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異世界帰りの元勇者は現実世界でも天才でした。  作者: 坂元たつま


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共鳴する魂と次元熱の処方箋(レゾナンス・セラピー)

新世界「第零特区」に、新たな災厄が影を落としていました。人々が突然高熱に倒れ、その身体の一部がノイズのように点滅し、周囲の物体と透過・融合してしまう奇病――通称**「次元熱ディメンション・フィーバー」**の蔓延です。

現実世界の医学も、アウラ王国の治癒魔法も、この病の前には無力でした。

  隔離された希望

IRC(国際復興委員会)の九条は、即座に特区の完全封鎖を断行しました。

「この病は『データの不整合』だ。感染者は新世界の物理法則に適応できていない不良セグメントに過ぎない。蔓延を防ぐには、彼らをシステムから『隔離』し、最悪の場合は消去するしかない」

九条が指揮する医療センターのモニターには、感染者たちの生体データが、単なるエラーログとして冷徹に表示されていました。

一方、マサトはサヤと共に、独自の調査を続けていました。

「サヤ、これはウイルスじゃない。世界がアップデートされたことで、人々の『精神』と『肉体』の同期がズレているんだ。……いわば、重なり合った二つの世界のどちらに軸を置くべきか、魂が迷っている状態だ」

かつての計算能力があれば、一瞬で同期コードを生成できたでしょう。しかし、今のマサトにできるのは、病床で苦しむ一人一人の手を握り、その微かな鼓動に耳を澄ませることだけでした。

  響き合う「始祖の灯火」

マサトは、マリアが看病を続けている救護所に辿り着きました。そこには、現実世界のサラリーマンと、アウラ王国の老人が、互いの身体をノイズで侵食させながら苦しんでいました。

「マサト様……この方たちの魂が、消えかかっています。魔法をかけても、砂のように指を通り抜けてしまうのです」

悲しみに暮れるマリアの手を、マサトは優しく包み込みました。

「マリア、魔法を『当てる』んじゃない。君の中にある『始祖の灯火』を、彼らの鼓動に合わせて『響かせる』んだ。……歌を歌うように」

マサトは直感していました。この新世界を繋ぎ止めているのは、冷たい数式ではなく、マリアが持つような**「根源的な慈愛」**の波動であると。

マリアが静かに歌い始めると、彼女から放たれる黄金色の光が、ノイズにまみれた患者たちの身体を包み込みました。マサトはその光の波形を読み取り、サヤに指示を出します。

「サヤ、IRCの音響設備をジャックしろ! マリアの歌声を、第零特区全域の次元周波数に変換して放送するんだ。これは治療じゃない、世界との『調律』だ!」 

九条の妨害と、マサトの「再起動」

「馬鹿げたことを。精神論で物理現象が解決できるものか!」

通信に割り込んできた九条が、放送を阻止しようとセキュリティを強化します。マサトの前に、最新のAI防壁が立ちふさがりました。

「……くっ、脳が……熱い」

防壁を突破しようとするマサトの脳裏に、かつての天才的な演算の断片がフラッシュバックします。しかし、それは激しい痛みを伴う拒絶反応でした。

その時、サヤがマサトの脳波モニターに、ある「隠しファイル」の存在を発見しました。


「榊原くん! あなたの脳の深層部に、オリジン・システムが残した**『バックアップ・パーティション』**があるわ! あなたの能力は消えたんじゃない、新世界を安定させるために『スリープ状態』になって、バックグラウンドで動き続けているだけなのよ!」


「スリープだと……? じゃあ、今の俺の脳は、この世界を維持するためのサーバーになってるってことか」

マサトは覚悟を決めました。一時的にそのリソースを「ハッキング」し、自分の意志で解放する。

「九条、あんたのAIに教えてやるよ。……この世界を創ったのは、あんたのロジックじゃない。俺たちの『感情』だ!」

マサトの瞳が、一瞬だけ銀色に輝きました。スリープしていた知性の一部が再起動し、九条の防壁を紙細工のように引き裂きました。

 鳴り響く新世界の歌

特区中のスピーカーから、マリアの歌声が多次元共鳴波として流れ出しました。

その瞬間、街中で点滅していた人々の身体が、嘘のように安定していきました。ノイズは消え、現実世界の物質と異世界の生命が、互いを傷つけることなく「共存」する波長へと整えられていったのです。

「……信じられん。周波数が、完璧に調和している」

医療センターで立ち尽くす九条の前に、マサトの声が届きました。

「九条。あんたが守ろうとしたのは『データ』だ。でも、俺たちが守りたいのは『命』なんだ。……この違いがわからない限り、あんたにこの世界は御せない」

 影からの監視者

騒動が収まり、夕暮れに染まる第零特区。マサトは激しい脱力感に襲われながらも、マリアの肩を借りて立ち上がりました。

「……少しだけ、思い出したよ。俺が何をすべきか」

しかし、その様子を遠くのビルの屋上から見つめる影がありました。ギルマンの残党でもなく、IRCの人間でもない。その男は、古びた機械の仮面を被り、不気味な笑みを浮かべていました。

「素晴らしいよ、榊原マサト。オリジンの力をその身に宿しながら、人間に固執するとは。……だが、その『バックアップ』が完全に目覚めた時、君は本当に人間のままでいられるかな?」

男の手には、マサトが書き換える前の「旧世界の断片」が黒く光っていました。

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