#06 赤の勇者
ダルメシアン!
ジルが斬り裂いたはずの、ムダラーの体。
しかし、そこにはあるべき姿がなかった。
代わりに、ムダラーが抜け出たバーヌが間一髪、ライト・ブレイドを掠めただけで仁王立ちしていた。
「悔いはない。俺はムダラー様に忠誠を誓い、役目を果たした。殺せ、ジル」
ムダラーは、もう気配すらない。
もしかしたらレムバダに帰ったのかもしれないが、そんなことは俺には分かりようがない。
「バーヌ。命拾いしたな、どこへなりとも逃げるがいい」
ジルはバーヌを無視して歩き出した。
だけど命拾いという意味では、ジルもムダラーには殺されかけたし、俺やラパーナ、プータもヤドリもそうだ。
だから俺はバーヌにこう言った。
「バーヌ、俺たちと来ないか?」
▽
ジルはぎょっとして俺を見た。
信じられない、汚らわしいモノを見る目。パーティー追放した時と、ジルは何も変わらないのだ。
「テメエ、レイジ。相変わらず、ふざけた野郎だ。斧豚の町でも散々、舐めた口を利きやがってよお……」
しかしバーヌは、なんとなくではあるがジルに対してよりは憎しみのない目で俺を見た。
「あの女神と言いテメエと言い、魔王に屈したクズな俺に手を差し伸べたつもりか? 俺の何を知ってるんだ……どいつもこいつも!」
やっぱり気のせいだったようだ。
怒りのバーヌに全力で蹴り飛ばされた俺が起き上がる頃には、バーヌもどこかに姿を消してしまった。
女神というのは、やはり女神ホワイトルなのだろう。
斧豚の町で、狼マンに半殺しにされたのを助けてもらっておいて、俺が「ふざけた野郎」ならバーヌはつくづく恩知らず野郎だ。
▽
すると、何を思ったかラパーナがずかずかと俺に近寄り、プータを奪って抱き寄せた。
「やっぱりレイじいは、帰ってもらいましょう。ここから先は、私たちだけでレッシュ様を探すべきですわ」
なんだかバーヌとパーティーにいた頃、こんなヤツだったっけな感が半端ない。
バーヌですら傲慢という点では何も変わらないのに、あの頃の慈悲深いシスターのような清らか令嬢ではなく、ヒステリー娘しか俺の目には映らない悲しみだ。
「なんだよ、お前らって本当に心が狭いのな」
俺は俺で、自信を持ってジルたちをそう糾弾した。Aランクだからって言いたいことを黙っているのは、コイツらのためにならないからだ。
「あのさ、レイジくん……」
「もうやめてくれ。レイジでいい、対等に俺を見て話してほしい」
そう。そもそもジルが偽善くさく思えてしまう、こういう細かな所ももっと早く俺が言ってやってれば良かったのかもしれない。
▽
「えっ、おっ、れっ、レイジ。でもバーヌはもう魔王の手下だって彼自身が……」
ジルは俺をちゃんと呼び捨てに出来てもジルなので、俺はガツンと言ってやった。
「だから、なんだってんだ。俺はジルもバーヌもスゲえヤツだって知ってる。いや、俺だけじゃなく世界中が知ってるAランク冒険者、それがお前らだ。そうだろ?」
ジルはそわそわとしながらも頷き、それを見てからではあるがラパーナも頷いた。
そして俺は俺で、それを見てから話を続けた。
「バーヌは悪いヤツじゃないはずなんだ。だってジルに追放されるまではなんだかんだで上手くやって来れてた。どこかで歯車が噛み合わなくなっただけなのを、アイツは傷付きすぎて狂っちまってるだけ。そうだろ?」
ジルはひやひやとしながらも頷き、それを見てからではあるがラパーナも頷いた。
そして俺は俺で、それを見てから話を続けた。
▽
「とりあえず、レッシュに会おう。ジルも知らない、バーヌを取り戻す方法をきっと分かるはずだ。だってジルの兄貴なんだから」
俺がそう締めくくると、ジルはすっかり俺を見直したという顔をした。
「レイジくん、いや、レイジ。ボクはキミを、少しばかり過小評価していたのかもしれないね。キミの優しさはいずれ、本当の意味で世界を救うのかも……」
優しさ。
それは女神ホワイトルが俺に対して、神々からの評価だと伝えた俺の個性らしきモノだ。
「本当の意味で世界を?」
「ああ。この世界は、強さ以外に価値を持たない厳しい現実こそ全て。優しさは甘えで、見下すべき恥じるべき行いだと子どもの頃から教わる。それに、ボクだってそう教わってきた」
俺が聞き返した言葉に、ジルは俺がジルから初めて聞いた、この世界の在りかたというレベルで答えた。
▽
更にジルは言葉を続けた。
「だけど、レイジの優しさは厳しさを知った上で、誤解とか苦しみとかを恐れない本当の優しさみたいにボクには思えた。ボクが知ってなきゃならない優しさ……なんだかそんな大切なことを教えてもらったような気がするよ」
俺はそんな奇麗事を聞きたいわけでもなかとたけど、なんか見直したっぽいので良しとした。
「なら、良かったよ。俺も一緒にレッシュに会いに行っても、いいんだよな?」
「ああ、行こう!」
俺とジルの会話にラパーナやプータはなぜか感動したようだ。
「素敵な友情ですね~」
「青春……これがそうなのだな」
▽
そして俺たちはユラカラ山を抜けた。
シルフやドワーフ、ノームは軒並みテイムしつつ、レベリングも多少はおこなった。
「よし。これでまた一歩、Aランクに近付いたぜ」
特に誰も誉めてはくれないので、自分で自分を励ました。
その後、谷や川を越え、様々な魔物をテイムし、更に更に北を目指した。
「着いたぞ。ランマだ」
ランマ神和国。
そこは北国ではあるが、雪や氷は高度な科学により溶かされるために万年適温環境という理想を実現した国だ。
「まるで東京だ」
「えっ、トウキオ?」
ジルたちは知るはずもない東京。
ランマはしかし、強いていうなら東京のようにバカでかい高層ビルが立ち並ぶビジネス・シティだ。
▽
「この世界にこんな都会があるなんてな」
俺はただただ懐かしいような思いで、東京を眺めるように町並みを見た。
通行人もスーツからおしゃれ着から様々で、東京っぽさがある。
「トカイとは。ここは神和国であり、神が授けた素晴らしい知恵が我々人間の中でも特別に賢い者たちを更なる高みに導いてくださる」
ジルが何か言い出したが、人が多くてレッシュは見つかりそうにない。
車も走っているし、どこに需要があるのか知らないが飛行機まで飛んでいる。
「なんか俺ら、イモくさくないか?」
「そ、それはランマの人々によく言われます……」
俺の問いかけに、ラパーナは恥ずかしそうに答えた。
▽
その時だ。
「おい、ジルか?」
声がする方を見ると、スーツ姿をした銀髪の青年がおり「ジルじゃないか」とジルに呼びかけた。
雰囲気がジルそっくりだ。
おそらく彼こそがレッシュだが、念のため俺は聞いてみた。
「レッシュか?」
すると、レッシュは突然に目をかっと見開き、炎をその手に流し始めた。
右腕全体が炎のようになった。これが炎の剣なのだろうか?
「呼び捨てにするなよ、他人が!」
斬りかかってきたレッシュから俺をかばおうと動き出したジルだが間に合わず、俺はこんがり焦げた。
▽
「駄目じゃないか。兄さんは俺以上の有名人。呼び捨てくらいで怒っていたら、大量殺人の賞金首になってしまうよ?」
俺だから死なずに済んだが、ジルのこの怒りかたはめちゃくちゃ甘いと思う。
「ふん。大丈夫だ、俺の剣は人間だけは燃やすことがない」
意味が分からない。俺、燃えたから。
「キサマは魔物か。焦げたということは、そして死なないからアンデッドなのだな」
なんとなくで不死を見抜いてきた辺り、勘が鋭いとは言わないが冷静だ。
「レイジ・マクスガムだ。女神の力で、俺は死なないんだ」
しかし「女神」という言葉に、レッシュの眉がピクリと釣り上がったのを俺は見逃さなかった。




