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7.王の意思




 ダバラクエストはPvPである。両陣営に分かれて、陣取り合戦を行い。王弟側の勝ち取ったフラッグの数と、王子側の守りきった拠点の数で勝敗が決まる。そしてPvPの常として攻めが人気になる。つまり防衛側は人数不利。何とかして貢献度を稼ぎ、クリアを目指す。ただし、イレギュラーが無い限りは……。


「おい、話と違うぞ、あの王子無茶苦茶じゃないか!」


 敵陣営から悲鳴が上がった。現在、俺達は王子に付き従い、第二拠点の防衛に当たっている。第一拠点は早々に落とされ、第二も秒読みかとなっていたが、セイマ王子が戦場に姿を現すと形勢が逆転した。実はNPCの強さはそこまでじゃない。プレイヤー一人でも二、三人は相手出来る程度なのだが、セイマ王子に限っては、ボスモンスターかと思う程の強さを誇っており、付き従う近衛もそこらのNPCとは一線を画す強さである。その中でも、マスカリさんは突出した戦士だった。


「敵本隊が第三拠点に向かっています!」

「何?おのれ、逃げたな。よし近衛隊半分はこちらを死守せよ。マスカリ、第三へ向うぞ!」

「はっ」


 堪らず、王弟側は王子を避ける判断をしたようだ。


「我々も残ります!」

「頼む!」


 このままでは、活躍出来ず貢献度が足らなくなりそうなので王子と別れることにした。


「ひゃーすっごかったね王子君。マジヤバ」

「ああ、あれほどの槍捌きは現実でもお目にかかることはないな」

「王弟さんもあれぐらい強いんでしょうかね」

「どうだろうな。しかし、このままとはいかないんじゃないかな。バランス悪いって怒られそう」


 俺達のパーティーはかなり対人に有利な構成だ。ヒーラーがいて、デバッファーがいて、前衛が二枚。御蔭で、デスペナを受ける事も無く、確実に貢献度を稼ぐ事が出来ている。


「右の射線は煙幕で切るよー」

「今の内に立て直しましょう。らっきょさんは下がって回復、タリさんに防御バフを掛けますから、前に出て下さい」

「了解」

「出るぞ!」

「ガーディアンヴェール!」

「らっきょ!これでもくらえ!」


 ぽぷらから初級ポーションが飛んでくる。ピッチャーのような華麗なフォームだ。アイテム師のスキルで投げつける事により、彼女は回復も行える。


「こらっ!人に物を投げてはいけません!でも、ありがとな」

「ケケケッ」


 何が面白いのか、ぽぷらは悪い顔で楽しそうに笑っている。


「よし、回復完了。いけるぞ!」

「らっきょさんはそのまま煙幕に突入。敵の射手を叩いて下さい」

「叩いて、その後どうすればいい!」

「多分、集中攻撃されます。観念してリスポーンお願いします!」

「はは!分かった!華々しく散ってやる!」 


 ダイモンの指示は分かりやすい。それにセンスを感じる。リアルでも良い指揮官なんだろう。その指揮官が玉砕してこいと言うのなら、喜んで散ってやろう。


 射手がいるであろう方角は見当がついている。先程から動いてないのは安地でぬくぬくしてるからだろう。だけどな、芋スナってのは、古来から嫌われるもんだ。余裕ぶっこいてると寝首をかかれるもんだぜ。

 

 煙を抜けると、壁にぶち当たる。敵はこの上、物見櫓を占拠してスナイプを続けているようだ。俺は重心移動を発動。レベルが上がって武器にも重心を移動する事が出来るようになった。壁に初期装備の槍を突き刺し、そこに重心を置く。柄の先を持ち、撓らせながら体をかち上げる。そこで、体に重心を戻せば、俺はたちまち壁の上まで跳ね上げられた。装備を現在の槍に持ち替え敵を探す。いた、こちらには気付いていない。


「両手突き!」

「なっ、どうやってここに!」


 数回突き刺すと、ポリゴンになって消える。火力極振りの紙スナだったか。使命は果たした。後は出来る限り敵の戦力を削ぐ。


「櫓の上だ!魔法で狙い撃て!」


 すぐさま魔法が殺到して来る。これは生き残れないな。じゃあ最後っ屁にアレやるか。ここは高所。敵は目下。やる事は一つ。重心移動を発動し体勢を整える。


「死なば諸共!一緒に逝こうぜ!」


「天柱落!」


 槍が着弾した瞬間、魔法によって意識が途切れた。


【デスペナルティとして三分間、リスポーンが出来ません】


 やきもきする三分間が終わり、味方陣地のリスポーン地点で蘇生する。すかさずマップを確認すると、第二拠点は既に落とされていた。やはり数の暴力には抗えなかったか。皆も落ちたみたいだ。パーティー欄がグレーになっている。暫く待っていると、次々とリスポーンしてきた。


「マジえっぐい。これ無理ゲーっしょ」

「仕方が無いだろうな。セイマ王子がいないとなれば勝機と思うのも納得がいく話だ」

「まだ王子を守りきれば勝ち目はあります」

「そうだな。やりようはある」


 マップ情報によると、王子は第三拠点で奮闘しているようだ。


「第三拠点に向かいましょう。制限時間まで後十五分。クライマックスです」



 第三拠点では激闘が繰り広げられていた。無双するセイマ王子に対してあちら側も最強をぶつけてきた。王弟ドラズロである。俺達が到着した時には周りの兵士は両軍共に倒れ伏し、マスカリさんまでもが、戦闘不能に陥っている始末だった。周囲の建物は倒壊し、戦闘の凄まじさを物語っている。


「叔父上!何故国を裏切るのですか!」

「裏切るつもりなんざないさ。ダバラの王てのは最強の槍使いがなるもんだ。兄貴は確かに強かった。たがな、セイマ、お前は違う。だから俺がなる。単純だろ?」

「度し難し。その驕り、正して差し上げます」


 周囲にプレイヤーは集まって来ているが、二人の戦闘に介入する隙が無い。


「なんだセイマ、そのへっぴり腰は。始祖竜が泣くぞ」

「その名を軽々しく使うな!」


 ドラズロの槍捌きはまるで要塞。経験に裏打ちされた動きには迷いが無い。一方セイマ王子は熾烈な攻めの槍。若さ溢れる勇姿が眩しい。だが、攻めが尽く捌かれ、王子が後退を始める。


「これはセイマ王子が不利だな。お邪魔しにいこう」

「正気か!?」

「いいーねーいいねー!」

「そうですね。少しでも勝率を上げたいところ」


 タリ氏だけがドン引きしているが、ここは行くところだろ。誰の為のゲームなんだよ。俺達の手で決着させるべきだろ。


「おら!行くぞ!ダイモン、フルバフ!」

「了解です!」

「これも持ってけー!」


 お、ぽぷらからステータス増加の強化瓶が投げられた。かなりの強化値だ。


「よっしゃ。なるようになれだ!」

 

 ドラズロが王子の槍を捌いて後退した瞬間を狙って横槍を入れた。完璧な不意打ちのはずだったが、体捌きで避けられる。


「む、無粋な奴だな。俺達の決闘に水を差すな」

「これは失礼。俺も槍使いとして名乗りを上げようと思ってな。権利はあるだろ?」

「らっきょ殿」

「すまねぇな王子様。黙って見てられなかった。助太刀するぜ」


 ここからは、二対一の戦いとなる。と言っても俺はステータス的に劣る側なので、王子の隙を突いた攻撃を往なす役だ。王子が大胆に突き入れ、戻りの隙を俺の突きで消す。ひたすらにそれを繰り返す。


「小癪な奴め」

「防御だけは自信があるんでね」

「叔父上お覚悟を」


 周りも動き始めた。プレイヤー同士の戦いが再開され、やはり王子派が押され始める。


「ラッキー(らっきょ)もうムリー」

「早く決めてくれ、あまり保たないぞ!」

「ローヒール!」


 ダイモンのヒールを受け、再び耐える体勢に入る。


「王子。決めきるしかない。俺が抑え込むから大技頼む」

「分かった!」

「そう上手くはいかせんよ!ハーフスイング!」


 ドラズロが槍の柄を長く持ち薙ぎ払った。槍で縦に受けて、耐えようとする。しかし、体が反対へと流れ体勢が崩してしまった。


「もらった!」

「重心移動!」


 流れた体を無理矢理戻す。


「何!?」

「槍だけが全てじゃないぜ!」


 薙ぎ払いの回転を利用して、突き刺し攻撃に移行していたドラズロの懐に入り込み、背負い投げた。


「くっ」

 

 そのまま地面に抑え込む。くそ、なんて力だ。


「王子!!」

「竜の逆鉾(さかほこ)!」


 一気に助走距離を取った王子が黄金の光を纏いながら突撃して来る。アビリティのアシストを受けたその速さは尋常では無い。何とか横に転がり避け……衝撃を受けて吹き飛ばされた。


「があああ……」


 ドラズロは生きていた。しかし、片腕を失い、立つ事もままならない。セイマ王子が槍先を突き付け、降参を促す。 


「勝負ありです。叔父上」

「はぁはぁ、まだだ!強さだけが、力では無い。お前達!」


 ドラズロは周りのプレイヤー達を焚き付ける。確かに、俺の手助けを受けて戦ったのだから、彼も援護を受ける権利はあるだろう。


「セイマ。お前は勘違いをしている。最強の戦士とは最強の意思を持つ戦士。意思ある限り負けることは無いんだよ」

「意思のみが真の王を形作る」

「なんだよ知ってるじゃないか。そうだ、それが王の矜持。意思が王を創り、形作る。意思無き者に王は務まらん」

「そうですか……ならば、私は宣言しましょう」


 セイマ王子の顔付きが変わった。今までの若さ溢れる若者の顔から、威厳を持つ王の顔へと。


「皆の者!しかと聞け!我は父サハドの意思を継ぐ者。始祖竜が拓きしこのダバラの新たな王。ダバラ=セイマである。この勅によってここに意思を示す!」

「よく言った!」


 突然、背後から言葉が響いた。人垣を割って老人が歩み出てくる。


「親父……」

「お祖父様!」


 あの時のじいさんだ。名前の表示が見えるようになっている。そこにはこう表記されていた。武神ヤハハリ。


「ドラズロ。お前の負けじゃ。観念せい」

「親父俺はまだ負けていない。槍だって握れる」

「阿呆が、片腕を失って何を抜かしとる。勝負は決した。兵を引け」

「納得出来ない。何故兄貴ばかりなんだ。俺じゃ駄目なのか!」

「それが理由じゃ。お前の前にいるのはサハドでは無い。お前は兄の幻影と戦っているつもりだろうが、セイマは立派に一人の戦士となった。それが分からん者には王は務まらんよ」

「巫山戯るなよ!まだだ!まだ負けてないんだ!」


 ドラズロが何かを投擲した。それはセイマ王子の目の前に転がり落ちる。その物体から光が溢れ……俺は咄嗟に飛び付いていた。腹に掻き抱き、丸くなる。


「らっきょ!」

「おぬし!!」


 世界が暗転した。


【デスペナルティとして三分間、リスポーンが出来ません】


 三分後、俺がリスポーンすると、ダイモンが待ってくれていた。


「私だけ先にこちらで待たせてもらいました」

「戦いは?」

「終わりました。王子の勝ちです」


【メインクエスト:ダバラの内乱が終了しました。貢献度によりあなたはクリアとなります】

【経験値が分配されました】

【レベルが上がりました】


らっきょ Lv 14


メインジョブ 槍使い


サブジョブ 商人


筋力   20→26


頑強   16→22


知恵   12→16


器用さ  18→24


敏捷   15→21


魔法抵抗 12→16


運    5→7


スキル 


槍術Lv 4 互換性 重心移動Lv2


天柱落Lv1 体捌きLv1←new


身体能力向上Lv3 健康Lv1


頑強Lv3 健脚Lv2 体力増強Lv2


棒術Lv4 挑発Lv2 鑑定Lv3


アビリティ


両手突き 打ち払い 投槍 上段突き 

クワトロスイング←new


 クエスト中の経験値はストックされていたようで、一気に四つもレベルが上がった。レベル十五でクラスチェンジが可能になるらしいので、あと少しだ。槍術と頑強のレベルが上がり、体捌きを覚えた。回避に補正が入るようだ。クワトロスイングはドラズロが使っていたハーフスイングの劣化技のようだ。九十度槍を振り回して攻撃出来る。と、確認していると、じいさんが歩いて来るのが見えた。いや、ヤハハリ様だっけか。


「ほほ、儂はセイマかドラズロのどちらかと思っておったがまさかお主とはの」

「うん?何の事だ?」

「まぁ、まずは礼を。孫を救ってくれた事、感謝する」


 ヤハハリ様は胸に手を当て一礼する。リザードマンの感謝の仕方なのかな?


「さて、お主、名を聞いておらんかったな」

「らっきょだ」

「そうか儂はヤハハリだ。ほれ、右手を見てみなさい」


 そう言われて、右手を掲げる。ヤハハリ様から貰ったミサンガもどき、意思の試し(槍)が目に入った。よくよく見ると、その中央に稲妻のような意匠が追加されている。鑑定すると固有名が変わっていた。


▶勇気の示し(槍)

 装着可能アクセサリ。筋力に補正(中)

 このアイテムをクラスチェンジの際、使用する事により覚醒者(槍)にクラスチェンジが出来る。勇気の示し(槍)は消滅する。脱着不可。


「これは……」

「お主の勇気に敬意を。覚醒者の資格が十分にある」


 つまり、ユニークジョブへのクラスチェンジ権を得たと解釈して良さそうだ。


「まぁ、槍の扱いには自信があるからのう。良かったらまた訪ねてきなさい」


 ヤハハリ様はそう言って立ち去っていった。何か凄いじいさんだったな。クラスチェンジを果たしたらまた会いに来るか。その後、クランメンバーと合流。明日は次のエリアに進む事で合意を得た。

 こうして無事第二エリアを突破し、電脳軍(仮)は第三エリアへと歩みを進めるのであった。

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