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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第四章 魔女と魔獣
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アリサ3

 最近エドが変だ、と思う。


 ご飯を食べる量が減った。

 あまり昼寝をしなくなった。

 ときおりキリッとした顔で考え事をしている。


 ――かっこいい。


 今日もそうだ。


 地下の訓練場で魔術の特訓をした後、ソファーに寝っ転がりながら何か思案している。


 緩み切った感じの幸せそうなエドガーも好きだが。

 今日みたいな若干冷たそうで、まじめな感じのエドガーもなんだかドキドキしてしまう。


「お疲れ様、エド。紅茶飲む?」


 エドの顔を覗き込むように聞いた。


 こういう時、少し迷ってしまう。

 本当は抱き着きたい。

 だけど、なんだかそれは恥ずかしい。


 だから結局このくらいの距離感でいる。


 エドガーは私に気付くとふっと笑みを浮かべた。


「アリサ。ああ、頼む」

「うん。少し待ってて」


 ――だけどこのくらいの距離感が、何となく好きだ。


 私が紅茶を持っていくと、エドはむくりと体を起こして、紅茶のカップを受け取る。

 私はエドの隣に座ると、同じように紅茶に口をつけた。


 お尻の辺りが何だか暖かい。

 エドの温かさだ。


「変なこと聞いてもいいか?」


 すっとエドの表情が陰る


「何?エド」

「もし……俺が」


「エドが?」


 何かをいいかけ。

 そして、止めた。


 エドは再び笑顔を浮かべる。


「俺がイメチェンするって言ってらどうする?」

「いめちぇん?」

「あーそうだな。あれだ。髪形変えたりとか、そういうのだ」

「変えたいの?エド?」

「変えたいっていうよりは変えてもいいかなって」

「……ふふ、何それ、変なの。今までそんなこと言わなかったのに。どんなのがいいの?」

「そう言われると特にな……」


 特にないのだろう。


 この人は気まぐれなのだ。

 マイペース。


 だからこそ、人を尊重する。

 人それぞれに、尊重されたい思いがあることを、身をもって知っているから。


「じゃぁ、かっちり仕上げるか、それとも自然な感じがいいか、どっちがいい?」

「自然な感じで」

「……それじゃ今とほとんど変わらないじゃない」

「なら、髪の長さを整えてほしいな。若干うっとうしい」


 そういってエドガーは自身の前髪をいじった。


「なら私が切ってあげるわ。今からする?……イメチェン」

「イメチェン……てか、ただ髪切るだけだけどな……まぁ任せる」

「了解よ」



 ***



 ――チョキ、チョキ。


 エドガーの髪に鋏を入れていく。

 若干硬めのエドガーの髪。

 ハサミを入れるときが一番、エドの髪を意識をして触る。


 色。

 その手触り。

 髪のつや。

 髪の匂い。

 柔らかさ。


 いろんな情報が入って来るのだ。


 ある程度さっぱりするまで切ったらエドに聞いた。


「これくらいでいい?ほら鏡」

「ん」


 私に手渡された鏡を覗き込んで、いろんな角度から自身の髪をチェックするエド。なんか、かわいい。


「おっけーだ」

「ふふ、おっけーね。よかった。頭、洗ってあげようか?」

「そうだな、頼む」

「じゃぁこっちきて」

「ん」


 水場でしっかりと洗ってあげた。

 エドは気持ちよさそうだった。


 その後は、縁側でエドと並んで座り、何となく庭を眺める。


「……平和だな」


 ――さわさわ……


 と木々が風で穏やかに揺れる。


「そうね……」


 こてん、と首を傾け、エドの肩に乗せる。

 そしてそのままちらり、とエドを見た。

 エドは森の向こうをじっと見つめている。

 私はそんなエドに体を預けて、ただ彼を見ているだけ。


 穏やかな時間。


 小さな幸せ。


 でもこれが、私の一番大切なもの(・・・・・・・・・)


「エドガー」


 彼の名を呼ぶ。


「なんだ?」


 森の向こうを見たまま、口だけ動かすエド。


「呼んだだけ」

「……なんだよそれ」


 そういいながら、エドは小さく噴き出す。


 エドの笑顔。


 それを見れただけで嬉しくなる


「エドガー」


「…………」


 今度は返事をせず、彼は柔らかな表情で空を見上げた。


「……………………」


「……………………」


 心地の良い、無言。

 心がなんだかあったかい。


「アリサ」

「何?」


「寝っ転がっていいか?」

「うん」


 私は頭を持ち上げ、エドから離れる。


 そうするとエドはそのまま上半身を後ろに倒して、うーんと背伸びをした。

 私もエドに寄り添うように横になる。


 エドが腕枕をしてくれた。


 そのまま私は幸せな気分のままで、眠りに落ちていった。



 ***



「……エド……エド……エド……!」


 暗闇の中、自身のエドを呼ぶ声で目を覚ます。

 気付くと、ベッドに寝かされていた。


「……起きましたか、アリサ様」


 エリーと、もう一人。

 私とそっくりな女。


 肌は褐色だが。


「エドは……?」

「寝ていますよ」

「……そう」


 ふふ、と笑う。

 いつも通りのエドだ。


 私はベッドから立ち上がった。


「アリサ様……!」

「大丈夫よ、心配しないで」


 ――最後に、顔だけは見ておきたいから。


「おぬし……!」


 謎の女が私の前に立つ。


 ――鬱陶(うっとう)しい女。私にはもう、少しの時間しかないのに。


「邪魔よ、どきなさい」

「行かせるわけにはいかぬ。エドガーよりお主をこの部屋より出すな、とそう命じられておる」

「……」


 ――本当に邪魔だ。

 最後の願いくらい、こころよく聞き届けてくれないものか、と思う。


 す、と目の前の女を睨んだ。


 その瞬間――。


 ―――ガキンッ!


 その女の時は止められた。



 一瞬。



 一瞬で眼の前の女は氷の牢獄の中にとらわれたのだ。


 いかに私と同じような(・・・・・・・)魔獣もどきとは言え、すぐに出て行くることはできないだろう。


 それにもともと大分疲弊していた。

 私の敵ではない。


「……ア……アリサ……さま」

「エリーは、いいの?」


 ちらりと黒狼の少女を視界に入れる。


「……そっちの方がエドガーのためですから」

「……ふふ、あなたのそういうところ、好きだったわ」

「ありがとうございます」

「エドガーを幸せにしてあげてね」

「……はい」


 そして私はその部屋を後にする。



 ***



「――すぅ――すぅ――」

「――くぅ――ぅ――」


 リビングでは兄妹のように寄り添って、エドとセルティが一つのソファで眠っていた。


「……本当に仲がいいわね」


 むすっとする。

 僅かな嫉妬。


「――でもこれなら大丈夫そう」


 ふふ、と微笑む。

 気の抜けた顔で眠りこけるエドのよだれを指で拭った。


「本当に世話が焼けるんだから」


 そしてタオルケットを二人にかける。


「髪……やっぱり似合ってないわ。いめちぇん失敗ね」


 エドの髪と寝顔を見比べながら、何となくそう思う。

 私は黒の方が好きだ。

 若干白の混じった今のエドの髪も、それはそれでいいところはあるが。


「……ほんと、無茶ばっかりするんだから」


 エドの前髪をどかして、寝顔をもっと見やすくした。


「――ん」


 ちゅ、とそのおでこにキスをする。


「ふふ、お仕置き」


 いつか監禁した時を思い出す。


 ――あの時、実は怒りなど一日で収まっていた。


 ただどうしようもなく不安だっただけ。

 それをエドにぶつけてしまっただけ。 


 でも朝から晩までエドガーにつきっきりでトイレからお風呂までお世話するのはとても楽しかった。


 ……いろんな意味で。


「なんだかんだ言って、エドもあまり抵抗していなかったし――」


 きっと私達は相性がいいのだ。


 そこで、窓から光が射した。


「――あぁ――」


 ――もう、行かなくては。


 最後に、エドガーの顔をじっと見つめる。


 自身の記憶に焼き付けるように。


 その鋭い眼もと。

 日本人には珍しく、高めの鼻。

 唇もすっとしている。


「かっこいいよ、エド」


 ――《《私の愛せた、たった一人の人》》。


 エドガーの頬が、濡れている。


 涙だ。


 私の。


「――ん――」


 そしてやさしく口づけをした。


 エド、少し汚れちゃった。


 ――ごめんね。


「じゃぁ、私、行くね。ありがとう、エド。どうか幸せに生きて」


 この日、最後は笑顔で。


 私はエドガーにサヨナラをした。

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