これから
言うだけ言ってオーレリーは元の場所へ戻った。
「その二人を含めた使用人達への懲罰、その他は役所に任せます。けれど、オーレリーはオーヴェル帝国に連れて行きます。彼女の実状を見抜けなかった間抜けな、あら、失礼。国、人には呆れましたから。国王陛下からの許可も頂いてますの。」
リュカが立ち上がる。
「オーレリー……本当にすまなかった。俺は、君のことが大好きで、大切だったのに、契約に囚われて……もっと自分で動くべきだったんだ。」
オーレリーの前に膝を付くリュカ。困惑するオーレリーはブランカに視線を送る。
『好きになさい。』
ブランカの表情が物語っていた。
「あなたの好いていたオーレリーは、死にました。私は新たに生まれ変わり、新たな土地でやり直すと決めたのです。」
笑顔で答えた。
その笑顔にすら、ときめいて見惚れてしまう自分に気付くリュカは、思わずオーレリーの手をとった。その様子を見ていたブランカは、目を細める。
(あら、凄い執着だわ……。ふぅん、面白っ。)
幼い頃出会ったオーレリーに一目惚れしたリュカ。それまで我儘一つ言わなかった少年はオーレリーを欲した。
幼い頃から飛び抜けて優秀で、二人の兄より早く言葉を覚え、本を読み、魔術に開花した。人のやっかみが煩わしく、二人の兄からの視線は特に嫌なものだった。
優秀すぎると人の自分を見る目の中に、化け物を見るかのような感情が含まれていることに気付いた。自分に笑いかけている両親も心では何を思っているかなんて分からないと感じた。そんなやさぐれた心を隠しながら育った八歳の少年が出会ったのが無垢なオーレリーだった。
親友だった母親同士で行われたお茶会での出会い。彼女は心から笑って泣いて怒った。裏がないと初めて思えた相手だった。
「私は、いつかお母様みたいな淑女になるの。」
それは悲しいとリュカは思った。
「でもね、お母様みたいに、大好きなお父様の前では、嬉しそうに笑うの。大好きな人の前だけでは、本当の自分を見せるのよ、それが淑女だってお母様が言ってたのよ!だから、私はお母様みたいな淑女になるの!」
嬉しそうに、楽しそうに話すオーレリーの相手には自分がなりたいと強く思った。
刷り込みとは恐ろしいもので、何も我儘を言わなかったリュカはオーレリー以外を望まなくなった。欲しいのはオーレリーだけ。オーレリーのためにデラージュ侯爵家に婿入りする。ドラクロア公爵家は兄のもの、いらない。自分はオーレリーがいるから存在しているのだと親にも言った。リュカの父親がオーレリーの祖父の無茶ぶり契約を了承したのは、内心、兄ラファエルより優秀なリュカを後継にするためでもあった。デラージュ侯爵家に婿入りなど面倒くさいと思える状況に置けばいいと言う目論見があった。けれど、そんな父親の心知らず、会えない時間が彼の執着を濃く、深くしてしまったのを公爵は大いに反省した。オーレリーに執着し、公爵家に全く興味を示さない弟と兄はとっくの昔に和解していた。
「私は姫様と一緒にオーヴェル帝国に行きます。」
「じゃあ、俺も行く!」
即答である。ぎょっとしたのはシモンと役人。
「オーレリーのいないデラージュ侯爵家になんか価値はない!一緒に行く!」
沈黙が降りた。手を取られたオーレリーは混乱の極みである。
そこに、艶やかな笑い声が響いた。
「面白いわ、あなた、面白い人間ね!いいわ、オーヴェル帝国への移住が叶うよう協力をしてあげる。」
「ひ、姫様!」
「本当ですか!ありがとう!」
二人の言葉が重なった。
「ただし、憂いなく、ちゃんとけじめを付けていらっしゃい。そして、まずは、そうね……辺境のロイエンタール領に行き、オーヴェル帝国のことを学んで、ついでに魔獣を乗りこなせるようになりなさい。じゃないとオーヴェル帝国では埋もれてしまうわ。オーレリーに苦労をさせたくないでしょ?それが最低条件よ。」
朗らかに言うブランカ。
「今度の契約は何としても完了させる!」
一年後、学園を卒業し、成人となったリュカは、両親、家族を説得し、無事オーヴェル帝国へと入国を果たす。姫との約束の地にて、魔獣の取り扱いを学ぶためロイエンタール辺境学園に編入した。その間、オーレリーとの手紙のやり取りは欠かさず、ロイヒシュタイン公爵家の親戚筋の伯爵家に養女として迎えられていたオーレリーが社交界デビューをする時は、エスコート役を誰にも譲らず、安定した地位を得るためにオーヴェル帝国の官吏の試験を受けて、就職したりして、その地位を確実なものとした矢先、魔獣を操れること、魔術にも秀でてることがバレて、文官から武官へと移動を命じられ、その身を王立魔獣騎士団に置くことになり、爵位を与えられたことで、オーレリーとの結婚が叶うのだが、それはまた別のお話。
一気に書き上げた感のある話です。なので、シリーズの本編を読まないと訳わからん展開も多いことでしょうが、書きたいものを書くと決めたのでこうなりました。大好きなJO1の僕らの季節をヘビロテで聞いてたので、雪の季節の話になったことはいなめません。