屋敷での日々なんだが
次の日の昼。
遂に俺はグラム卿と模擬戦を行った。
グラム卿はその見た目通り、肉体を魔力で強化し、火属性魔法でハンマーから爆発を起こしながら戦う脳筋タイプ。
俺は、空間魔法と火魔法だけで戦うことにした。
土魔法を使ったスタイルの方が戦いなれているが、こちらの方がアリサの弟子として自然に見えると思ったからだ。
……もちろんこれは模擬戦だからこう闘うのであって、命のかかった闘いであれば最初から出し惜しみをするつもりはないが。
俺の投降するナイフはおっさんのハンマーと火魔法の爆発で弾き飛ばされ当てられない。
そこでこちらも火属性魔法を使うことにする。
俺は魔物の骨片に限界まで熱を凝縮し、それを空間魔法で飛ばすことで熱線のような攻撃を行い、そのまま距離を取りつつ冷静に立ち回ることで勝利をおさめた。
「さすがはエドガー殿!久しぶりに手練れと戦うことが出来てよかったわい!」
戦闘終了後、ガハハハと笑うおっさん。
「こちらこそ、良い経験となりました。ありがとうございました、グラム卿」
そして俺は一礼する。
全ての攻撃を爆発とハンマーで共に弾きながら、笑顔で迫りくるおっさん。それを思い出し若干苦笑いする。このおっさんのゴリ押しには、実際危ない場面もあった。
(このタイプとの戦いでは他の魔術師との闘いよりも距離のコントロールが重要だな)
「続いてその獣人のお嬢さんとも……と行きたいところだが、見てわかると思うが、今の儂はこのありさま。故にまたの機会に頼めるかの?」
それに静かにエリーが答える。
「その機会をお待ちしております」
「ああ、頼むぞ!」
そしていつものようにがははと笑うおっさん。
そして日課があると言って、おっさんは俺達から離れて行った。
***
「お疲れ様でございます、エドガー様」
常にグラム卿の側にいた執事風の男性が、俺に飲み物の入ったグラスを渡してくれた。
「ありがとうございます、ええと……」
そこで俺はこの人にまだ名を聞いていないことに気付く。
「ルドとお呼びください、エドガー様」
そしてきっちりと一礼。
チャラとモノクルの鎖が揺れる。
その仕草すら品性に溢れている。さすが本場の執事。
俺のような|アリサお嬢様専属系執事風男子とはまるで違う。オーラの上品度からもう太刀打ちできない……!
「ルドさん。改めてよろしくお願いします」
そんなルドさんに、すっと俺は片手を出す。
「こちらこそよろしくお願い致します。紫の魔導士様のお弟子様とお知り合いになれただけで光栄でございますよ。今日という日を感謝しなくてはなりませんね」
ルドさんは笑顔でそれを握り返してくれた。
「いえいえ、俺の方こそあなたのような方と出会えて嬉しく思います」
そのまま日本でのやりとりのように、お互いを褒め合う俺とルドさん。
「ご主人様たちめんどくさ……」
そのやり取りに嫌気が指したのか、後ろからぼそっと何かが聞こえる。
……こればっかりは染み付いていて、やめられそうもないから仕方ないだろ。
そのまま、あはは……とルドさんに愛想笑いをする俺だった。
エリーはいじけるように口をへの字に曲げていた。
***
エリーと屋敷に戻ると、ルナさんが出迎えてくれる。
「お疲れ様でした、エドガー様。グラム様のお相手をしていただいて誠にありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をするルナさん。
「いえいえ、こちらこそいい経験になりましたので……」
そういって俺が手を振ると、ルナさんはクスクスと笑う。
「ふふふ、それならよろしかったですわ。またの機会があれば是非。ですよね、ルド?」
ルナさんに話を振られたルドさんもそれに頷く。
「ええ、あの方は常に体を動かしていないと気が収まらない人ですから……。エドガー様のご都合さえよろしければ、いつでもお声をおかけください」
あの人はどうしようもないんですよ……という雰囲気を漂わせながら溜め息を吐くルナさんとルドさん。
(二人とも苦労してるんだろうな……)
そんな二人に俺は苦笑いをすることで答えた。
***
そんなこんなで、俺達はだいたい一週間ほどグラム邸に滞在していた。
なぜこれ程滞在することになったかと言うと、アリサが街に来るついでの用事をこなしておきたいらしく、その間の滞在をグラム卿より勧められたのだ。
その間、俺達はグラム邸で至れり尽くせりな生活を送っていた。
誠にあのガチムチおっさんには感謝をしている。
***
ある日の朝食後。
ルドさんが俺に提案した。
「エドガー様。お暇でしたら、本日は冒険者ギルドに行ってみてはいかがでしょう?」
「……冒険者ギルド?」
グラムのおっさんから貸してもらったトレーニング関係の本を読んでいた俺は顔を上げる。
正直に言う。暇であった。
……冒険者ギルドか。もちろん興味はある。
なんて言ったって冒険者は、男のロマンである――!
「そ、それで冒険者ギルドっていうのは?」
そわそわしながらルドさんに聞く俺。
エリーがジトッとした目で見て、ちょっと落ち着いたら、ご主人様……?と呟いていた。
(そこ、うるさいぞ)
俺とエリーのやり取りをふふふ、と見守りながら優しく教えてくれるジェントルマンなルドさん。
「冒険者ギルドとはその名のとおり、冒険者と呼ばれる者たちが、民衆から、国などからの依頼を受ける場。そこに集まるのは、この都市にあける精鋭達。
どうです、エドガー様にとって退屈ではない場かと。私が案内いたしましょうか?」
そして柔らかく微笑むルドさん。
(案内まで……なんてできた人だ……!)
「ぜ、是非お願いします!」
即断する俺。
冒険者ギルドについに訪れることになるとは……!
「ご主人様……」
俺をかわいそうな人を見るような目で眺めるエリー。
しかし今日は屈しない。
一度は見てみたいのだ……味わいたいのだ……その雰囲気を!熱気を!
そしてあわよくばベテラン冒険者に理不尽に絡まれ、「新入りか?表出ろや!」と言われたいのだ……!
(……まぁ実際そんなことになったら速攻返り討ちにするが)
「わかりました。それでは本日は私がエドガー様にお付き添いしましょう。エリー様はいかがなされますか?」
「アリサも出てるんだろ?寂しくないかエリー?」
アリサも何か用事があるとかで朝早くから屋敷を出ていた。
となると、俺達の中で屋敷に残るのはエリーだけだ。
「私は……行かない」
「やっぱ寂しいか!そうか、そうだよな!いや~俺と一緒に冒険者ギルドを楽しもうじゃないか!」
「……だから行かないって」
「……は?」
俺に遅れてやって来る、衝撃。
行かない……だと!?
お前、アレだぞ?冒険者ギルドだぞ?
異世界でしか見れないんだぞ!?見たくないのかよ、冒険者ギルドを!俺は見たい!
「承知いたしました。何かございましたら、当家の使用人に何なりとお申し付けください」
とエリーに丁寧にお辞儀をするルドさん。
「ありがとうございます、ルドさん。それじゃ私はこれで」
エリーはそう言って席を立つ。
「ご主人様も楽しんできてね」
そして珍しいことに軽く微笑んで、部屋を出て行った。
それはとても自然なものだった。
「……ああ」
そんなエリーの笑顔に若干の違和感を感じたが、気のせいだと自分に言い聞かせる俺だった。
***
―――この時、エリーの屋敷での行動を、そしてグラムへの冷たい態度に気付いていれば俺達の歯車は狂わずに済んだだろうか?
この出来事を思い出す時、ついいつも俺はそう考えてしまうのだ。




