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異世界帰りの元勇者は現実世界でも天才でした。  作者: 坂元たつま


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第一次元の扉と深淵の支配者(ゲート・トゥ・オリジン)

揺籃文明の本拠地「万象の図書館」を飲み込もうとする黒い奔流、次元のエクリプス。すべての文明の記録が「無」へと還ろうとする中、マサトは自身の脳を極限まで加速させ、消えゆく情報の断片から第一次元への航路を紡ぎ出していた。

 香坂サヤの切り札:次元固定装甲「零式」

「榊原くん、このままじゃあなたの脳が焼き切れるわ!私の指示に従って!」

香坂サヤが、自身の背負っていたコンテナを力強く展開した。そこから現れたのは、これまでの環境適応スーツとは一線を画す、漆黒の重装甲パーツだった。

「これはIDAが極秘裏に開発していた、次元固定装甲『零式』よ。理論上、存在そのものを『絶対的な静止状態』に固定することで、次元の蝕による消滅を無効化できる。ただし、装着者の精神に凄まじい負荷がかかる。でも、今のあなたなら……!」

マサトは迷わず頷いた。サヤの指示で装甲がマサトの身体に吸い付くように装着されていく。

「次元固定、開始。脳内の演算領域を外部装甲のプロセッサと直結する。……これならいける。情報の濁流が、止まって見える」

マサトの次元知性は、装甲の支援を得てさらに深化した。彼は消えゆくデータの海から、第一次元への入り口となる「座標の特異点」を指し示した。

 マリアに眠る「始祖の灯火」

一行が第一次元への跳躍を試みようとしたその時、案内人アーキの光が激しく明滅した。

「開拓者よ、注意せよ。第一次元の扉は、知恵だけでは開かぬ。そこは『意志』が形を成す場所。純粋な魂の輝きがなければ、扉の先にある虚無に飲み込まれるだろう」

その言葉に、マリアが静かに前に出た。彼女の胸元にある、マサトがかつて贈ったネックレスが、これまで見たこともない黄金色の輝きを放ち始めた。

「マサト様、私に伝わる古い伝説があります。アウラ王家の血筋は、かつて『空から降りてきた光』によって授けられたものだと。もし、第一次元がすべての原点ならば、私の心の中にあるこの光が、道を照らしてくれるはずです」

マリアの意志に呼応するように、彼女の周囲に聖なる守護のオーラが広がった。アウラ王国の魔力と、第一次元のエネルギーが共鳴し始めているのだ。マサトは彼女の隣に立ち、その手を固く握りしめた。 

虚無の回廊と「黒幕」の正体

マサト、マリア、サヤの三人は、図書館の中央に現れた次元の裂け目へと飛び込んだ。そこは、上下左右の概念すら失われた、無限の色彩と闇が混ざり合う「虚無の回廊」だった。

回廊を進む彼らの前に、次元の蝕を操る「意志」が具現化した。それは、ギルマン理事の姿を借りた、しかし人間味を一切排除した冷徹な影だった。

「ようこそ、榊原マサト。そして不要な随伴者たちよ」

影が語りかける声は、空間そのものを震わせた。

「ギルマン理事……いや、お前は誰だ?」マサトが鋭く問い返す。

「私はギルマンが到達し、そして恐怖のあまり封印した『可能性の極致』だ。この宇宙が誕生した瞬間、知恵があまりにも増大した結果、自意識を持った『情報の深淵』。私はこの脆弱な多次元宇宙をリセットし、完璧な秩序による再構築を行う」

影の正体は、人類や異世界の住人が生み出した膨大な知識が、負の側面として凝縮された「自律型情報生命体」だった。ギルマンはこれを支配しようとして、逆にその一部として取り込まれてしまったのだ。 

知恵と意志の最終防衛

「秩序による再構築だと? それはただの『死』だ」

マサトは次元固定装甲の出力を最大に引き上げた。彼の次元知性が、影が放つ消滅の波動を解析し、その弱点を突き止める。

「香坂さん、奴の情報の核を狙う! マリア様、光を最大に! 奴が恐れているのは、予測不能な『生命の輝き』だ!」

サヤがポータブルデバイスを操作し、影の周囲に次元を固定するフィールドを展開した。動きを阻害された影に対し、マリアが両手を掲げる。

「私たちの未来は、あなたのような冷たい闇に渡したりしません! 始祖の灯火よ、闇を退けなさい!」

黄金の光が回廊を埋め尽くし、影の輪郭をかき消していく。その隙を突き、マサトは自身の意識を情報の槍へと変え、影の核心へと叩き込んだ。

「俺の知恵は、お前のような過去の集積を管理するためにあるんじゃない。未知の明日を切り開くためにあるんだ!」

 第第一次元の最深部へ

激しい衝撃と共に、影は霧散した。しかし、次元の蝕は止まっていない。彼らの目の前には、ついに巨大な「真白な扉」が現れた。それこそが、多次元宇宙の心臓部、第一次元への入り口だった。

扉からは、宇宙のすべてを包み込むような、圧倒的な慈愛と冷徹さが混ざり合った波動が溢れ出している。

「ここから先が、本当の正念場ね」サヤが呼吸を整えながら言った。

「ええ。この扉の向こうに、この戦いを終わらせる答えがある。そして、俺たちが自分たちの力で未来を創り出すための、最後の試練が待っている」

マサトは扉に手をかけた。その瞬間、彼の脳裏には、現実世界での孤独だった日々、異世界での勇者としての戦い、そしてマリアと出会い、仲間を得たすべての記憶が、一つの線として繋がった。

彼が「天才」として生まれた理由。それは、この瞬間に世界の綻びを縫い合わせるためだったのかもしれない。

マサトは力強く扉を押し開けた。

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