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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
新しい仲間と生活と

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4

 仕切り直しとなった女性騎士団の初日――新人組の初勤務の日――は無事に敢行された。体力測定も。病み上がりの彼女たちだったが、結果は悪くはなかった。

 体力的に難しい騎士が数人いたものの、流行病に罹患した直後である事を考慮すればまずまずといったところだろう。二人ほど、王都一周を楽々こなしていた。一人はロスヴィータと同じように純粋な体力だけで勝負し、もう一人は補助魔法を維持する事でそれを可能にしていた。

 在りし日のエルフリートたちのようだった。




「では、王都を一周できなかった者は来月再び確認する。今回走りきれた者は今後もその体力を維持し、また向上させるよう研鑽に励む事」


 ロスヴィータは汗だくになっている新人騎士を見回しながらそう言った。立っているのは数人で、あとは座り込んでいたり転がったりしている。

 転がっているのは、体力的にギリギリだった面々だ。彼女たちがそうなっているのは、補助魔法を行使する時の力の配分を読み間違えたり、集中力を切らしてしまって余計に消耗してしまったり、その他些細な事でペースを乱してしまった事が原因だ。


 これは何も珍しい事ではない。新人騎士であれば、誰にでも起こりうる事だ。ロスヴィータの同期の騎士だって、何人かはそういう状態になっていた。

 王都一周は、そう簡単な事ではないのだ。


「明日から通常通りの活動が始まる。また、近日中に山岳訓練が入るから、それに向けて体調を調整するように。気になる事や疑問点、何かあれば私かフリーデに聞いてくれ」


 体力の限界を試すかのような行事の後にこれまた体力の必要な訓練が続く。新人にはきついスケジュールだろう。だが、現実のスケジュールもこのように待ってはくれない状況になる事は多い。新人の内からある程度は慣れていってもらいたいところである。

 それに、山岳訓練は自然環境に慣れてもらう事を目的としている。山で暮らした事のある人間よりも、そうではない人間の方が圧倒的に多いからなのだった。


「訓練に必要なものなどは既に資料を渡している。各自しっかり準備をする事」

「山の事で不安があったら、私に聞いてね。バティでも良いよ」


 ロスヴィータのすぐ横に顔を出したエルフリートが付け足した。確かに質問する相手をロスヴィータとエルフリートの二人に絞る必要はなかったかもしれない。だが、選択肢を増やすと人間は混乱してしまうのだから、エルフリートがこうして付け足すくらいが丁度良いのかもしれなかった。


「フリーデはこの女性騎士団の中で一番山に詳しい。些細な事でも、聞ける内に聞いておきなさい」


 ロスヴィータはそう言って微笑んだ。だが、新人騎士の一部は荒い呼吸を繰り返しているものの、魂が抜けたかのようになっている。彼女たちはロスヴィータの声が届いていないかもしれない。

 あとで、もう一度告知する必要がありそうだとロスヴィータは内心で苦笑する。


「今日はこれにて解散。ゆっくり休んで明日に備えなさい」

「筋肉痛には気を付けてねぇ」


 ロスヴィータとエルフリートは彼女たち全員が返事をするのを待ってから背を向けた。かすかに呻き声が聞こえてくる。どうやら呻き声を上げたい気持ちを抑えていたようだった。

 気持ちは分からないでもない。ロスヴィータはもはや慣れてしまったこの長距離走による疲労感を面白く感じながら汗を拭う。


「ロス、このまま執務室に戻る? それともシャワー浴びてくる?」

「汗を流したままでいるのは良くない。さすがにシャワーが先だ」


 エルフリートの問いに答えれば、彼は「そうだよね」と頷いている。そういう彼は汗をかいているにも関わらず、花畑のような良い香りがしている。爽やかさと甘さのバランスが良く、他者に不快感を与えにくいそれ。

 彼は香水を使っていると言っていて、ロスヴィータに教えてくれたが、ロスヴィータが使っても同じ香りにはならなかったのを思い出す。


「……じゃ、私もシャワー浴びてくるね」

「ああ。また後で落ち合おう」

「うん! ――って、ロス。着替えは?」


 女性騎士団の為に用意されているシャワールームへ向かおうと体を向けた途端、エルフリートが声をかけてきた。そういえば、今日は夜勤明け早々に女性騎士団の体力測定だったから着の身着のままになっている。

 当然、着替えを持っていない。


「……すっかり忘れていた」

「私ので良ければ貸すよ」


 珍しいね、と笑いながらエルフリートが手招きする。ロスヴィータは苦笑して彼の方へつま先を向けた。


「私の制服とロスの制服、確かあまりサイズ違わないよね?」

「多分大丈夫なはずだ」

「良かった!」


 エルフリートの反応に彼が予備の制服一式を貸そうとしている事に気付いたロスヴィータは、彼の前に飛び出した。


「いや、ジャケットは大丈夫だから、中のシャツだけで良い」

「あ、そうだよね」


 走っただけだもんねぇ、とのんびり言う彼の耳がほんのりと赤く色づいている。早とちりしたのが恥ずかしかったのだろうか。

 ロスヴィータは可愛らしいところはまだまだ健在だな、と思いながら彼の自室へと一緒に向かうのだった。

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