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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第二章 奴隷の少女と城塞都市の領主
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俺の選択なんだが

 俺が屋敷へ戻ると、簡単にルドさんとルナさんがエリーについて話してくれた。

 ただ単に、エリーがグラムさんとの模擬戦で怪我をしたようで、今屋敷の一室で治療中だそうだ。


「そしてエリー様は、大変暴れているようでしたので今は一旦、地下室にいらっしゃるとのことですよ」


 ルドさんがそのモノクルの奥から冷静な視線を俺に投げつつ、淡々と述べた。


「地下室?何でそんなことに……?」

「なんでも、アリサ様がこちらが迷惑をかけている以上、そうしてもらえると助かると言っていたとか。そのような事、お気になさらなくてもいいのに……」


 頬に手を当て、考え込むようにルナさんが言う。

 何となく状況は分かった。


(エリーはグラム卿との戦いに敗北しそれを悔しがり、それで暴れていたため地下室へと入れられたのか……?)


 グラム卿はあの人自ら、良い医師を探しに行っているとのこと。

 この一件に責任を感じているのか、熱いグラム卿ならやりそうなことだ。


 最後にルドさんがアリサが俺を呼んでいたと教えてくれる。

 俺はルドさん、ルナさんに簡単に礼を言い、すぐにそちらへと向かった。


 ***


 コンコン、と軽く部屋のドアを叩く。


「――誰?」


 中からアリサの声。


「俺だ」


 内側からかちりと鍵が開く。


 ドアからこそっとアリサが顔を出した。

 そしてその表情に驚く。

 予想以上にアリサに余裕はなさそうだった。


「いいから早く入って」

「……?ああ」


 俺は言われるままに部屋へ入った。


 *** 


 俺とエリーがベットに隣り合って座ると、早速アリサは話を切り出す。


「……エリーが逃亡奴隷だっていうのは知っているわよね?」

「あ、ああ。でもそれがどうしたんだ?エリーは今、休んでいるんだろ?」


 アリサは否定も肯定もしない。


(エリーの怪我が思った以上にやばいのか、それとも……)


 様子のわからないエリーに不安になる俺だったが。


 ――薄々俺は感づいていた。

 問題はそれだけではないと。

 いや、そんなものではないと。


 次第に震えてくる俺の声。

 しばらくの間をあけて。

 アリサの声が部屋に響いた。


「……グラムが今のエリーの主だったわ」

「……は?」


 俺の脳が一瞬フリーズする。


「お、おいおい、何言ってるんだ、アリサ?今自分が何を言っているのかわかっているのか?」


 あのおっさんが?

 闘いのことしか頭にないような、純粋そうなあの人が?


 それにアリサは首を振って応える。


「残念ながら本当よ」


 なら、今のエリーの状況は……俺の想像とは全く違ったものとなる。


「エリーはもしかして……」

「今、グラムの元で監禁されているわ」

「……このままだと、エリーはどうなる?」

「奴隷として暮らすことになるわ」

「なるわ……ッて――!どうにかできないのか?なぁ、アリサ!」


 いつの間にか俺はアリサの肩を掴み、そして叫んでいた。


「私だって同じこと、考えてるッ!」


 そしてれはアリサも同じ。

 今俺達は、お互いに混乱し、不安になり、それをぶつけあっているだけだ。


 ……これでは話は一歩も進まない。

 ここでしなくてはいけないことは、口論ではない。

 そんなことをしている暇はない。


「……すまない、アリサ」

「私の方こそ……」


 深呼吸。

 精神を落ち着かせる。


「それでこれからどうする?というか、今の俺達に何ができる?」 

「……そうね。エリーに悪い言い方だけれど、今、エリーはグラムの所有物の一つと言っていい状況にああるわ。そして私達はそれを奪いたい(・・・・)。どうすればいいと思う?」


 アリサが俺に問いかける。

 俺からどんな答えが出てくるか怖いのか……その目は少し不安げだった。


 だがこればっかりは手段は選べない。

 俺達は思いついたことを一つずつ並べていく。


「金で買う」

「お金を欲しがるとは思わないわ」

「何かと交換する」

「おそらくエリーと釣り合う物を私達は持っていない」

「交渉して譲ってもらう」

「……不可能ね」

「あまりやりたくはないが……盗む」

「それこそ向こうの思うつぼよ。向こうも全力で阻止して来るわ。それに今後の私達の生活に支障が出るかもしれない……犯罪者になるわけだから」

「……なら他に何かあるか?アリサ」

「……一つだけあるわ。もしうまくいけばこちらに被害はないし、そして間違いなく向こうも受けるだろう手が一つ」

「完璧じゃないか。ならそれで決まりだ」

「……でも、これは最も大きなデメリットがある」


 そして、それっきりアリサは黙りこくってしまった。

 もうそこに、いつものように明るいアリサはいない。

 ここにいるのは違う方のアリサ。

 不安定な方(・・・・・)のアリサ(・・・・)だ。


「アリサ。教えてくれ」

「……」


 俯いて、こちらを見ようともしない。


「……わたしちょっと外の空気を吸いに」


 ベットから立ち上がろうとするアリサの腕を、思わず掴む。


「アリサ……!」


 そしてその弱く震える、孤独な少女ををゆっくりと抱き締めた。

 アリサも俺の背に手を回し、お互いに抱き締め合う。


「アリサ。心配するな。俺はお前の前からいなくなったりしないから……」


 俺は耳元で囁く。

 それにアリサは俺をより強く抱きしめることで答えた。


「エド、ダメよ。やっぱりだめ。エリーとはここでお別れよ」

「その方がダメだ」

「だめじゃない。あのね、エド。最後の方法はね――お互いの命を懸けた、決闘よ」


 決闘。

 決闘か。

 命懸けの戦い、か。


「なら俺が戦おう」


 迷いはない。


「――ダメよ!」


 部屋に響き渡る、アリサの叫び声。


「いい?エド!?決闘とは命で何かを勝ち取る闘い。命を落としてしまうかもしれないのよ!?

 それにあの男は文字通りの戦闘狂。そして最後はこの方法しかないことに、当然気付いている。そうである以上、むこうは確実にこの手以外は突っぱねるでしょう」

「なら簡単だ。俺があいつに勝てばいい」


 それにアリサは頭を振る。


「だめだめだめだめ!

 それは絶対ダメ!

 そんなことは許さないわ!

 こんなくだらない(・・・・・)ことで命をかけることなんてダメッ!

 お願い、エド。

 今日のお昼。二人で楽しかったでしょう?今までも二人でやって来たじゃない。前みたいに二人で暮らしましょう?

 エリーは不幸だったの。私達は遅かったのよ、遅すぎたの。

 あの子のことは忘れて、私たち二人に戻りましょう……!」

「まだだ、アリサ。まだ遅くはない……!

 俺は助けたいッ!エリーを、あの少女を助けてあげたいんだ……」


 初めはあの酷い惨劇の村。

 あの子は孤独に泣いていたんだ。

 それは前の世界の俺と同じ。

 その気持ちが、俺には痛いほどわかる。

 だから、助けたいんだ。

 助けなくちゃいけないんだ。


「……だめよ、エド。

 私は一番エドが大事なの。

 私にはエドしかいないの。

 わかるでしょ?

 私がどれだけエドを大切に思っているか。

 私はエドを助けるためなら何でもするわ。

 文字通り何でも。人殺しでもなんでも。

 でも、いいの?エドは許してくれるの?愛してくれるの?

 エドを理由にいかれたニンゲンになってしまった私を?

 どうして?どうしてわかってくれないの?私がどれだけエドガーのことを思っているかを、愛しているかをッ!」


 俺を見るアリサの目。

 その目は俺に、救いを、愛を求めていた。


 そして俺を思うアリサの心からは、その奥からは。

 凝り固まった何かがどくどくとあふれ出て。

 それが言葉なって形と成し。

 俺の心を少しずつ、少しずつ。

 犯していく。

 犯されていく。


 抱き締め合った俺達の間は僅かなのに――どうして心の距離はこんなにも遠くに感じるのか。


「……エドがどうしても助けたいというのなら。エドも私のお願いを一つ聞いてくれる?」

「……ああ。聞くさ」


 なんだって聞いてやる。


 俺の言葉にアリサは口角を吊り上げ――そして言った。


「私を抱いて(・・・)。今ここで」


 それを聞いた俺の心に浮かぶのは、喜びでも恥ずかしさでも興奮でもなく。

 

(……こんな状況でか?)

 

 ――悲しみとやるせなさ。


(こんな苦しそうな、自分の闇に取り込まれたようなアリサを抱けというのか――?)


「……アリサ。本気で言ってるのか?」


 やっとアリサは顔を上げ、俺に笑いかける。


「本当よ、エド。さぁ、私を抱いて……」


 アリサの手がしとりと俺の胸板に触れ唇を寄せた。


 普段のアリサとはかけ離れた、その妖艶で妖しい笑み。


「待て、、待ってくれ、アリサ……他の頼みならなんでも聞こう。デートはどうだ?俺がデートコースからしっかり決めてお前を楽しませてみせる。また二人で美味しいものでも食べに行こう。アリサに似合うアクセサリーや服を選びに行こう」

「そんなのこれに比べたらどうでもいいわ。

 大丈夫、エドに責任をとってもらおうとかそういうのはないから。

 ただ今この瞬間だけ。私の性欲を満たしてくれればいいの。

 簡単でしょ?もちろんエドガーも私を好きにしていいわ」


 アリサが俺をすっ――と押し倒す。

 俺の上に四つん這いになったアリサ。

 情欲にうるんだ目。

 アリサの甘い匂いが、より強くなった気がした。 


 本気だ。

 冗談はではない。


(――でもなんでだ。なんでそんな辛そうなんだ。泣きそうなんだ?)


「エド、どうするの?

 私を抱いてエリーを助けるか。

 それとも何もせず、これまでと同じように暮らしていくか」


 俺は今、二択を迫られている。

 俺達の関係の変革か。

 それとも保守か。


 アリサの手がゆっくりと俺のシャツのボタンをはずしていく。


 そして裸になった俺の上半身をアリサの掌が蠢いた。

 そのアリサの細く白い指はその感触を確かめるように、楽しむように俺の上を這い回る。


「ねぇ、どうするの?エド?

 私達は決めなくちゃいけないの。

 こうなった以上、前に進まなくてはいけないの。

 進むか、止まるか。どちらをあなたが選ぶの?」


 俺に耳元で、蠱惑的に囁くアリサ。

 その一言一言に、その強く甘いアリサの匂いに、俺の思考がだんだんと奪われていく。


「さぁ、選んで。私の愛しい愛しいエドガー……!」


 俺は。


「俺は……ッ!」

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