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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第五章 ヤンデレ少女、至福の時……!
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迫りくるタイムリミットなんだが


『はっはっはっはっは……』


 ――走る。

 ひたすら走る。


 足を止めたら死ぬ。

 俺が死ぬ。

 本能がそう告げている。


 だから走る。


『……!!!!』


 俺は今、何かに追われている。

 ――足を止めたら、殺される。


 辺りは真っ暗。

 足元すら見えはしない。


 だが関係ない。

 何にぶつかろうと、何に躓こうと走り続けるしかない。


『はっはっはっはっは……』

『……グルゥゥゥ!!!』


 近付いてくる。


『……グルァァァァァ!!!』


 追いつかれる…!!!


『クソ……ッ!!!』


 ――ガシリ!


 掴まれた――!!!

 終わるのか?ここで終わるのか、全て――!!!


 しかし、それは――。


『走れ!こっちじゃ!!!』


 ベロニカ。

 ベロニカだ。


 バケモノ(・・・・)じゃない。


 ――ベロニカ。


 ベロニカが俺の腕をつかみ、ぐんぐんと引っ張っていく。

 俺を追うバケモノとの距離が、開いて行く。


 ベロニカの細い腕。

 俺の左腕を掴んでいる。


 左腕。

 俺に左腕がある(・・・・・・・)


 そんなはずがない。

 ならここは夢なのか?


 そして――。


 ――バタン!


 俺の背後で扉の締まる音。

 どこかの部屋に入ったのだ。


 それと同時に、消えていく俺を追っていたバケモノの気配。


 ――逃げ切れた。


『……はぁ……はぁ……』

 

 俺はその事実に安心し、その場に座り込んだ。


『なんなんだ……あれは……』

『……』


 無言。


 ベロニカは沈黙で返した。


 ギュ。


 ベロニカは俺の手を引いて、へたり込む俺を無理やりに立たせた。


『エドガー』

『……なんだよ』

『お前の番が来たようじゃ』

『……俺の番?』


 ――こいつは一体何を言っているんだろうか。


 ベロニカはゆっくりと俺の背中に腕を回し……やさしく抱きしめた。


『妾はお主に何があってもお主と一緒じゃからな。何が起こってもお主がどのようになっても。永遠にな』

『突然何言ってるんだ、ベロニカ……?』

『だからの……エドガー……!』


 顔を上げたベロニカは……ベロニカの目は、金色(・・)に輝いていた。


『……受け入れよ(・・・・・)


 その獣の唸り声のような声を背後から聴いた時、俺は悟る。


 逃げられてはいなかった――と。


 背後を振り向く。


 そこには――。


 大きく口を広げたバケモノ(・・・・)


 俺の背の何倍もあるほど、ばかでかい口腔。

 その周りにはびっしりと鋭い牙が生え。

 鼻が痛くなるほどの強い刺激臭が、その奥底からは漏れている。


『……俺は』


『……オレダ』


 ――バクン!!!


 俺は、それに喰われた(・・・・)



***



「…………ぐぁぁぁぁぁ!!!」


 そのあまりの痛みに、俺は覚醒した。


――喰われた……!俺が、喰われ……!


「ぐぅ……あぁ……はぁ……はぁ……」


 いや……ない。

 痛みは、ない。

 痛みは幻。

 喰われたのも夢。


 ――そこはいつもと変わらぬ、俺の部屋。

 バカでかいベッドの上で、俺の体に纏わりつくように三人の少女が眠っている、いつもの場所。


 喰われてはいない。

 死んではいない。


 ――まだ俺はここにいる。


「……エドぉ……エドォ……」


 そして、ふにゃふにゃと頬を崩して寝ているアリサの温かさでそれをはっきりと実感した。


「ふよ……ぅん……」


 もしょもしょと俺の服を握りしめるエリーに、ほっとした。


「ふきゅ……えどがーさぁん……」


 ぎゅむ、と俺の腰を抱き締めているセルティに、苦笑する。


 三人とも気持ち良さそうに寝ている。


 まだ真夜中だ。

 変な悪夢で起こされてしまったようだ。


 ――少し風に当たるか。


 俺はそっと絡みつく三人を剥がして(・・・・)、ベッドから降りた。



***



 縁側。


 夜風が俺を撫ぜる。


「……きもちいな」


 冷たい風が火照った体を冷やしてくれる。


 そして――月。


 今日は半月。

 綺麗だ……。


 ――バク……バク……バク……。


 心臓の鼓動が、うるさい。


「――うるさい」


 ドクン……ドクン……ドクン……。


「――とまれ」


 ドク、ドク、ドク、ドク……!


「……むしゅあむしゅあ、うぬ?エドガー、なにしておるのじゃ?」


 てくてく……とそこでベロニカが森の奥から研究所へと帰って来た。

 もぐもぐと口を動かしながらぺたん、とおしりを俺の隣に下ろす。


「悪夢に起こされた」

「ほおほお」


 がぶり、とベロニカは骨付きの肉にかぶりつく。


 もぐもぐとそれを咀嚼し、飲み込むと。


 でもまぁ――と前置きをして。


「――それだけじゃ、ないじゃろ?」


 口角を吊り上げ、にっとベロニカは笑う。


「……うるせえ」

「んぬ?」


 とぼけるようにベロニカは笑った。

 

 ――魔獣になったこいつと契約してから、ベロニカ(こいつ)のことが、わからない。

 いや、俺とベロニカは今や一心同体。

 魔力や栄養、エネルギーすら共有している。

 本当はわかってはいる。こいつが何を考えているか。こいつは、人間なのか、ただの人の皮を被った魔物なのか。そして俺が今、どうなりつつあるのか。


「――ずっと食ってんな、お前」


 むちゅむちゅと小さな頬を膨らませ咀嚼を続けるベロニカ。

 小動物のようだ。

 ――その口の端から垂れる、魔物の血がなければ。


「なんせ、お主の分も食わねばならんからのぉ……」

「いつも悪いな、感謝してるよ」


 ――本当だ。

 こいつの俺を思う気持ちは本物だ。

 俺を心配し、俺の力になりたいと思う気持ちは、俺が一番わかっている。

 例え俺との契約がそうさせているのだとしても。


 もしゃもしゃ、とベロニカの頭を撫でる。

 ベロニカはぴくっと体を竦めたが、そのまま嫌がることなく、俺のそれに身を任せた。

 

 ――俺と契約する時、もうベロニカに人間の意思は残っていなかった。

 今のこいつは、俺とパスをつないでいるお陰で、なんとか人のように振る舞えているだけだ。


「んぬ?」


 俺の視線にこてっと首を傾げ、不思議そうに俺を見るベロニカ。


「なんでもない」


 ベロニカの髪から手を離す。


 そして――。


 俺は自分の右腕だったもの(・・・・・・・)を掲げ、月の光に照らした。


「ほう……」


 それ(・・)を見たベロニカは、小さく感嘆の声を漏らす。

 それはもう、ただの人間の腕ではなかったからだ。


 ――俺の右腕であって、そうではない物。


 びっしりと真っ黒の鱗に覆われ。

 もさもさとその合間から真っ黒な毛が生えている。

 そして赤黒い血管が、どくり、どくり、と波打っていた。


 

 月の光で妖しく輝いている俺の赤黒い右腕は――まるでバケモノ(・・・・)の腕のようだった。


「……エドガーよ」


 それにゆっくりとベロニカは自身の魔獣化させた掌を重ねた。


 ごつごつと鱗が隆起したそのベロニカの右腕。

 それが俺の肌を這いながら、蛇のように俺の右腕に絡みつく。


「光がまぶしいか?普通の、清廉な体が羨ましいか」


 そのまま俺の右腕をさらに高く掲げ、俺とベロニカの掌を持ち上げていき――。


 月の光(・・・)をその掌で隠した。


「――妾もおる。二人おれば光にも負けん」


 暗闇の中浮かび上がるベロニカの赤い瞳は、月に負けないくらい美しかった。

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