冒険者ギルドに行って来たんだが
「エドガー様。あちらの建物がこの都市、ヴァエリアの冒険者ギルドとなります」
そしてルドさんが指す先にある、大きな建物。
そこの入口をひっきりなしに人が行き交っている。
その建物の中にはもちろん、屈強で、いかつい感じの男達。
いくつもの死線を潜り抜けてきたと言う自信と証をその身に宿す、勇者たちだ。
そう、俺は今、冒険者ギルドに来ていた……ッ!
***
俺はわくわくしながら足を進めて行く。
そしてギルドに入った瞬間、俺は感じた。
冒険者同士が、無言で張り合うその空気……!
そこには一部の隙も見られない……ッ!
(流石冒険者達だ……!隙を少しでも見せたら喰われちまうような厳しい世界なんだろうな……)と俺は想像する。
「さすが、冒険者ギルド……!想像を上回るほどの冒険者ギルドらしさだ……!」
我ながら、意味不明である。
そして、俺がそう言った瞬間だった。
「―――――――」
――さぁぁぁぁぁぁぁ。
それまでの、がやがやと活気のあった空気が一転。
静寂が場を支配していく。
そう、冒険者たちがこの俺に気付いてしまったのである。
(――さぁ、俺に絡んでくる奴は何処のどいつだ……?)
俺は若干の期待と気恥ずかしさを覚えながら周りを観察する。
だが、周りの反応は優れない。
むしろ俺の視線を受けた冒険者達は、皆そろって下を向く。
(なぜだ――?)
と思うのは一瞬。
俺はすぐに気づいた。
自分の格好である。
アリサから着ろと言われた、黒の軍服。それも胸には丁寧な紋章入り。
これではやばい奴だと思われて当たり前である。
――ちらちら、ひそひそ。
俺の方を窺いながら、冒険者達が小声で話していた。
「おい!なんで魔導士の奴がここにいる!まさか依頼を根こそぎ奪いに来たのか?」
「いくらなんでもそれは!だがもしそうだったら俺達では抵抗できないぞ……」
「俺魔導士っていうの初めて見たわ……目つきこえぇ……」
「あれ弟子の方だと思うよ……火の魔導士様は銀髪の女の人でしょ?」
冒険者ギルドのロビーにお通夜ムードが広がっていく。
そして――ついには誰も話さなくなった……。
(俺のせいなのか……?)
助けを求めるように後ろのルドさんを振り向く。
すると、ルドさんはその俺の様子にどうなされましたか?と言うように軽く首を傾げる。
その様子を見て、一瞬で俺は悟った。
(――ああ、ルドさんも俺と同じような立場の人だったな……)
その光景に途方に暮れている俺の前に、つかつかとカウンターから受け付けのお姉さんがこちらまで近付いてきた。
硬い表情のまま、遠慮がちに俺に話しかける。
「あの……魔導士の……お弟子様?本日は何の御用で……」
「ああ、いや、様子を見に来ただけだ、気にしないでくれ?」
「……え?あ、はい、そうだったんですか。それではごゆっくりどうぞ!」
その俺とお姉さんのやり取りでそれまでの空気は一瞬にして和らぐ。
ほっ、とにこやかになったお姉さん。
「なんだそんなけか……」
「ビビらせやがって……」
「ふぁをぉぉぉぉォン……」
「え、何お前その声……」
「え?安心したから思わず……みたいな」
「いや、普通にきもいぞ……」
「えぇ……なんかすまん……」
そして徐々に活気を取り戻していく冒険者ギルドに、俺はほっと息を吐いた。
だがその直後。
俺は聞いてしまった。
カウンターで受け付けのおばちゃんとおっさんがこそこそと話すのを。
「うちのギルドの様子見?視察か何かでしょうか?」
「あらやだ!そういえば後ろにいる方は領主様の家令様じゃない?」
「本当だ……やばいぞ……何を言われるか……このギルドをとうとう本格的に潰しに来たのか……?」
その様子を見てしまった俺は静かに目を閉じる。
(……撤退しよう。だめだ。俺がここにいるだけで神聖な冒険者ギルドを汚してしまうのかもしれない……)
そのギルドの様子に、雰囲気だけ感じられてよかったと俺は涙を呑んでそこを去ろうとした。
だが、俺がギルドの出口をくぐるとき――後ろより俺を呼ぶ声がした。
「エド?どうしてここに?」
ギルドの奥から出てくるアリサ。
「これはまた、偶然ですね……」
彼女を見てルドさんが小さく呟いた。
***
久びさにアリサと二人きりで街を歩く。
ルドさんは〝用事を思い出しました、あとはお二人で”、と言って屋敷へと先に戻っていった。流石執事の鏡。イケメンで空気が読める。完璧である。
「アリサはどうして冒険者ギルドに?」
「あの報告よ、村の虐殺の。後、生存報告かしら。私のね」
アリサはそう言って悪戯っぽく笑う。
そう言えば、アリサはしばらく世間から姿をくらましていたんだっけな。
「エドは?」
「ルドさんが連れてきてくれたんだ。もともと冒険者に興味もあったしな」
前々から、というか日本にいた時から興味があったからでもある。
冒険者と言えば、ファンタジーの定番。
俺も小さなころは、冒険者たちが主人公の物語を読み漁ったものだ。
アリサがポツリとつぶやいた。
「そういえば、エドと二人きりになるのも久しぶりに感じるわ」
「確かにな」
エリーがうちに来てからは殆どそんなことはなかった。
以前は二人でいるのは当たり前だった。
だが今は、改めて口にそれを口に出すと、少し気恥しいものがある。
アリサが期待を込めた表情で俺に振り返った。
「ならエド……今日は私に付き合ってくれないかしら?」
期待に揺れるアリサの顔。
(デート……みたいだな)
そう思うとちょっと気恥しいが、この少女との時間は俺も大事にしたい。大歓迎だ。
「……今日は久しぶりに二人で楽しもうか、アリサ」
俺の返事にパァッ!と笑顔を浮かべるアリサ。
「そうと決まったら!行きましょう、エド!」
アリサがぐっと俺の腕をつかむ。
「あぁ、今日は羽根をのばそう」
俺はアリサにつれられるままに歩いて行った。
***
それからアリサと俺は町のいろいろなところを回った。
アリサの服を見たり、屋台で甘いものを買い食いしたり。
アリサが服屋で試着してみた服は本当によくどれも似合っていた。
アリサは美少女だからな。もはや服を選ばない領域である。
店員さんのセンスが良かったのだろうとも思うが。
アリサは俺が似合うと言った服のほとんどを買っていた。
流石魔導士。
その地位に違わず、金持ちである。
武器屋にも寄った。
流石あの脳筋なおっさんの都市の武器屋だけのことはあった。
特に武器屋では剣、ナイフ、ハンマー、槍などがずらり。
俺の空間魔法の念力ならどの武器も使うことが出来るため、それぞれの使い方を考えるだけで時間がどんどん過ぎていく。
それについての俺の話を嬉しそうに聞いてくれるアリサ。
とても楽しく過ごせた時間であった。
そして、俺達は骨董品店に来ていた。
そこには魔獣の見たこともないような形の髑髏や怪しげな水晶。そして先の折れたナイフから巻物のような読み物まで様々なものがあった。
「本当にいろいろあるんだな」
「探せば何か掘り出し物もあるかもしれないわよ」
少し古い感じの建物の中で、品物を物色する俺達。
しばらく店をまわっていると。
「ん、これは……?」
俺が火属性の魔石を嵌めているペンダントと同じように、紫色の石が嵌められたペンダント。
流石に俺のものとは違い、その石は魔石ではないだろうとは思うが、それ自体がアリサが加工してくれた俺のものとよく似たデザインだった。
アリサに隠れて、こっそりとそれを買った。
***
だんだんと日が沈んでいく。
それを眺めながら、公園の広場で俺達は休んでいた。
「はぁー、今日は楽しかったわ、ありがとう、エド!」
うーんと両手を伸ばし、俺に笑みを向けるアリサ。
「それならよかった」
そんな彼女を見て、俺はプレゼントを渡そうと思う。
「そうだアリサ、少し目を瞑っていてくれないか?」
「何?いいけど」
俺の言葉に、アリサは少し不思議そうに目を瞑る。
俺は先ほど買ったペンダントをそのアリサの首に掛けた。
その時、長いアリサの睫毛がひくっと動く。気付いたのかもしれない。
「もういいぞ」
そう言うと、アリサは目を開け、自分の首の紫に光り輝くペンダントに気付いた。
「エド、これって……」
「プレゼントだ。初デートだろ?」
そう冗談っぽく俺が言うと、アリサは喜ぶのではなく。
――ぽと、ぽと。
アリサのスカートが濡れる。
「あ、アリサ?」
静かにアリサは涙を流していたのだ。
「す、すまん。いらなかったか?」
アリサの予想外の反応に焦る俺。
だがアリサは首を振ってそれを否定した。
「違うの、エド」
アリサは顔を上げ、そして俺は気付いた。
――アリサは泣きながらも、笑っていた。
「ありがとう、エド。大切にするね」
大事そうにペンダントを握るアリサ。
「……ああ、そうしてくれると嬉しい」
アリサが喜んでくれた、とわかりほっとする。
それだけで俺は満足だった。
――ヴヴヴヴヴ。
その時、突然、アリサの服のポケットが揺れた。
携帯魔導式連絡端末。略して携帯。……まんまだとかは言ってはいけない。
とにかくそれを見たアリサが、顔の色を変える。
「どうした、アリサ?」
「エリーが危ない……!」
アリサは勢いよくベンチから立ち上がり――。
「――私は先に屋敷に帰ってるから、エドは後で来て!」
アリサは足元から氷の塊を生やし、一気にそれを蹴って空中に飛んだ。
そして空中に作り出した氷の足場を蹴り、滑りながら、高速で屋敷の方へと向かっていく。
「……なにが起こった?」
あっという間に視界からいなくなってしまったアリサに唖然としながら、俺も屋敷へと急いだ。




