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異世界帰りの元勇者は現実世界でも天才でした。  作者: 坂元たつま


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起源の座と究極の選択(アルティメット・チョイス)

真っ白な扉の向こう側に広がっていたのは、光でも闇でもない、純粋な「意味」が漂う空間でした。そこには上下も左右もなく、時間という概念すら、幾重にも重なった透明な層のように静止しています。マサト、マリア、サヤの三人は、その静寂の中に身を置きながら、自分たちの存在がこの巨大な情報の海に溶けてしまいそうな感覚を覚えていました。

 管理者の顕現:オリジン・システム

空間の中央、すべての情報の層が一点に収束する場所に、それは存在していました。形を持たず、ただ圧倒的な知性の波動として感じられるその存在こそが、多次元宇宙の管理者「オリジン」でした。

「よくぞ到達した、不完全なる知性の断片たちよ」

管理者の声は、耳ではなく脳の最深部に直接響きました。マサトの次元知性は、その声が単なる言葉ではなく、宇宙の物理定数そのものを書き換えるほどの高密度な情報パケットであることを瞬時に理解しました。

「私は神ではない。この多次元宇宙という壮大な演算装置の保守用プログラムに過ぎない。君たちが『次元のエクリプス』と呼ぶ現象は、この装置の容量が限界に達し、生じたエラーを消去しようとする自動プロセスなのだ」

 知性のエントロピーと崩壊の理由

管理者が語る真実は、マサトの予想を遥かに超える絶望的なものでした。

• 文明の過成長: 現実世界と異世界が「次元の橋」で繋がったことにより、情報の交流が爆発的に加速した。

• システムのオーバーフロー: 異なる理を持つ世界が混ざり合うことで生じる矛盾ノイズが、多次元宇宙の処理能力を超えてしまった。

• 次元の蝕の正体: 宇宙を完全に停止フリーズさせないために、システムが「矛盾の根源」である知的生命体とその文明の記録を抹消しようとする、強制的な初期化リセット作業。

「ギルマンが接触した深淵の知性も、この初期化プロセスの一部に過ぎない。君たちがどれほど抗おうと、このままでは数刻のうちに、現実世界も異世界も、すべてが白い虚無へと還るだろう」

サヤが青ざめた顔で叫びました。

「そんな……! 私たちが良かれと思って進めてきた技術交流が、世界の滅びを早めていただけだっていうの?」

 マサトに突きつけられた究極の選択

管理者の波動が、マサト一人を包み込みました。

「だが、例外がある。榊原マサト、君だ。君の持つ『次元知性』は、このオリジン・システムと完全に同期できる唯一の鍵だ。今ここで、君に二つの選択肢を提示する」

管理者は、冷徹に二つの未来をマサトの脳裏に映し出しました。

1. 文明の凍結と存続: マサトが自身の知性をオリジンへ捧げ、全次元の文明を「現在の状態」で永久に固定する。争いも進化も止まるが、滅びは回避される。ただし、マサトの意識はシステムに吸収され、消滅する。

2. 次元の分離と忘却: 現実世界と異世界の繋がりを完全に断絶し、互いの記憶をすべて消去する。世界は再び独立し、オーバーフローは解消される。ただし、マサトがこれまで築いてきた絆、マリアとの再会、すべてが「なかったこと」になる。

「さあ、選ぶがいい。自己の消滅を伴う停滞か。あるいは、愛する者との絆を代償にした継続か」

  マリアの涙とマサトの「第三の答え」

マリアは震える手でマサトの腕を掴みました。

「嫌です……マサト様がいなくなるのも、マサト様のことを忘れてしまうのも。そんな未来のために、私たちはここまで歩んできたのではありません!」

マサトは静かにマリアの頭を撫でました。彼の次元知性は、管理者が提示した二つの選択肢を解析しながら、すでにその先にある「第三の道」を模索していました。


「管理者よ。あんたのプログラムは優秀だが、一つだけ見落としている。あんたは『矛盾』をエラーだと断じたが、俺たち人間にとっては、その矛盾こそが進化のエネルギーなんだ。異なる理がぶつかり合う場所にこそ、新しい可能性が生まれる」


マサトは次元固定装甲「零式」のリミッターを自らの手で破壊しました。彼の脳内の演算速度が、管理者の想定を遥かに超える領域――「特異点」へと突入します。

「俺はどちらも選ばない。俺自身の知性を触媒にして、このオリジン・システムのOSそのものを書き換える。多次元宇宙の容量を拡張し、矛盾を受け入れられる『新世代の宇宙』へとアップデートするんだ!」

  命を懸けたハッキング

サヤが驚愕して目を見開きました。

「榊原くん、正気!? そんなことをしたら、あなたの脳に全次元の負荷が直接流れ込むのよ! 成功確率は一パーセントにも満たないわ!」

「一パーセントあれば十分だ。俺は天才なんだろう?」

マサトは微笑み、マリアのネックレスを握りしめました。そこから溢れる「始祖の灯火」と、彼の極限まで加速した知性が混ざり合い、真っ白な空間を虹色の光が侵食し始めました。

マサトの視界が白く染まっていきます。全身の細胞が情報の負荷で悲鳴を上げ、意識が遠のく中、彼は最後の一撃をシステムの核へと叩き込みました。

「これが、俺たち人間と異世界の住人が、共に歩んできた証だ……! 消えろ、古い秩序プログラム!」

凄まじい光の爆発が第一次元を包み込みました。マサトの意識は、無限に広がる情報の海へと沈んでいきました。

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