3-19 朝日を迎えて
昨夜は遅くまで言い争ってしまったが結局は俺が負けた。俺は全然寝付けなかったが、最終的には疲れからか寝てしまった。
その間、彼女は一睡もせずに夜を明かしていた。
俺がベッドで目を覚まして起き上がると彼女は警戒を緩めずに眠そうな様子を見せることなく窓の外を確認したりドアを定期的にチェックしたりしていた。
「おはよう。よく眠れた?」
昨日とは違う、安心したように微笑みかける彼女は昨日の重たい雰囲気は薄れてはいたが、陰ではいまだにそれらは溢れ出ていた。
これまでもこの空気は纏っていたのだろう。それでも俺は気がついていなかったんだ。彼女の苦しみに。
「うん。おかげさまで…。」
「ラウルって意外と頑固な性格してるんだね。」
「昨日は大変だったよ。」
「それは…。俺も言いたいことはあるけど、シロの言葉に甘えたのは確かだし…。」
「ふふっ…。だったら朝食は作ってもらおうかな。私ちょっと疲れたから…。」
緊張が解けて彼女は糸が切れた人形のようにベッドに頭を埋めた。
「まぁそれくらいはしないとな…。食材勝手に使わせてもらうからな。」
そう確認を取ろうとした時には彼女はベッドにうつ伏せになったまま眠ってしまっていた。
「まぁ…軽くなにかつくるか。」
用意したのはただのパンと温かいスープ。そして果物を適当に切ったものだった。
食卓に並べて朝の身支度もついでに済ませるとシロが匂いに釣られて起き上がってきた。
「あれ、寝てた。あぁ朝ごはん…ありがと。」
たったの数十分程度しか寝ていない彼女はゆっくりと起き上がって席に着いた。
「いただきます。」
少し寝ぼけながら彼女はゆっくりと食事を始めた。
「お前あの少しの時間で寝ぼけたのか…。」
「そんなことはいいから、速く食べて学園に行くよ。」
「また狙われたりしないのか?」
「まぁ…そうだろうね。だけどもう気にしなくていいよ。後は自分でなんとかするから。」
「昨日の様子からするとそこまで強敵じゃない。だからラウルはいつも通りの生活に戻りなよ。」
「俺がそんな言葉で納得するとでも思ってるのか?」
頬杖をつきながら昨日のことでわかってるはずだろと意地悪そうな目を向ける。
「…。」
「あなたに何が出来るって言うの?」
「正直に言うとラウルーレンス。あなたの目的がいまいちわからない。どうして危ない所に自ら飛び込むような真似をするの?」
そんなこと言われたってこれが俺のやるべきことだっていうのは変わらない。
「助けたいと思ったから…じゃ駄目か?」
「だったら約束して欲しい。」
彼女はコップに入った水を飲み干して真面目な顔をして話を切り出した。
「やるからには徹底的に。人を殺すようなことがあっても決して躊躇わずに自分の命を最優先で考えて。あなたが踏み込もうとしている領域は安息なんて得られない世界なんだから。」
半分脅すようにそう告げた彼女の言葉はやめるならここしかないよとも言っているように思えた。
これ以上進めば覚悟を決めるしかない。ここから先は命が関わる問題。
「わかった、俺には俺の信条がある。絶対にシロフキンシエ。君に安心して眠れる日常を与えてみせる。」
俺には俺の信念がある。決意がある。もう目の前で誰にも悲しい思いはさせない。
「…。そっか。じゃあ、期待してる。」
食べ終わった彼女は片付けるために立ち上がって振り向きながら答えた。顔は見れなくともユサユサと揺らしている尻尾を見れば彼女の感情は読み取れた。
「あぁ。2人で頑張ろう。あの3人はどうすればいいんだ?捕まえて衛兵に引き渡すのか?それとも本当に…殺す…のか?」
「殺さないに越したことはないけど引き渡すにしても学園に在籍されているままじゃいずれまた襲われる。学園はある意味放任主義なところがあるから逮捕されたところで除籍処分にはしたりしない。」
「まぁそこは学園の悪いところかもしれないよな。あくまでも提供するのは環境。そこから先は自分の好きなように、なんて…。」
アネモネ学園。学園側は生徒を教育しようなどとは思っていない。彼らは環境を整え、そこで生徒自身のやりたいことをやらせる。
そうしている理由は一人一人の才能や努力を引き延ばすためとも言えるだろう。一人一人の目標を自由に達成させてその成果を共有してもらう。
学園の生徒には研究成果とも呼べるものを申請されれば学園側に提供する義務がある。
学園はその成果を集めてさらに学園内の環境を整えたり世界の発展にそれらを費やす。
アネモネ学園の存在意義は世界の発展なのだろう。
片付けを終えて最終的な身支度を終えると2人は戸締りをして学園へ向かおうと扉を開いた。
「流石に人通りも出来てきたから今襲ってくるようなことはないと思うけど警戒は怠らないように。」
「わかってるって。そういえば今日は魔術の講義があったな…。俺はもうひとつその後に講義があるんだがシロはどうなんだ?」
「私は魔術の後は錬金術の講義がある。だから会うとしたら夕方になるね…。安全を期すために人に見えやすい中庭で待ち合わせしよう。」
「錬金術?シロもジルグと同じように賢者の石に興味があるのか?」
「はぁ。そんなわけないでしょ。私がその講義を受けているのは銃を作るため…。銃は中々手に入らないから自分で作れたら今後も楽になるから受けてる。」
「錬金術って銃とかも作れるのか?」
「まぁ錬金術の副産物的なものだけどね。錬金術師のほとんどは賢者の石に辿り着くために日々研究を重ねている。その過程で様々な物質を変換させることで別の物質に変える。その容量で銃を作れたら良いなと思ってるってわけ。」
団地の階段を話しながら降りて学園への坂道を登って行こうとした時「あ…」という声が聞こえた。
振り返るとそこにはカリナが制服で立っていた。おそらく彼女も登校途中なのだろう。
だか彼女は青ざめた表情でいきなり走り出してすごい勢いで坂を走り登って行った。
「ラウル、知り合い?」
「あー。うん。」
マズイことになった。多分勘違いされた。彼女のあの表情でなんとなく察しがつく。
若い男女が朝から一緒に登校。必ずしもそういうことだというわけではないがカリナはそうだと思ってしまったのだろう。
【あれは絶対に勘違いさせたな…。】
弁解するのが面倒くさくなりそうだ。




