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#10 決着

蚊帳を「かばり」って読むのが正解の瞬間もあるのを社会から教わりましたね。お互い賢くなりました。

 俺とゼルの戦いにも、少しずつ英雄たちが集まり始めた。

 しかしあろうことか、俺も魔物と見なされてしまった。


「ヴァアアア!」


 俺は「やめてくれ」と言いたかったが、気味悪い狂気の咆哮にしかならない。


「いつの間に現れやがった。魔王のしもべめ、覚悟しな!」

「はっ、こっちはアタシの獲物ですわ。余計な手出しは無用でしてよ」


 次々に挑みかかってくるが、なんとなくで戦えてしまう。

 本気のゼルが異常に強いだけで、どうやら一時的にではあるが俺の実力はAランクを超えたようだ。


 そしてふとバーヌのいる方を見ると、ジル、ツシュル、ラパーナといったかつての仲間たち、それに加えてレッシュもバーヌとの戦いに集中していた。

 どうやら吹き飛ばされた衝撃か何かで足を挫いたらしく、レッシュの動きが鈍いのが気がかりだ。


「トロいトロい、トロいぜテメエら!」


 バーヌは叫ぶと、襲いくる全員を最小限の動きで、またしても素手で吹き飛ばしてしまった。


 ▽


 俺は不本意ながら、少しワクワクしてしまった。

 別に俺は戦闘狂ではないが、あれだけ圧倒的に強くなったバーヌと戦いたいという思いが、わずかに芽生えたのだ。


「おっと、どこ見てるんだい」


 ゼルが俺を、諦めの悪いことに再び食べようとして大口を開いた。

 英雄たちは英雄たちで、そんなコト程度では「仲間割れか」と手加減してくれたりはしない。


「くたばれーい!」


 ジジイも俺を殺す気で来たし、他にもたくさん来た。四面楚歌どころではない。強いて言うなら二十面楚歌くらいだ。


「ヴァアアア!」


 俺は「筋肉動けー」と言ったつもりで目一杯に吠え、足掻けるだけ足掻いてみた。

 もし大怪我をしたとして、狼マンであるこの状態でも不死チートが有効か分からない中で、そしてそれをしっかり自覚している中で俺はベストを尽くした。


 とりあえず動きに隙が多い魔導師から叩いていき、戦士系の攻撃はいなし、ゼルは合間合間に歯を折って戦意を削いだ。


 ▽


 しばらくはそれでなんとかなったが、突然うまく力が入らなくなり、俺はジジイの斧で真っ二つになった。


 今度は胴回りを切断され、腰から上と下が離れた形だ。

 気付けば筋肉が萎み、なんならムキムキになる前より筋肉が落ちている気がする。


 どうやら筋力強化にはそんな副作用があるようだ。それを嫌って、狼マンは俺に無茶ぶりをしてきたのかもしれない。


「ヴァア……」


 声も上手く出ない。まあ、体が半分なのに全力で叫べたら生物学的におかしいけど、とにかく不死チートのおかげか死んではいない。


 しかし俺が死に損なっているのを見逃さないジジイとゼルが2人して追撃してきた。


「消え去れーい」

「ボクが殺すんだ」


 ▽


 俺は今度ばかりは死んだな、とそっと目を閉じた。筋力強化がない以上、もう反撃するための算段はない。

 つまり、詰んだのだ。


 しかしその時、奇跡は起きた。


「ヒュコオオオ」


 ナルキアが【書】の独自判断で召喚され、かろうじて両者の攻撃を防いだのだ。


「うむ? ナルキスじゃと。なぜこんなBランクが……」


 俺がナルキアを使う場面に居合わせていないジジイには、何が起きているのか分からないようだ。

 一方、ゼルは思わずと言った感じで拍手した。


「レイジ・マクスガム、素晴らしいよ。ボクはキミに会えたことを誇りに思う」


 ジジイは俺の名前なんて知らないので、ゼルが俺のフルネームを言ってもポカンとしていた。

 しかしナルキアが新たに参戦したことだけは分かったらしく、斧を構えて屹立した。


 先ほどまでとは気迫が違う。

 ――どうやらジジイは本気を出すようだ。


 ▽


「鬼を殺すためにワシが編み出した奥義。地獄鬼暗断!」


 マスター・オーガを倒すために使ってきた、見えないほどの斧技だ。

 しかし今は動体視力が強まっているのか、動きを捉えることだけは出来た。


 どうやら単純な素早い一撃ではなく、フェイントすら交えながら何度も何度も横に斧を振り抜くことを極限に素早く繰り返しているようだ。

 まさに地獄を冠するべき、途方もない鍛練が成せる技なのを見届け、今度こそ俺は目を閉じた。


「〈俺の体だぞ。これ以上、勝手に壊すなら……返せ〉」


 誰かの声が聞こえ、斬られたはずの腰から下の部位がズズズ、と凄い勢いで上半身に引き寄せられた。

 そして、声の主が狼マンと分かった時にはもう、体の主導権はヤツに奪われていた。


 ▽


 そこからは、一瞬で全てが終わった。

 筋力強化が切れて弱体化しても、肉体の扱いを俺より遥かに会得している狼マンが本気を出せば、英雄やゼルが束になっても敵ではなかったのだ。


「〈飽きた〉」


 また狼マンの声が聞こえたかと思ったら、俺は人間の姿に戻った。


 声はそれきり聞こえなくなったが、狼マンがどうなったかは分からない。まだ俺の中にいるかもしれないし、三途の狭間に帰ったのかもしれない。


「そんなコトより、ジルたちだ」


 俺は倒れている英雄たちやゼルをそのままに、ジルやバーヌらがいる方に向かった。


「おーい、無事か?」


 呑気な挨拶な気もするが、俺はジルたちにそう声を掛けた。


 ▽


 だがやはり彼らは互いに余裕がない。バーヌの方が一見すると強いのだが、まだ力の使い方に慣れていないのか息を切らし、動きも衰えて来ていた。


「ケッ……クソったれ。魔王になってもまだ強さが足りん」


 バーヌは不満げに足をドン、と踏み鳴らした。


「観念するんだ、バーヌ。過去に何があったか知らないが、悪は制裁を受けよ!」


 そう言うとジルはすかさずライト・ブレイドを繰り出した。

 漆黒の鎧に亀裂が入った。流石は勇者の技だ。


(時間の問題だ。勝てる……!)


 俺はそう確信し、周りの英雄たちもそんな表情のような気がした。


 ▽


 バーヌはずっと無表情だ。人間だった頃の豊かだった感情表現は、魔王となってからは全く失われてしまったらしい。


「ジル。俺と共に世界を変えよう」


 バーヌが何か言い出した。苦し紛れの悪役がよく口にする、ウェブ小説でもありがちな三文芝居だ。


「イヤだ、と言ったら?」


 ジルもまあまあの大根役者だが、イケメン補正と勇者補正でサマになっている。


「俺共々、塵になろうぜ……」


 バーヌから光が放たれた。


「危ないッ。誰か、転移を……」


 異常を察知し、ジルが叫んだ。レッシュがすかさず転移魔法を唱えたが、「ダメだ。ここじゃ使えないぞ」と舌打ちした。


「勝つだけが答えじゃないぜ。俺は死ぬくらいなら、ハナから自爆を覚悟していた!」


 バーヌは息巻き、そう声を荒げた。


 ▽


 するとジルは、バーヌに歩み寄った。


「バーヌ。やめよう」


 バーヌは無表情のままだ。しかも何も喋らない。もう話すことなどないと言わんばかりだ。


「ボクたちは憎しみ合うために出会ったのではない。だから、やめよう」


 自爆を止めるための方針転換であり保身であるその言葉に、バーヌでなくても誰が感動するかと俺は思った。


 だけどジルは本当に良いヤツだ。


 でなければ俺をパーティーに誘うこともなかったはずだし、悪だったとはいえバーヌだって着いて来なかったとも思う。

 だから矛盾していても全てがジルの本音。それは共に旅してきた俺やバーヌなら分かることだと思いたい。


「罪を償いに行こう。今からなら、反省する時間なら与えてくれるはずだ」


 ジルの説得は終わらない。

 だがそこでレッシュが進み出た。


「私がとどめを刺す。コイツが爆発するより速く、私にはそれが出来る。……やってみせる」


 バーヌは何も言わない。光は強まっていて、爆発までは本当にもう猶予がないのが伝わる。


「逃げれる人は逃げてくれ!」


 ジルの指示に、何割かは撤退を始めた。

 しかしその時、爆発は起きてしまった。

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