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9.手を差し伸べるのは




 目を開ける。見慣れた白い天井に安心するのは不思議だ。クリカラに到着し、真っ先にクラスチェンジを行った。皆も同じ様にクラスチェンジし、時間だということで解散になった。時効は二十一時。明日からの作戦に備えなければいけない。風呂に入りながら、自らに鑑定を掛ける。


▶倉松 匡太郎 23歳 男


ジョブ 探索者


筋力   35


頑強   31


知恵   18


器用さ  31


敏捷   28


魔法抵抗 18


運    8


スキル 


互換性 


重心移動Lv3 覚醒Lv1 天柱落Lv2


身体能力向上Lv4 健康Lv1


頑強Lv3 健脚Lv2 体力増強Lv3 体捌きLv1


槍術Lv4 棒術Lv4 挑発Lv3 鑑定Lv3


アビリティ


両手突き 打ち払い 投槍 上段突き 


クワトロスイング


最初のクラスチェンジには覚醒者を選んだ。ジョブが覚醒者(槍)になり、筋力、頑強、器用、敏捷に五ポイントプラスされた。さらに、スキルに覚醒が追加された。


▶スキル 覚醒Lv1

 全ステータスが五割増加。使用中のみ、アビリティにコーモラントが追加される。最大三十秒使用可能。使用後、一時間ステータスが二割低下。クールタイム二十四時間。


「なんだこのぶっ壊れスキル」


▶スキル 天柱落Lv2

 発動に二メートル以上の高さが必要。高ければ高い程威力が増加する。高さ×1.2倍のダメージ。発射時の初速が遅いと失敗する。クールタイム三十秒。


▶スキル 重心移動Lv3

 体の重心を移動出来る。両手に持つ武器にも移動可能。重心以外の体の部位を半分の重さにする事が可能。クールタイム二十秒。


 重心移動のレベルアップにより、より使い勝手がよくなった。天柱落もダメージが上がったみたいだ。前は補正が1.1倍だった。

 さて、明日からは大一番である。愛器を取り出し、磨きながら、覚悟を決める。主討伐は毎回多大な犠牲を払うのだ。それが自分じゃないとは限らない。


「頼むぞ相棒」



 翌日、日が昇るとともに起き出し、集合地点でピックアップを待っている間、山城班長が興味深い話をしてくれた。


「たった一人ですか?」

「そうだ。一軍のダチが言うには、援軍は一人の魔法使いらしい」

「それはまた剛毅な。中央からですかね」

「なんでも協会が組織した攻略専門のチームがあるらしい。ほら、福島を攻略した。そのメンバーだって話だ」

「へぇー。どんな豪傑なんですかね。見てみたいな」

「それが女なんだってよ」


 周りの隊員達も聞き耳を立てている。やはり上位の探索者の噂は気になるものだからな。大八さんだけは、いつも通り武器を磨いている。年の功なのか、そういった冷静さは見習うべきところだ。

 ピックアップ待ちの分隊を眺めていると、一人壁際で携帯端末をいじっている女性に目がいった。自分も新人の部類なので一概には言えないが、三十六分隊では見たことのない人だ。何より装備が目立つ。一般の支給されているカーボンアーマーやレッグギア等は装備せず、紋様の描かれたローブのような物を複数のベルトで体に固定している。傍らには本人の身長よりも幾分長い杖が立て掛けられていた。


「山城班長、あれだれです?」

「さあな、うちのメンバーじゃないことは確かだが」

「なんだい、太郎坊、気になるお年頃か?美人だものね」

「秋さん、その呼び方やめて下さい」


 秋さんに揶揄われる。しかし、確かに美人だ。切れ長の瞳と流した黒髪が美しいと感じてしまう。


「来たぞー」


 装甲バスが到着し、分隊は一路、ベースキャンプへ。どうやら例の彼女も乗るようである。第一分隊の便乗かな。時々ある事だ。


 ベースキャンプに到着し、各自装備を置いてブリーフィングルームに集合となった。今回は部屋数を用意出来ない為、一から三十六までの分隊が集まるので、会議室も大テントの中だ。数百人の探索者が集まると壮観である。


「皆さん、お久しぶりです」

「渡井三位。お久しぶりです」


 声を掛けられて見れば、渡井三位が挨拶に来ていた。どうやら今回もこちらの班に同行するとの事。


「なんで作戦に重要な彼女をここに?」

「さあな」


 山城班長も聞かされていないらしい。


「軍団長だ」

「川上軍団長が出張ってくるなんて、やはり本気なんだな」


 作戦の概要は山北方面軍、軍団長川上二段が行った。それだけ全力を傾けるべき作戦という事なのだろう。


「以上が作戦概要になる。それから増援要員を紹介する。初鹿野二段」

「はい」


 立ち上がったのは先程の女性だった。ブリーフィングルームの後ろに座っていたのか、気付かなかった。前に出て、軍団長の横に並ぶ。


「彼女はrecapture。中央では奪還屋と呼ばれているチームに所属している。今回の主討伐に際して、援軍として来てもらっている」

「初鹿野です。よろしくお願いします」

「彼女は言うなれば砲台だ。魔法による後方支援を得意とする。それで彼女の配置だが……」


 軍団長の顔がこちらを向いた。物凄く嫌な予感がする。


「三十六分隊、山城班だ」


 会議室全体がざわついた。第一隊や第二隊ならまだ分かる。何故三十六分隊に。そう言った声が上がる。


「異議は認めん。では各自準備に入れ。解散」



 会議室には山城班が残っていた。初鹿野二段と軍団長、木田分隊長もいる。


「納得いかんといった顔だな」

「それはそうでしょう。攻略の要である初鹿野二段を私の班に配属する理由が分かりません。ましてや我が班は遊撃専門です。とても守り切れるとは思えません」

「だからこそ渡井がいる」

「だとしてもです」

「守ってもらう必要は無いわ」


 ここまで発言しなかった初鹿野二段の言葉に一同が注目する。


「見える敵は全て殲滅するから、安心して」

「尚更、分からないな。貴女はこの班でいいのか?」

「構わないと思っているわ。がっちり守られているより、断然動きやすいから」


 本人がそう言うのならと、渋々了承する形となった。山城班長がここまで渋ったのは理由がある。三十六分隊山城班ははみ出し者の集まりなのだ。命令違反をした者や、協調行動が苦手な者。口の災いで降格した者等、癖の強いメンバーが揃っている。本来ならもっと階級の高いであろう実力者も多い。だからこそ、エリート様の帯同が上手く行くとは思えないという訳だ。しかし、命令は下ってしまった。

 軍団長らが出て行き、その場には山城班だけが残った。気まずい沈黙を破ったのは、渡井三位だ。


「あの、渡井です。よろしくお願いします。初鹿野二段」

「ええ、よろしく。あたしの事は保奈美と呼んでね。名字で呼ばれるの好きじゃないの。得意なのは広範囲魔法よ」

「山城だ。班長をしている。階級は八位」

「大八だ」

「秋です。よろしくね」

「春日です。仲良くやりましょう」

「倉松です。よろしくお願いします」

 

 自己紹介が終わり、各自準備に入る為、解散する。



「作戦開始!」


 作戦が始まった。今回の作戦概要はこうである。第二分隊と第三分隊の遊撃班が主の住処である、洞穴を強襲。ひと当てしたところで、撤退し、罠のある作戦区域まで誘引。そこで待ち構えていた第一分隊が交戦しながらすり鉢状に掘り込んだ中央罠へ誘導。罠を爆破し、落とし穴へと落とす。そこからは全体の飽和攻撃で倒し切る。これはタイミングが重要だ。爆破を誤れば死人が出る。工作班は戦々恐々だろう。


「主が来るまでは暇だな」

「春日さん、だれてるとまた怒られますよ」

「あなた達は随分余裕があるのね」


 エリアボスを近付けさせない為に防衛ラインを引いている他の班と違って、我々は主討伐の為、待機を命じられている。そんな状態を端的に表すなら、そう暇なのだ。


「なるようにしかならんだろ」

「そう言えば、保奈美さんは主を倒した事があるんでしょ?参考までにその時の話、聞かせてよ」


 春日さんは美人を見ると毎回こうなる。失礼が無ければいいが。そして大八さんは相変わらず平常運転だ。


「そうね。いつも主討伐は命懸けなことは確かね。福島は特にそうだった」

「私も興味有ります。どんな主だったんですか?」


 渡井さんも話に参加して来る。


「軟体系の、所謂スライムってやつね。厄介だったのはそのスキルかな」

「へぇ、どんなスキル?」

「強奪ってスキル。主は必ずエピック以上のスキルを保有しているんだけど、そのスキルは特に危険だったわ」

「強奪か」

「何と吸収した探索者のスキルを使用出来るのよ」

「うわ。それはヤバい」

「あたしもやむなく吸収された味方ごと、大魔法で消し飛ばすしかなかった」

「それは……」

「戦場ではよくある事、そうでしょう?」


 そう言った保奈美さんの顔は哀しそうだった。沢山の死を体験して来たのだろう。今回はそんな事が無ければいいが。


「来たぞ!速いから気を付けろ!」


 第二分隊が駆け込んできた。僅か三人だ。まさか、他は全てやられたのか?


 姿を現したのは犬だ。体高は二メートルくらいか。そこまで大きくは無いが、その風貌は恐怖を駆り立てる。


「さあ来い犬っころ!」


 中央で気勢を上げるのは第一分隊の沢潟さんだ。我が山北方面軍のエースであり、階級も三段と最も高い。手に持つハルバードで敵を屠ってきた猛者だ。


「なんだ?」


 だが、犬主はそちらを一瞥しただけで動こうとしない。やがて、こちらまで届くような大きな遠吠えをする。すると、周囲からも遠吠えが返って来る。まずいぞ、これはやられたんじゃないのか。展開が劣勢になる前に急いで犬主を鑑定した。


▶山北魔境の主 八魔狗

 八つの命を持つモンスター。鋭い牙と爪から飛ぶ斬撃が強力。魔法抵抗が非常に高い。


「これは!」

「どうした」

「こいつ魔法効かないタイプです!」

「なんだと!?」


 周囲の防衛ラインから報告が次々に上がって来た。急襲して来たのは主の眷属だろう。一体一体がエリアボスに匹敵する強さで、既に防衛戦が瓦解しているようだ。


「くそっ。罠に嵌ったのはこっちだってのか!」


 第一分隊は戦闘を開始していた、だが、頼みの魔法が効かないとあって苦戦している。誘導も上手くいかず、明らかに罠の場所を把握している感じだ。やがて、八魔狗は周囲を爪の斬撃で手当たり次第に攻撃し始めた。運悪く支援係が被弾してしまう。そこから明らかに劣勢になった。負傷したメンバーを庇いながら戦うのは難しいのだろう。


「不味いわね。私が援護に入るわ」

「それは、大丈夫なのか?」

「大丈夫でしょ。見たところワンコちゃんは物理攻撃のみ。だから、その時は頼むわよ。渡井ちゃん」

「はい!任せて下さい!」


 保奈美さんが杖を取り出し構えた。聞いたことも無いような長い詠唱だ。やがて杖の先端からいくつもの光球が発生し、保奈美さんの周囲を旋回しだす。その数が数え切れない程になった時、発動が促された。


流れ墜ちる数多の流星(メテオール)


 絶え間ない光が八魔狗を襲った。三十秒近くもの間、目標に光が殺到し、眩しさに目を背ける。砂煙が晴れると地形が変わってしまっていた。


「なんて魔法だ」

「これは流石に……」

「ははっ、やったな。保奈美さん!惚れちまいそうだぜ」


 軽口を飛ばした春日さんの首が飛んだ。


「はっ?」

「かすがー!」

「渡井!物理方陣!!」

「は、はい!三角方陣!」


 渡井さんが三角方陣を張った次の瞬間、何かが噛みつく。そこには防御魔法ごと食い千切ろうとする八魔狗の姿があった。





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