表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

第一章

「ひなた!行くよー!!」


ドアが開く大きな音と同時に、階下から急かすような声が響いた。


向陽ひなたは慌てて服を着替え、階段を駆け下りた。案の定、目の前にいたのは待ちくたびれた様子の幼馴染——優依ゆいだった。


優依はだらしない格好の向陽を見て、ため息をひとつ。一歩近づくと、乱れた襟元をごく自然に整えながら、口を尖らせた。


「もう、今日は高校の初日なんだよ?少しはシャキッとしてよ、だらしないんだから」


「ごめんごめん……毎日待たせちゃってさ」


向陽は頭を掻きながら、決まり悪そうに謝った。


優依はそれ以上何も言わず、ぷいっと背を向けて、二人は家を出た。


道中、二人は一言も交わさなかった。優依はうつむき加減で、足元の小石を蹴りながら歩いている。


向陽は気まずい空気に耐えかねて、沈黙を破ろうとした。


「あのさ……同じクラスになれたらいいよな」


優依の頬がほんのり赤くなり、ツンとした口調で言い返した。


「だ、誰があんたなんかと同じクラスになりたいって言うのよ!いつも私に心配ばっかりかけるくせに」


「はは……でも、新しい学期に知り合いがいた方が、学校生活も楽しいだろ?」


優依はチラッと向陽を盗み見て、すぐに視線を逸らすと、小さく呟いた。


「……まあ、それはそうかもだけど。あんたがそんなに同じクラスになりたいって言うなら、そうなるように願ってあげるわよ」


学校に着くと、掲示板の前はすでにクラスを確認する新入生たちでごった返していた。


二人は人混みをかき分けて中へと進む。向陽は目を皿のようにして、掲示板を上から下まで必死に探したが、自分の名前がどうしても見つからない。


逆に、隣にいた優依が先に自分の名前を見つけ、そこから少し視線を下げると——向陽の名前がすぐ下に並んでいた。


まだその場で冷や汗を流しながら必死に探している向陽を見て、優依の口元にフッと笑みがこぼれた。彼女は歩み寄り、掲示板のある場所を指差した。


「ここだよ!もう……メガネでも買いに行ったら?ほら、ここ!ここ!」


「あ……本当だ!ありがとな!」


向陽はホッとして、優依に満面の笑みを向けた。


「よかったな!本当に同じクラスじゃん!」


優依はすぐに背を向けて歩き出し、鼻でフンと笑った。


「ふん!まったく、手がかかるんだから……」


向陽が笑顔でその後を追おうとした、その瞬間。後ろから走ってきた一人の少女が、向陽とまともにぶつかってしまった。


「うわっと!」


少女のポケットからハンカチが地面に落ちた。彼女が慌ててしゃがんで拾おうとしたのを見て、向陽も急いで腰を落として手伝った。


二人の手が同時にハンカチに触れたその瞬間、ふと目が合った。


向陽はその場に凍りついた。女の子の目が、これほどまでに綺麗で澄んでいるなんて、今まで知らなかったのだ。


「あ……あ……」


向陽は完全に言葉に詰まり、やっとの思いで言葉を絞り出した。


「君、君のハンカチ……」


少女は目を細めて、天使のように優しく微笑んだ。


「ありがとうございます!」


そして、そのまま人混みの中へと消えていった。


そこへ、優依が幽霊のようにトコトコと近づいてきて、嫌味っぽく言った。


「なによ、目が釘付けじゃない。もう他の子に一目惚れしちゃったわけ?」


「そ、そんなわけないだろ!」


向陽は顔を真っ赤にしながら、頭を掻きむしって言い返した。


放課後、家に帰った向陽はベッドに大の字になって倒れ込んだ。


目を閉じても、あの澄んだ瞳が頭から離れない。昼間の光景がまるで走馬灯のように脳内でリピート再生されていた。


突然、部屋の中に声が響いた。


「——それが、恋だ!」


「うわぁっ!?」


向陽は跳び起きて辺りを見回した。最後に、視線は声のしたふすまに止まった。


「気のせいか……いや、絶対に気のせいだ」


襖の向こうから、今度は確信に満ちた声が返ってきた。


「気のせいではない!それこそが間違いなく恋だ!」


向陽は困惑し、唾を飲み込みながら襖を開けようとした。その瞬間、襖が「シャーッ!」と勢いよく自ら開いた!


そこには、パリッとしたスーツを着こなした男が立っていた。


「うわああああっ!?」


向陽は腰を抜かして数歩後ずさった。


「ふ、不法侵入だーーっ!?」


スーツ男はどこまでも真剣な目で向陽を見つめ、低い声で言った。


「恐れるな!私は未来の君だ!時空を超えて、君の恋を成就させるためにやってきた!」


「嘘つけ!お前、どっかの犯罪組織だろ!俺を誘拐してどこに連れてく気だ!?」


スーツ男は向陽が全く信じていないのを見てため息をつき、一歩前に出ると財布から一枚の写真を取り出した。それは結婚写真だった。写真に写っているのは、スーツ男と、まさに今日ぶつかったあの神秘的な少女だった。


向陽は息を呑み、目を見開いた。


「うそ……あの女の子、もう結婚してたの!?ごめんなさい!俺は今日、親切心でハンカチを拾っただけで、下心なんてこれっぽっちもありませんから!」


スーツ男は呆れて自分の額にパチンと手を当て、ボソッと呟いた。


「……俺、昔はこんなにバカだったのか?」


彼は手を下ろし、向陽を真っ直ぐに見据えた。


「言っただろう、私が君なんだ!この写真に写っているのは『私と彼女』だ!君と彼女の恋を実らせにきたんだよ!」


向陽の脳がオーバーヒート寸前になったその時、別の声が突然割り込んできた。


「待てーーーっ!」


次の瞬間、普通のカジュアル服を着た男が、窓から無様に這いずり込んできた。


向陽は完全にパニックになった。


「やっぱりグループ犯じゃん!俺を連れ去る気だろ!?」


カジュアル男は服の埃を払い、スーツ男を指差して向陽に言った。


「そいつの言うことを信じるな!俺こそが未来の君だ。俺は、君と優依の恋を助けに来たんだ!」


「優依?」


向陽はフリーズした。


カジュアル男は歩み寄り、スマホのロック画面を見せた。待受画面には、彼と優依がとても幸せそうに笑っているツーショット写真が写っていた。


向陽は画面を見て、思わずツッコミを入れた。


「あいつ、こんな風に笑うこともあるんだな……」


しかし、向陽はすぐに冷静さを取り戻し、目の前の怪しい二人を疑いの目で見つめると、質問を連発した。


「じゃあ聞くけど、俺の好物は?趣味は?一番好きなゲームは?」


「チキンバーガー!アニメ鑑賞!モンスターハンター!」


二人は同時に、一言一句違わず正解を即答した。


証拠は揃ったが、向陽はまだ納得がいかない。


「百歩譲って信じるとして、恋のサポートってなんだよ……そんなの自分一人でなんとかなるだろ?っていうか、お前らそれぞれの未来で幸せに暮らしてるなら、なんでわざわざ俺の時代に来たんだ?」


スーツ男とカジュアル男は顔を見合わせた。


カジュアル男が説明した。


「パラレルワールドって知ってるだろ?選択肢によって違う結末が生まれるんだ」


向陽はうなずいた。「それは知ってる。選択によって結果が変わるんだろ」



「その通り!」


カジュアル男の表情が引き締まった。


「だが、君が今いるのは、全ての時空の『正史世界オリジナル』だ。君がここでする決断が、全ての並行世界が存在できるかどうかを直接決定するんだ!だから、今回は絶対に優依と結ばれなきゃダメなんだ!」


「いやいやいや!」


スーツ男がすかさず口を挟んだ。


「高橋(あの少女)と結ばれることこそが、正しい選択だ!」


「いやいや、決めるのは俺だから!」


三人が押し問答をしていると、突然、階下から母親の怒号が響き渡った。


「ひなたーーーーっ!!」


三人は条件反射で同時に背筋を伸ばし、大声で返事をした。


「はいっ!!」


母親が下から叫ぶ。


「優依ちゃんが部屋に行くって上がっていったよー!」


その言葉はまるで青天の霹靂だった。三人は一瞬にして慌てふためいた。もし他の時代の人間にこのことがバレたら、取り返しのつかないことになる!


「隠れろ!」


カジュアル男は迷わずベッドの下へと滑り込み、スーツ男は猛スピードでクローゼットへ飛び込んだ。しかし、あまりにも緊急だったためクローゼットの扉が完全に閉まりきらず、細い隙間ができてしまった。


次の瞬間、ガチャリとドアが開いた。優依が入ってきて、明らかに挙動不審な向陽を見て、怪訝そうに眉をひそめた。


「え……どうしたの?」


「あ、いや……なんでもないよ!ははは、どうして急に来たんだ?」


向陽は乾いた笑いを浮かべた。


優依はぶらぶらとクローゼットの前まで歩き、手を後ろに組んだ。


「別に用はないけど、ちょっと退屈だから、おしゃべりでもしよっかなって」


クローゼットの前で立ち止まる優依を見て、向陽は冷や汗が止まらなくなり、慌てて話題を変えた。


「あ、あのさ!今日、高校の初日だったけど、どうだった?」


「んー、普通かな。っていうか、あんたも同じクラスだったじゃん。なんでそんなこと聞くのよ」


優依はそう言いながら、ベッドの方へと歩き出した。


向陽はそれを見て、クローゼットの扉を完全に閉めに行こうとした。すると、クローゼットに隠れていたスーツ男は「初日」というキーワードを聞き、優依の好感度を破壊するために、**わざと声を漏らした**。


「あぁ……今日出会ったあの子、今思い出してもやっぱり気になるな〜……」


向陽は瞬間的に目を見開いた。


優依はその声を敏感にキャッチした。彼女は目を細め、不満と嫉妬を隠そうともせずに頬を膨らませた。


「ふーん……。やっぱりあんた、昼間のあーいうお淑やかなタイプが好きなわけ?」


「あ、違うんだ!聞いてくれ!」


向陽は慌てて振り返る。


優依が怒って立ち去ろうとしたその時、ベッドの下に隠れていたカジュアル男が、クローゼットの男に対抗するため、咄嗟に近くにあった物を掴んで優依の足を引っ掛けた——。


「きゃっ!?」


優依は悲鳴を上げ、一瞬でバランスを崩した。


「危ない!」


向陽は本能的に手を伸ばし、優依をしっかりと抱きとめた。優依は勢いよく向陽の胸の中に飛び込む形になり、静まり返った部屋に、二人の心臓の音がはっきりと響き渡った。


「……大丈夫か?」


向陽は緊張しながら尋ねた。


優依の顔は一瞬にして茹でダコのように真っ赤になった。彼女は慌てて向陽を突き放すと、言葉を詰まらせた。


「わ、私、私……もう帰る!」


向陽は焦る優依を見て、大急ぎで叫んだ。


「待ってくれ!」


しかし、優依はすでにドアを乱暴に開け、後ろも振り返らずに階段を駆け下りていってしまった。


部屋の中に再び静寂が訪れる。


クローゼットの扉が開き、ベッドの下からも頭がニュッと突き出た。二人はドアの方を見つめ、同時にため息をついた。


スーツ男は首を振り、嫌そうに言った。


「やれやれ、相変わらず乱暴だな」


カジュアル男はうっとりとした表情で、目を輝かせている。


「へへ、相変わらず可愛いなぁ」

向陽は深呼吸をし、怒りに震えながら机の上の分厚い辞書を掴んだ。


彼はまずスーツ男を指差した。


「お前は、今日からマルコだ!」


続いて、カジュアル男に指を向けた。


「で、お前はポーロだ!」


向陽は二人の未来の自分をギロリと睨みつけ、歯を食いしばって言った。


「さあ、マルコ・ポーロども。俺にきっちり説明してもらおうか!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ