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ジェルソミーナがエルフリートと対話をする意思が確認できてから、コミュニケーションの質が上がった。彼女が自分の気持ちを最重視する考えを捨ててくれたのは、エルフリートにとって極めて幸運だった。
ジェルソミーナがエルフリートを尊敬するのとエルフリートの引退に物申すのは別の話である事、エルフリートに憧れるのであればエルフリートだったらどのような活動をするだろうかと考えてほしい事、他にもたくさんの話をエルフリートはジェルソミーナに伝えた。
エルフリートの話に頷き、時には自分の考えを伝えて理性的な対話をする姿勢を見せるジェルソミーナは、山岳での訓練の時のような極端な言動を封じていた。それが対話を滑らかにさせているのだ。
エルフリートはジェルソミーナの自分への思い入れが強いのかについて、再認識する事ができた。ジェルソミーナにとってのエルフリートは、正に英雄だった。
彼女から英雄という存在を奪うのだという自覚をすべきだったのか、と腑に落ちたものの、英雄だっていつかは引退するのだからそこは諦めてほしいなとも思う。エルフリートはその考えをジェルソミーナに正直に伝えた。
永遠に騎士でいられる人が存在しない事、エルフリートの場合は騎士でいられる時間が他の人よりも少しだけ短かいだけである事、憧れるのであればエルフリートの考えを引き継いでいってほしい事、順番に伝えていけば、ジェルソミーナは寂しそうに微笑んだ。
「……私、副団長みたいになれるでしょうか?」
「能力はこれから頑張ってもらうしかないけど、考え方だけなら今すぐやれるよ」
エルフリートは冷めきってしまった飲み物を飲み干すと新しく注文し直した。二人分の飲み物が届く頃には、ジェルソミーナの表情に自然な笑みが戻ってくるだろう。
エルフリートはそう思いながら彼女に微笑みかける。
「ジェルサ」
「はい」
「私と同じ組織に所属できないなら、騎士でいる必要がないっていう気持ちはなくなった?」
エルフリートがそっと問えば、彼女は小さく首を横に振った。
「私……私が、騎士になりたいって思ったのは本当なんです」
「うん」
エルフリートはジェルソミーナの話を促した。彼女はエルフリートに掴みかかるような勢いで自分の気持ちを主張していたとは思えないほど、心細そうな表情でぽつりぽつりと話し出す。
「私も、副団長みたいに……誰かを助けたいと思ったんです。剣を持つ事を知らなかった子供が騎士団に入れるくらいの実力を身につけるのは、簡単ではなかった。
それでも、諦めずに頑張れたのは一緒に働きたいからだけじゃないです」
騎士になるのは簡単ではない。並大抵の努力でもなれない特殊な職業だ。それも、女性となれば周囲の協力があったとしても肉体的な不利のせいで思い通りにはいかない人が多い。
なりたいという気持ちと周囲の協力だけでどうにでもなるようなものではなかった。
「誰かの助けになりたいという気持ちは嘘じゃありません。さっき、副団長の『この国で過ごす誰かの為に命をかけたいと思っているのか』という問いに答えられなかったのは、今までの言動を振り返って自信をもってそのとおりだと言う事ができないと気付いてしまったからでした。
無事に騎士になれて浮かれていたんです。最初の気持ちを見失って、大切な事を放り投げていたんです」
ジェルソミーナの目に水気が集まってきていた。目を潤ませた少女は、それでもエルフリートを真っ直ぐに見つめてきている。
自信なさげだった口調には力が入り、強い感情が込められている。エルフリートにも、彼女が本気でそう思っているのだと伝わっていた。
「だから、私は答える代わりにあんな質問をしてしまいました」
あんな質問、とは「このまま騎士団にいたら死ぬかもしれないと思っているのか」という問いかけの事だろう。エルフリートはどうしてそんな質問をされたのか分かっていなかったが、今ならば何となく分かる気がした。
「今の私を客観的に見た場合、騎士としての自覚が足りない人間であると思われるだろうなって思ったんです。
なのに、副団長は私の事をしっかり分かってくれていた」
ジェルソミーナは逃げないだろうとエルフリートが言った事が彼女の胸を打ったようだ。ジェルソミーナの戸惑いは、本来の自分を思い出した時に指摘されたからこそのものだった。
ジェルソミーナは空になったカップの縁をなぞり、眉尻を下げた。
「私の事なんか理解するつもりはないんだろうって勝手に思い込んで、気持ちを押しつけようとしてしまってすみませんでした」
「ううん。気にしないで」
エルフリートは慰めになるかは分からない言葉を返す。気にするなと言ったところで、気にしなくなるわけがない。
「私、副団長の退任までに、あなたが心配しなくて済む騎士になれるように努力します。能力だけではなく思考含めて、磨き直したいと思います」
「うん」
「私の事、見捨てないで見守っていただけますか?」
ジェルソミーナの質問への答えは一つしかない。エルフリートはすぐに大きく頷くのだった。




