可愛い先輩(男子)を惚れさせてしまった
五月といえば、高校生は体育祭。
と、いう事で思いつきました。
こんなラブコメは現実に存在しないだろ、というのが作者個人の見解。
今日は体育祭。
この学校は四つの団に別れて点数を競っており、一度も優勝したことが無い黄団は今年こそはと気合を込めて競技に挑んでいた。
そして、黄団二年目である私も万年優勝と言われている白団を打ち負かすべく出場する競技に向けて準備をしていた。
「羽奈、何してるの…?」
「準備体操やで。私、体育祭ガチ勢やからな!」
友達におかしな子を見るような目で一連の動作を見守られたが、別になんとも思わない。
一緒にやらないかと誘ったが、断られた。無念。
どうやら彼女は前髪とビジュ死守界隈らしい。
なんてことを言い合いながら運動をしていたら、出番が近づいてきた。
ちなみに、これから私が出る種目は綱引きである。
一チームにつき五十人くらいで縄を引っ張るので、保護者席からはさぞ見応えがあるだろう。
親が自分を特定できず、諦めてくれそうな競技だから選んだのだ。
…ふっ。今年もホームビデオ対策はバッチリだぜ。
「黄団、入場しろー!」
「走れー! 歩いたら減点されるぞ!!」
運営係や三年生からの怒号が響き渡る。
今年から大幅にルールが改正され、減点対象が多くなったからか切羽詰まったものを感じた。
…なんか私、この空気感嫌いじゃない。
皆が真面目に一体になって取り組んでる姿は、やっぱりかっこいいと思う。
中学生くらいになってからはふざけてサボる人も多かったけど、今年の黄団は特に頑張る人が多い。
久しぶりにいいものを見れた気がする。
先生たちがよくこういうじゃないか。
「真面目にやってる子の方がふざけてる子より断然かっこいい」って。
まさしく、それだわ。
この溢れ出しそうな感慨深さといったら。
うんうん、と勝手に大人目線で頷く。
そしていざ、グラウンドの中央へ着くと相手はあの憎き白団。
その姿は、去年敗北した自分たちを思い出すには十分すぎる刺激だった。
…煽って煽って煽りまくろう。
絶対に負けたくないし。
「がんばろー!」
周りが声援ばかりなのをいいことに、普段なら絶対にしない声掛けまでしてしまう。
よっぽどこの時は気分が高揚していたのかもしれない。
隣に見たことのある顔があったので、つい「頑張りましょ!」と言ってしまっていた。
よく見ると、その人は去年同じ校外活動をしていた男の先輩だった。
確か、千歳紫苑という名前だった気がする。
…いや、名前かっけー。
何処かのアニメキャラで出てきそうだな。
特に仲が良かったわけではないが、結構活動する頻度が高かったのでお互い面識はある。
だが、活動以外で話しかけたのは初めてだ。
やっちまったわ、とは思ったが特に後悔はしていない。
味方を鼓舞しまくるのが体育祭の醍醐味だろ。
多少知らない人だろうが、私は全力で声をかけるので問題ない。
私は鋼どころかオリハルコンのメンタルを育てているのだから。
「あ、うん、がんばろ」
先輩も、驚きはしたが口角を上げて声をかけてくれた。
しかも、私が無意識にしていたグッドのポーズもお返ししている。
何気にしっかり反応してくれてありがとうございます…と心の中で呟いた。
応援しても嫌そうな顔されたら流石に傷つくので、後輩への配慮がありがたい。
「それでは…用意、初め!!」
しばらくして、グラウンドにピストルが鳴る。
私もさっきの出来事なんぞとっくに忘れて、必死に縄に体重をかけた。
全員、歯を食いしばっているからか一言も喋らない。
聞こえるのは周りの声援だけである。
「っ…くっ…」
精一杯、体を後ろに下げる。
こうなったらもう、何も気にしていられない。
顔面は事故っているだろうし、髪の毛もぐちゃぐちゃ。
でも、勝ちたいので。
ただ…そのぉ…手が動かせないのですが。
なぜなら、私の手は今絶賛先輩の背中の下敷きになっているからである。
他の人はそんなことないらしいが、先輩ののけぞりがガチすぎた。
縄に対して完璧に並行やんと突っ込んでしまいたいほどの体重の掛け方。
もうプロやん。綱引きの。
ついでに言えば、多分私と先輩が男女逆なら絶対惚れてただろうなぁ、と思う。
だって、女子の私が「あー、これは…」と感じるくらいだ。
繊細な男子学生ならよりそう感じやすいことだろう。
逆ラッキースケベと言っちゃってもいい気がする。
なんかすみませんね、先輩。
あなたの可愛かったはずの後輩は邪なことばっかり考えてますよ。
…そして、考えすぎる時間は今必要ない。
ちゃんと集中せねば。
いい感じに縄もこっちに進んできた。
「いけるいけるっ! …がんばれ!」
という誰かの声に反応するように、一層縄を引っ張る力が強まった。
「よし、勝ったー!」
前方から聞こえてきた声に合わせて、縄を持つ力が緩まる。
と、そこでハプニングが起きた。
縄が緩まったことで、全体重をかけていた先輩の体がそのまま地面へ一直線へと向かった。
全力の仰向けの状態で、である。
そして、競技の最中先輩の下敷きになっていた私の手は。
もちろん、先輩と一緒に引っ張られていく。
「あっ! 危ない」
…で、私がどうしたかというと。
その手で先輩の体をしっかりと支えて落下するのを阻止したわけだ。
さらなるラッキースケベ展開だが、言い訳はさせてほしい。
私の手を抜いたら、余計先輩の体勢は不安定だった。
私の手をクッション材にしてゆっくり落下していたのに、抜いてしまったら間違いなく自由落下する。
背中から落ちるのならまだいいかもしれないが、頭も打ちそうなのに何もしないのはヤバいだろう。
何かあった時気分が悪すぎる。
これを見た誰かに「見殺しにしたなー!」とか騒がれたら嫌だし。
多分そんな人いないと信じてるけども。
それだったら、誰に変態と思われようが支える方がマシだ。
またもや驚いている先輩に向けて、声をかける。
遠慮しているので、先ほどの威勢のいい声ではないが。
「先輩、大丈夫ですか?」
「あっ…ありが、とう」
そこで、先輩の様子にふと違和感を覚える。
…あれ? 先輩、ちょっとだけ顔赤くね?
しかも、体勢的に少女漫画でヒロインがドジったのを助けるイケメンみたいな構図なんだが…
もしや先輩、ヒロインに向いているのでは?!
こうやって赤面しまくるのなんて、最早ヒロインの特技でしょ。
うわぁ、もう完全にそうだとしか考えられない。
「かわii…ゲフンゲフン、なんでもないです」
「…?」
ポヤポヤした雰囲気とか、びっくりする様子とか…
めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか、この先輩。
BLモノだったら絶対受けだわ、これ。
一応これラブコメだから世界線違うけど、何処ぞの界隈は盛り上がること間違いなし。
私がもし男だったら…げへへ。
てか、どうせならこのちょっとカッコつけた俺様に惚れてくれてもいいんだぜ?
とノリで心の中の悪魔が呟く。
…まぁ、先輩に限ってそんなことはないだろ。
来年卒業するのだから、きっと今頃他のお姉様方がアプローチをかけていらっしゃるに違いない。
その後なんでもないふりをして…というか、すっかりそのことを忘れて私は次の団との勝負に熱中した。
恋愛にはあまり顔を突っ込みすぎないようにしているので。
触っちゃったなぁ、ラッキースケベだったなとは思ったけどそれだけ…なはず。
と、自分に言い聞かせた。
ちなみに、黄団優勝は叶わなかったようです。
なんでも、綱引きの後の競技が全部ビリだったとか…
黄団の怨念は、来年にも持ち越される予感しかしませんね。




