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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第四章 魔女と魔獣
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隷属術なんだが

 ――――。



「戦闘でとにかく疲労させて、それでもだめなら魔力を残りカスまで搾り取ればいい……てことか」


 “そうじゃな。基本的に魔力の暴走はそれで止まるじゃろう。魔獣化の進行もな”


 ソファに腰を下ろし、退屈そうにプラプラとベロニカは足を振る。

 そしてどこから取り出したかはわからないが、何やらスナック菓子のようなものをつまんでいた。

 

“……んぐんぐ……なんじゃ?”


「いや……夢の中で食っても意味ないだろ?」


 そう、これは俺の夢での話だ。

 まだベロニカとしょぼい(・・・・)作戦を組んでいたころの話。


 真っ白な空間の中、溶け込んでしまいそうなほどの白い肌、白い髪の少女。そしてさらにそれらに引き立てられ、真紅に輝く瞳。

 それで俺をじとっと見つめながら、わずかに首を竦めた。


“これだから日本のお子様はのう……!” 


 ベロニカはやれやれ、とあからさまに俺を煽る。


 ――いや、それでも意味ないだろ!?


「あと――」


 スナック菓子のことは置いておく。

 ……こちらの世界に来てからそのようなものは当然食えなかったため、俺も少しつまんでみたくはあるが。


「それで戻らない場合について、前に少し話したよな?」


“……というと?”


「魔力をほとんどすべて消費させ魔力の暴走が止まっても、魔獣化が解けない場合だ。その時はベロニカのように封印し、精神の安定化を待つことになるわけだ」


“前話した通りだの。とりあえず問題を肉体の時間ごと凍結し、精神のみの回復を図るわけじゃ。……それに何か引っかかる所でもあるのか?”


 あるかないか、と聞かれたら――あるのだ(・・・・)


 前提条件が完全に間違ってしまっている場合がある。


 俺達はこう考えるべきなのだ。

 その安定化された精神は、果たして永い時の経過により取り戻したものであるのか、ということを。

 

 なぜなら、俺は封印された当時のベロニカを知らない。

 出会い、話したこともない。

 おぼろげな僅かな記憶を辿ったのみ。


 そう、今のベロニカの精神とは。

 人間の心を取り戻したのではなく――逆に魔獣の影響を受けきった後、生まれた物なのかもしれないのだ。 


「……ベロニカ。お前にとって人間とは何だ?」


“……?おかしなことを聞くのう、お主も”


「……お前にとって俺は何に見える?アリサを救うための協力者?夫とそっくりな男?それともお前が今すぐにでも殺したいと思う――ただの獲物か?」


“…………”


 ベロニカが貫くは――無言。


「ッ……!」


“く……くくく……!”


 ベロニカから漏れる、笑いをかみ殺すような音。

 徐々に吊り上がっていく口角。


「お、お前――本当は――!」


 つまり、敵だったのか――?最初から――?


“く……ひひひひ……!”


 騙されていた。

 完全に信じ込んでいた。

 俺が弱っていたところに付け込まれたせいか、全くこいつの言葉を不審がらずに丸呑みしてしまっていた――!


 とまぁ――この時はさんざんに焦ったわけだが。




“ぶわっはっはっは!何を言い出すかと思えば!あはははははは!”




 そこには神妙な顔をしている俺の顔を見て、爆笑するベロニカがあった。


「……あ?」


 ――こっちはまじで焦ったんだぞ?


“んっ!んんっ!コホン!”


 俺の人の心臓をえぐり出すような視線に流石に煽りすぎたと思ったのか、わざとらしくベロニカは咳払いをする。


“ま……まぁの?お主の心配事はわかる。つまり、妾のように封印することは問題の先送りにすらなっていなく、ただ事態を悪化させているだけかもしれぬ、と考えたわけじゃ”


「ああ。だがそんな様子じゃ心配はいらな……」


“……わからぬ”


「……!」


 わからない?わからないと言ったのか!?


“今、妾は人間として自然な振る舞いをしているだろうとは思っておる。

 しかし妾自身の肉体の時間の針が、再度回り始めたとき。

 そこに妾の精神が残っていることに保証はできんのだ”


「魔獣化したら精神すら、戻る保証はないってことか――!?」


“――そうなる。何せ実例がない。魔獣化した肉体に妾の精神が戻った時、妾は確実に歪な存在となっておるだろう。それにな――エドガーよ”


「なん……だよ」


 ベロニカはそこでふっと表情を和らげる。

 しかしそれは俺に向けてではなく。

 自分に対するものだったように思う。


“妾は……あまりにも魔獣化している時間が長すぎた。妾にはわかるのじゃ。もう妾はもう後戻りできないところまで来ておると。肉体や精神はもちろん、その罪もな”


「ベロニカ――!」


“じゃからの”


 ぴょん、とソファからジャンプする少女。

 俺のも前で、髪がぱさりと扇のように広がった。


“そう言うときのため、ひとつ妾らがたどり着いた魔術の深淵の一つ、隷属術(・・・)についてお主は学ばねばなるまい”


「れいぞく……じゅつ?」


“そうじゃ。その名のとおり、一つの生命をなんであろうと魂ごと支配し、隷属させる術。そして、奴隷を支配する術式の元でもある”


「……奴隷……!」


 エリーを縛り上げていた術。

 人殺しすら強要できる――非人道的な術。


 僅かに苛立ち混じりの声を上げた俺をベロニカはちらりと見ると、そのままぐるぐると俺の周囲を回り始めた。


“……お主、奴隷と言う物をしっておるか?”


 その足を止めることはせず、ゆっくりとベロニカは語り掛ける。


 俺はそのベロニカを眼で追いながらも、話を聞くことにもまた注力する。


「……当たり前だ。以前エリーも苦しめられた」


“ふむ。そうじゃの。今も人の世ではいろんな用途でもちいられておることじゃろう”


「……そうだろうな」


 全く不本意だが。


“古来。魔法がまだ生まれるより以前の古来じゃ。その時代に一つだけ魔力を使う技術があった。当然、現象を引き起こす属性魔術の類ではない。なんだと思う、エドガーよ”


「……知るか。時間の無駄だ。勿体ぶらずに教えてくれ」


“それもそうじゃの”


 ふぅ――と溜め息を吐く。

 それがちょうど俺の耳元を通り抜けた。

 そしてベロニカはくるくると俺の椅子の周りを歩くのを止め。

 ちょうど俺の前で止まった。


 ぐぃ、とベロニカは顔を寄せる。


“もちろん、これは妾とエドガルド以外は知らぬ。あまりにも恐ろしい術じゃからの。当然今では失われておるよ”


 ――ごくり。


 俺の喉が鳴る。

 ――魔術の祖の一人である、エドガルドが命を張ってでも守り抜いた魔術の神秘の一つ。 

 そう考えただけで、柄にもなくそれに対する興味、そして興奮が俺の身を支配した。


 そして、ベロニカは僅かな躊躇いの後、口を開いた。


“魔獣の魂を、自身に隷属させる術じゃ” 



 ***



 俺がベロニカに行使したのは――隷属術。


「ひとまずは、成功したか……」


 ベロニカより習得したこれにより、なんとかベロニカの隷属化に成功した。


 俺の魔力――つまり血で俺の印を描き。

 そのうえで大量の俺の魔力をその存在を注ぎ込む。

 これにより、その魔獣の体内――つまりベロニカの体内において俺の魔力と魔獣(ベロニカ)の魔力がぶつかり合い、支配権を決めることとなる。


 魔力をほとんど使い切ってしまっていたベロニカ。

 そのため俺の魔力による支配は簡単に完了し、今ベロニカの全身を俺の魔力で染め上げているだろう。



「くッ……」


 ――ズキリ。


「……うぐ……」


――ギリギリギリ。


「ぐ……ぁぁぁぁあああああああ!」


 俺の頭に痛

 俺は無事な方の手――左手で頭を押さえる。


 無くなってしまった指の先がただ。

 視界もおぼろげだ。

 足元もふらふらとしてきた。


 隷属術式。


 これは魔獣の肉体を乗っ取るだけでは終わらない。


 肉体の魔力を俺の色で染め上げた後にやってくるは、魂同士の契約だ。

 魔力の属性、それを左右すると考えられる、精神的な要素――つまり魂。

 これを塗り替えたことにより、ベロニカと俺の魂の間でパス(・・)の形成を行う。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ――ギリギリギリギリギリ!!!


 脳がかき回されるような痛みが、俺の中で暴れまわる。


「ぐ……あぁぁああああああああ!!!」


 ――ごぼぁ。


 そのあまりの気持ち悪さに、口から吐瀉物が溢れ出した。


――ぐりぐりグリグリ……グニッ!


「う……ぐぅぅぅぅぅぅ……!」


 自身の脳中で、異物が無理やり作り出される感触。

 それはまるで一本の糸のよう。

 それが俺の額から飛び出、ベロニカへと向かっていく。


 「……ァッ!……んッ!……」


 先ほどから白目を剥いてビクビクッ!と痙攣し続けるベロニカ。


 ――俺と同じような苦しみか、それ以上の苦しみを受けているのだろうか。


 俺から飛び出た魔力の糸がするすると伸び、ベロニカの額にぴたりとついた。


「あと、少しだぞ、ベロニカ――!」


 これで――終わりだ。


 俺はぐちゅり、とベロニカの額を先のなくなった指を押し付け、びちゃりと血を塗りたくった。


 これにより、()――つまりパス(・・)の挿入口を作り出す。

 そして糸をねじ込んだ。


「……ウギッ!……ガァァァァァアアアアアア!!!」


 響き渡る、ベロニカの絶叫。


 だが躊躇はしない。

 糸を無理やりにでもベロニカの奥へと進めていく。


 そして目的地へと到達し――感じる。


 ベロニカとパスが繋がれたことが。


「――ッ――!――くぅ!――あぁ――!」


 ビクビクッ!と再度大きく体を痙攣させると、ベロニカはぐったりと横たわった。


 ――終わったのだ。

 隷属の契約が。


「……はぁ……はぁ……ぐ……」


 ……自身の息が荒い。


「……怪我の……応急処置をしなくては……」


 まずベロニカの親指を確認する。

 俺に噛み千切られた親指は、驚くことに徐々に再生を始めていた。

 

「魔獣の肉体……か」

 

 契約が完成し、パスがつながった今。

 俺はベロニカの肉体の現状が手に取るようにわかる。


 もう、ベロニカは人間ではなくなっていた。

 その肉体は、言ってしまえばヒトの皮を被った魔獣であった。

 魔力がほとんどなくなり、これ以上の魔獣化が抑えられたとはいえ、ベロニカはもう戻すことができない程魔獣化が進行してしまっていた。


 そして俺にダイレクトに伝わって来る、その恐ろしいほどまでの回復力、そして絶えず作り出される膨大な熱量。


 それらを維持するために、魔力が優先的に働いている。

 それらが一体何の魔術かもわからない。

 だが魔獣はこの魔力を操る技術により、その強靭な肉体を生み出していたのだ。

 

「――魔獣は肉体の強化はこれだったんだな」


 人間の魔術とは違った形で魔力を利用していたのだ

 

 次に俺の傷跡を確認する。


「……やべぇな、これ」


 未だにぼたぼたと血があふれ出している、俺の指を見て、初めてそのヤバさに気付く。


 ――傷自体は問題ではない。

 この程度、止血して傷が塞がるのを待てばよい。

 気を取り戻したベロニカに聞けば、もしかしたら欠損を治す方法もあるかもしれない。


 そう――一番の問題は――! 




「これ、アリサに見つかったらまたしばらく監禁(・・)されるかもな……」


 ベロニカと俺の血が飛び散った自身の体を見下ろして、俺はただ苦笑いを浮かべるしかない。



 ――全身血まみれ、ついで(・・・)に指欠損した俺が、これまた血まみれ少女を担いで帰る――。 


 これを見た時アリサ達がどんな反応をするのかを、今の俺は想像したくはなかった……。

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