗華は微笑む。

「ありがとうございます。」

「いや、本当に面白い。」

高瀬は店内を見渡した。

スタッフたちが自然に連携している。

誰かが困れば助ける。

顧客情報も共有されている。

新人も落ち着いて接客している。

普通のキャバクラではなかった。

「どうやって作ったんだい?」

高瀬の質問に、麗華はこれまでの取り組みを話した。

顧客データ。

勉強会。

おもてなし。

夢の共有。

教育制度。

スタッフの成長記録。

高瀬は真剣に聞いていた。

やがて静かに笑う。

「君は経営者だね。」

麗華は苦笑した。

「私はただの店長です。」

「いや違う。」

高瀬は首を振る。

「私も四十年経営をしてきた。」

「だから分かる。」

その言葉には重みがあった。

高瀬は続ける。

「君はキャバクラを経営しているんじゃない。」

「人が成長する仕組みを経営している。」

麗華は黙った。

その表現は初めて聞いた。

高瀬はグラスを置く。

「実はな。」

「うちの会社にも同じ問題がある。」

営業部。

製造部。

管理部。

それぞれが優秀な人材に依存している。

ベテランが辞めるとノウハウも消える。

顧客情報も属人化している。

教育も担当者任せ。

多くの企業が抱える課題だった。

「でも君の店は違う。」

「知識を共有している。」

「経験を共有している。」

「成長を共有している。」

高瀬は真っ直ぐ麗華を見る。

「この仕組みを会社経営に使えないか?」

麗華は驚いた。

今まで考えたこともなかった。

キャバクラの仕組みが上場企業で役立つ。

そんな発想はなかった。

高瀬はさらに言う。

「おもてなしの心も同じだ。」

「客を大切にする。」

「仲間を大切にする。」

「相手を理解する。」

「業界が変わっても本質は同じだ。」

麗華の胸が高鳴る。

頭の中で点と点がつながり始めていた。

顧客管理。

人材育成。

情報共有。

経験の蓄積。

すべては業界を超えて活用できる。

高瀬は名刺を差し出した。

「今度、うちの会社を見に来ないか。」

「工場も営業現場も見せる。」

「君の視点で意見を聞かせてほしい。」

麗華は名刺を見つめた。

上場企業の社長からの正式な招待。

数年前まで売れないキャバクラ嬢だった自分には想像もできない出来事だった。

高瀬は最後にこう言った。

「神崎さん。」

「君は夜の世界だけにいる人じゃない。」

「もっと大きなことができる。」

その言葉は、麗華の心の奥深くに残った。

営業終了後。

誰もいない店内で一人座る。

スマートフォンのメモを開く。

そして新しいページに書き込んだ。

『経験を共有する仕組み』

『人が成長する仕組み』

『業界を超えて活用できる』

その下に、さらに一行。

『AI で実現できないか?』

麗華は自分で書いた文字を見つめる。

その瞬間。

愛知で顧客ノートを書いていた頃から続く夢が、初めて現実の形を持ち始めた。

歌舞伎町の一店舗から始まった挑戦は、今まさに企業経営という新しい世界への扉を開こうとしていた。

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