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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第二章 奴隷の少女と城塞都市の領主
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俺VSグラムなんだが

 エリーと話した後、俺はグラムの待つ修練場へと向かう。

 今晩は月が出ている。

 満月だ。


 そして俺は修練場に辿り着いた。 

 その中心には、ハンマーを地面に突き刺し、仁王立ちのグラム。


 月の光を全身に浴び。

 その影が長く長く、伸びている。


「……来たか」

「ああ」


 お互い言葉は少ない。

 俺達には戦う理由がある。殺す理由がある。

 それだけで、余分。

 殺す相手に、言葉などは必要ない。


「お主、儂の元に来んか?」


 ハンマーをごぼりと地面より抜きながら聞くグラム。


「すまないが、俺には師匠がいるんでな。そいつから離れる予定は今のところない」


 俺も腰を低くし、いつでも魔法を行使できるように、イメージを浮かべる。

 グラムも同様。

 体を低く、そして両手でハンマーを構える。


「ふむ、それは残念だ」


 前座は終わり。


 今から始まるのは――ただの殺し合いだ。


「――ゆくぞォオオオオ!!!!」


 ドカリと地面を強く蹴り、咆哮しながらグラムが大きく加速する。


 グラムの魔術か――その身に爆炎をまとい、迫りくる。

 グラムは数秒の内に俺との距離を大きく詰めた。


「――ッ!」


 それに合わせ、俺は足元の土を隆起させ、壁を作り上げる。

 だがそれは地面に垂直に立てるのではなく、俺側の斜めの方向に。

 その魔法の地面の隆起した反動と、高く斜めにそびえ立ったそれを蹴ることにより、グラムと距離を取りつつ、隆起した土を壁とする。

 だがそんな壁はすぐハンマーで粉微塵に粉砕された。


(――まずは、だ)


 グラムから距離を取りつつ、俺は魔獣の骨片を多数空中にばらまく。

 そしてその一つ一つに込めるのは、いつかのドラゴンのブレスをも上回るほどの熱量。

 骨片が紅蓮に燃え盛った瞬間――それらを全て空間魔法でグラムへと飛ばす。

 さながらそれは熱線(・・)のよう。

 数十ものドラゴンブレス。

 多少はグラムに到達する間で威力が減衰してしまうが――それでもニンゲン程度ならば当たればそこは消し炭となる。


「――ぐっ!」


 それは狙いを外すことなく、全てグラムに直撃するが――その瞬間。

 グラムの周りの爆炎が多きく巻き上がり、その熱線を弾きいなすことに成功する。

 弾かれた熱線はグラムの周りの地面をえぐり、溶かし尽した。

 グラムは自分の周りのどろどろとしたマグマのような土を見て、眉を吊り上げる。


(……効かない、か)


 それでも俺は攻撃の手を緩めはしない。

 次々と熱線を放ち続ける。

 その数、一秒に十本以上。

 一本一本がその敵を焼き尽くさんと飛んでいく。


 それをグラムは爆炎で弾くが。

 グラムはそこから一歩も進むことが出来ない。

 その威力、数に対処するだけで精一杯だ。


 そして戦闘開始、数秒後――戦況は変わった。


 ――ガギィンッ!


「――うぬッ!」


 魔力切れが近いのか、次第にグラムの爆炎が弱まっていき、とっさの防御に使ったハンマーが砕ける。

 それを見たグラムはもうそこに居座ることは不可能と判断したのか、ハンマーの残骸を俺へと投げつけ、後ろに後退する。


 俺はそれを冷静に熱線で弾いた。


「――流石、紫の魔導士の弟子。火属性の火力に土魔法を織り交ぜた防御。二属性も操れるとは大層珍しいようだ」


 グラムが感心したように言う。


「……」


 俺はそれに無言で返す。

 闘いが始まった以上、もう言葉は必要ない。

 ただ目の前の敵を殺す。

 俺が考えるのはそれのみ。


「……これでは早々に本気を出さねばなるまいよ!」


 そう宣言したグラムは、バリィッと服を両腕で引きちぎり、上半身裸となった。


 そして――。


「――うぬぅぅうぅぅぅぅ!!!」


 暗闇の中、ぐらぐらと蠢くその体。

 次第にその体は原型からは大きくかけ離れた形態へと変化していく。


 ――ビチッ!ブチィッ!


 不快な、肉が割け、千切れる音。

 グラムはその場で異形に変形していった。


 ――しばらくしてその変形は止まる。


『ぐぅうぅぅぅ……。この姿になるのは何時ぶりか……』


 そこにはもはや人間とは呼べないような存在がいた。


 立派な鬣。

 暗闇に金色に輝く瞳。

 大きくとがった牙に、鋭利な爪。

 そして大きく、強靭な肉体。

 ニンゲンの倍ほどもある、両腕、胴体、足。


 それは、人と獅子が合わさったような化け物。


『――グォオォォォォォォォォオ!!!』


 その高揚感に、自身の力への自信に、雄叫びを上げたその獅子のような魔物。


 それを、俺は――ただただ《《観察》》を続けていた。


「……化け物が」


 ――だが、この姿なら何のためらいもいらない。

 何の罪悪感も感じることなく、殺すことが出来る。


『――龍血装(ドラゴン・ヴェイル)


 ――目を閉じ、静かにイメージする。


 それは一匹のドラゴン。


 その圧倒的なパワー。

 その膨大なエネルギー。

 その強靭な四肢。顎。翼。尾。


 それらをイメージする。


 その腕はすべてを切り裂き、殴りつぶし。

 顎はすべてを噛み砕き、飲み込む

 翼はすべてを叩き潰し、その圧倒的な風圧を。

 尾はすべてを弾き飛ばし、何者でも切断できない程の強度を持つ。


 ――俺が目を開ける。

 鎧が展開されていた。


 俺の両側には巨大な竜の腕。

 頭上には顎。

 背後の空中には翼。

 その下に長く、太い尾。


『……やるか、化け物』


 ――ヒト型のドラゴンと化した俺に。


『お主がゆうか』


 愉快そうに獅子が笑う。


 ――その瞬間、俺達は拳と拳をぶつけあった。


 龍血装。


 それは土、火、空間属性を織り交ぜた俺のみが扱える魔法。


 龍の丈夫な外殻は土属性の魔法で。

 龍の圧倒的な破壊力、火力は火属性魔法で

 そしてその外殻と破壊力のコントロールを空間属性魔法で行う。


 そして生まれるのは圧倒的な防御力、そして火力。


 風、水属性が合わさればそれぞれ機動力と治癒力を得ることが出来るだろう。

 今はそれはないため、3属性分で何とかするしかない。


 ――だが十分だ。

 こいつのようなパワータイプであれば確実に俺が勝つ。


『―――グヌァァアアアアアアッ!』

「――ラぁァアアああああああッ!」


 ――俺とグラムは接近する。


 そしてお互いが同時に拳を突き出した。


 避ける?そのようなことをするわけがない――俺も、グラムも。


 そのまま、相手の拳に拳をぶつける。

 俺の拳がグラムの拳にぶつかる瞬間に、火属性の魔法で拳の先に膨大な火力を凝集する。

 向こうも同様。

 もともとグラムは火属性。

 向こうも同様にその拳に破壊力を込めている。


 そして、拳がぶつかり合った。


 ――カッ!


 目の前が光で眩み――。


 ――――ドゴォォォォオオォォォォォォン!!!!


 一瞬遅れて起きる爆発、そして轟音。


 俺は土魔法で龍の鎧の壁を厚くし、翼を前面に出現させる。

 それを空間魔法でコントロールすることで、その爆発の余波をを防御する。


 視界は当然ふさがれたまま、爆発の余波により、辺り一帯の砂埃が舞き上がる。

 俺はその間もグラムがどこにいるのかを探し続けていた。


 ――だがこの中なら簡単だ。

 砂埃で覆われているなら、少し動くだけで、一目瞭然。


 ――見つけた。


「……そこか」


 俺から離れていくその大きな影に。


 俺がぶつけるのは熱線(・・)

 だが先ほどまでのしょぼい(・・・・)ものではない。

 俺の龍の(あご)が、ガパリと開く。


 ――イメージをする。


 ドラゴンのブレスのイメージを。

 本物の、いや、それ以上のものを。

 一点に熱量を込める――限界まで。


 そして、放つ。


 ――ギュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンン!!!!


『――ッ!』


 空気を焼き焦がしながら進む極太のエネルギー。

 直径は一メートルほど。


 その視認した後に避けることが絶望なまでに加速されたスピード。

 触れた瞬間に消し炭になるほどの熱量が込められたレーザーは少しもずれることなくその影の胴体を貫いた。


 その影の胸に大きく空く穴。

 レーザーの勢いで晴れた砂埃の晴れた先には――膝をつき、血を吐いている獅子の魔物がいた。


 胸にはぱっかりと空いた大きな穴。

 その右腕は肘から先が炭化していた。

 最初の殴り合いの結果だろう。 


(死んだのか?――いや。まだだ)


 そのビクビクと動いていた肉塊は、急速にその身を回復し始める。

 ブクブクと患部は膨れ上がり、ぐちゅりぐちゅりと編み上がっていくグラムの肉体。

 ほんの数秒で獅子は元の姿を取り戻した。


「……化け物じみた再生力だな。人間やめたのか、お前」


 俺の口から放たれる、恐ろしく冷たい声。

 ニンゲンにこんな声が出るのかと言うほどの。


『何が化け物だ……ッ!お主の方こそ、その姿!その力!化け物でしかあるまいよ!』


 『グォォォォォォ!!!』と吠え、そのまま殴りかかって来るグラム。


 それに俺も接近戦を選択する。


 最初のぶつかり合いの結果を見れば、一発目のような火力は必要ないことは判明している。あいつの肘から先は消し炭になっていた。


(――それほどこいつの防御力は高くない)


 先ほどより少し熱量を落としつつ、俺はグラムとの殴り合いを続ける。

 だがそれでも、有利なのは圧倒的に俺だ。

 何度も何度も俺とグラムは拳をぶつけあうが、結果はグラムの拳が崩れるのみ。

 再生させた拳でそれでも殴り続けてくるグラム。

 その顔には闘いへの高揚感はあったが――死への恐怖はない。

 そう、まさにグラムは、戦場に死に場所を求める、ただの狂戦士だった。


(――もう、こんな闘い終わらせよう)


 俺の脳内にその言葉が浮かぶ。


『グぉぉぉオオオオオオオッ!』


 ――グラムが拳を放つ。

 それに俺も拳を合わせる。


 ――バギャッ!


 グラムの拳が砕ける。

 それと同時に迫るもう片方のグラムの拳。


 ――それは無視する。


『――お主!!!』


(――うるさい(バケモノ)だ)


 お前の拳では、俺の装甲(・・)は突破できない。

 それが分かったから、俺はやっと攻撃に転じれるだ。


(――悪いな、こんな臆病な戦い方で。だが、俺はまだここでは死ねないんだ)


 俺の顔面の装甲にグラムの拳がぶつかるが、気にしない――する必要がない。

 グラムの拳は俺の装甲を破壊するどころか、衝撃で自壊する。


 俺は拳の攻撃を受けながら、最大の熱量を込めた両の拳をグラムに放った。


「――――!」


 まずは逃げられないように両足。少し身を下げ、両手を交互に放つ。


 ――バギャギャッ!


 圧倒的な威力の一発一発。

 それぞれの拳は、一発で一本の足を吹き飛ばす。


 ――当然だ。アリサの研究所の結界すら破壊した熱量を、一点に込めているのだ。この世のどんな物でも、一瞬で破壊できる。

 すなわち、この結果は当然であり、必然。


 ――次。


『――グォォォォォォ!!!』


 俺が足を破壊した時には、グラムの両腕は既に回復していた。

 俺に掴みかかる両腕。

 しかしグラムは足を失ってしまったため、少しずつその身は地面へと落ちていく。


 その普段との僅かなズレ(・・)のせいでグラムの拳の狙いがぶれ――その一瞬で俺の狙いが定まる。


 振るわれる俺の両腕。


 ――グラムの両腕が再び消滅した。


『くそォォォォ!!!』


 次。


 胴体。面積が多い。三発いる。


 ――バシュ、バシュ、バシュ。


 俺が拳を振うとともに胴体に空いた三つの穴。

 その余波はもうグラムの肉体では押し止められず、どこまでも、どこまでも視界の果てまで抉られていく。


 ――残るは頭。


 一瞬で四肢と胴体を失ったそれは、重力により地面へと落ちていく。


 止めを刺す瞬間、その表情が目に入った。

 驚くことに、そこには絶望も、悲しみも、苦しみもない。

 ただ、全力で戦えたことへの感謝と、勝利者への称賛があた。


 ――グラムはガハハハ、と笑っていた。


 その笑顔に一瞬ためらうが。

 それと同時に、泣いていたアリサ。そして(うずく)っていたエリーが脳裏に浮かぶ。


 ――俺のためらいは、瞬時に消えた。


 俺は最後の拳をグラムへと叩きつけ、そこに全ての熱量を送り込む。


 グラムが破裂するのを見て、ちらりと思った。


 ――初めて、人を殺した。



 ***



 戦闘が終了し、呆然と立ち尽くす俺。


 そこには、文字通り何も存在しなかった。

 生き残ったことへの安心も。

 勝利への喜びも。


 ――ただ、自分が大切な何かを失ってしまったかのような虚しさだけ。


 だがその時――二人分の足音が聞こえた。


(――ああ、そうだ。俺は――) 


 銀髪の少女と、黒髪のケモ耳を生やした少女。


「エド!」

「エドガー!」


 そういってこちらに駆け寄って来る、笑顔のアリサとエリーを見て――。

 

(――無事でよかった)


 俺はほっと胸を撫で下ろし、ようやく笑うことが出来た。

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