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#10 覚醒の時

ポン酢を逆から読んだら、とか、やらないといけない派は、ネット社会だからこそ気持ちが分かる。

 どうにか【書】のおかげでバーヌたちの悪巧みは止められた。


「けっ、ゴブリンなんて弱っちい魔物をひいきにするなんてテメエも落ちぶれたなあ」


 バーヌは【書】に戻ったゴブミーからしっかり取り返した白銀の槍で、俺の目を潰そうとした。


(やめろ、自己再生は脳にすら効くけど、目はめっちゃくちゃ痛いんだぞ?)


 俺は声にならない声で、バーヌに抗議した。


「やっぱりつまんねえな。おいキー、しゃべれるようにしてやれ」

「仰せのままに」


 バーヌにやけに忠実なキーは、俺に嵌められた猿ぐつわを解いた。


「げほっ、げほっ」


 体じゅうを刺され叩かれた俺の開口一番はこれだ。むせるに決まってるほど痛みがヤバい。


 ▽


『れ、レイジさん……』


 なんとなく【書】は宙に浮かびながら反省しているようだから許すかもしれないとして、問題はバーヌとキーくんだ。


「ゴレムンを召喚だ!」

「ギガガ~」


 俺は初期ステータスに近いゴーレム、ゴレムンを召喚した。

 テイムした魔物はレベルが2とか3にリセットされ、記憶も失う。


 そのため、ゴブぞうと死闘を繰り広げたゴーレムよりも低い能力の魔物が目の前に現れた。


(せめてもう1匹召喚したいな)


 俺はそう思った時に気付いた。

 もしかしてもう、いつしか俺のレベルも上がり、同時召喚数が増えているんじゃないか、と。


「スラすけ、来い!」


 ▽


「ぷるぷんるっ」


 スライムのスラすけだ。


 俺はゴブぞう以外は全く育ててなく、パープ平原や斧豚の町でもテイムをサボっていた。


 そのためゴブぞうを除いては、【書】には初期ステータスに近いスライム、ゴブリン、オーク、ウィスプ、そしてゴーレムしかいない。


「ロープを溶かしてくれ!」


 スライムと言えば、酸のイメージ。

 ベビドラみたいに爪が鋭い魔物はいないので俺は拘束を解くためにスラすけに、そう命じた。


 一方、指示を出す暇もなかったゴレムンはそこそこタンク役をこなしていた。


 仮にもCランクなだけはあり、ゴブぞうには及ばないまでも中々の戦闘能力である。


「くそっ、魔法パワーはどうした。おのれクソ本。俺をだましたなあ!」


 ようやくバーヌは【書】にしてやられたと理解したようだ。


 ▽


 だけど、バーヌはなんだかんだAランクの騎士だ。


 騎士の必需品である馬こそ失ったらしいものの、馬がないから弱いなんて騎士がAランクになれるわけがない。


「〈ギガ強いです、この槍男さん〉」

「ゴレムン、なんとか持ちこたえるんだ」


 愚痴を言うゴレムンをそう励ました俺だが、

 ジルのパーティーにいた頃のバーヌを俺は思い出し、非常にイヤな予感が募っていた。


 スロー・スターター。


 バーヌは騎士ならではの堅実な防衛能力だけでなく、守りを固めた上でじわじわと戦いを進化させていく追い上げ型の戦法を得意とするのだ。


「キー、俺は攻める。テメエはレイジを自由にさせるな!」


 ▽


 何の恨みがあるんだろう、という思いがようやく湧いてきた。


 確かに不死なんて気持ち悪いかもしれない。

 言わなかっただけで、Dランクのステータスはやっぱり邪魔だったのかもしれない。


 でも、だからといって俺にここまで八つ当たりするバーヌに俺はむしろ、悲しみを覚えた。


「もうやめよう、バーヌ。俺はアンタが反省するなら、仲間になってもいい。真っ当にジルを見返そう」


 同情すべきなのかとすら思った俺は、バーヌを説得し始めた。


 ふと視線を変えるとキーくんはスラすけに鬼刺しを突き立てていたが、幸いにも鬼刺し自体の攻撃力は、キーくんが言うほど高くはない。


 ▽


「けけけ。なんか勘違いしてねえか、レイジ」


 狂気を宿した顔で、バーヌは冷酷な声を出した。


「勘違い、だと?」

「そうさ。だってそれじゃあ、まるで俺がお前と同ランクみたいだろうがあ!」


 バーヌは白銀の槍を俺の目を目掛けて投げてきた。


 咄嗟に避けたが、危なかった。

 そして槍はオーク・ロードがいた地下室の壁に突き刺さった。


 白銀といえども、明らかに金属製の壁に穴を開けるなんて並みの腕力ではない。


「バーヌ、なんでだ。一人では少なくとも、ジルには勝てない」

「二人だ。テメエ、キーを見下してんのか?」


 ▽


 一方、スラすけは酸の液を俺に飛ばし続けていた。


 案の定、スライムには酸の属性があったらしい。


「スラすけ、ありがとな。あと一息だ」


 俺はスラすけに礼を言った。


「テメエ。仲間になりてえのか死にてえのか、ハッキリしやがれ」

「ボクをバカにした時点で死にたいんでしょうね」


 ゴレムンの猛攻を凌ぎながらも、いつの間にかバーヌとキーくんは至近距離で連携可能な構えに入っていた。


「大いなる闇の眷属たる【あのお方】が目覚めるのには、こういうゴミが邪魔なんだよ」


 気になる言葉だ。【あのお方】とは誰なのか。

 しかし俺に丁寧にそんな事を教えるわけはなく、バーヌは槍を引き抜くために俺に近付いてきた。


 ▽


「バーヌ、お前はここで倒す」


 俺の中の、欠片ほどの正義感が目覚めた。


「ほう、まあ粋がるのは雑魚にも自由だぜ」


 俺に強烈な蹴りを叩き込み、バーヌはゆっくりと白銀の槍を引き抜いた。


「そう言えば、まだテメエには話してなかったな」


 バーヌが何か言い出した。


「なんだ。アンタが俺にちゃんと話したことなんて今まで何か一つでもあったのかよ?」


 俺はそうして思いの丈をぶつけたつもりだが、バーヌは超然とせせら笑いをした。


「ははは。テメエ、ちょっとは愉快なことを言えるんだなあ」


 そして、


「俺はなレイジ、実はもう、テメエを完全に滅する技を編み出した」


 とバーヌは信じがたいことを言ったのだ。


 ▽


 バーヌは白銀の槍を俺に向けて、しっかりと構えた。

 そして編み出した技について自慢げに、こう語った。


「虎神突。その素晴らしさを今から見せてやれう。テメエの死と引き換えになあ!」


 白銀の槍を構えたバーヌの背後に、心なしか大きな虎が見えた。


「ば、バーヌ。やめろ、やめてくれ」


 俺は殺される寸前に命ごいする悪党のように怯えた。


 まあバーヌからすれば俺は、力不足も分からずにジルたちに突撃加入してきた空気読めない悪党だったのかも知れないが。


「やめられないな、レイジ。だって弱いお前を野放しにするのは、かわいそうだ」


 バーヌは泣いていた。

 狂っている。そして、狂っているなりの人徳が俺に対する同情を生んだのだろう。


 俺はバーヌをどう見なせば良いのか一瞬、わからなくなった。


 しかしその一瞬に、バーヌは虎神突を放った。


 ▽


「ぷる……ぷ……」


 スラすけが、スキルにあるとも思えないのに体を膨張させ、俺をかばった。


 レベルはせいぜい2か3。

 けれども、精一杯に大きくなったスラすけはギリギリで俺に槍が届かないようにしてくれたのだ。


 しかしバーヌの凄まじい打突は、何の小細工もないのに虎神突の名にふさわしくスラすけを霧散させたのだ。


「す、スラすけェ……?」

『レイジさん。ダメだ。もうスラすけは俺様のところに帰れない、遠くに行ってしまった』


 そして、スラすけは消滅した。


「スラ……」


 茫然自失の俺に、再びバーヌは白銀の槍を構えた。


「見ただろう。地獄の特訓をこなし続けた俺の本気の突きこそ虎神突。これで哀れなテメエをきっちり無に帰してやる」


 ▽


 俺はそんなバーヌの言葉を聞いてなかった。

 なぜなら、スラすけを殺されたからだ。


「なんなんだよ……」

「何もクソも、テメエは雑魚だから死ぬんだよお!」


 虎神突は単なる突きだから、魔法パワーなど必要としない。言うなればバーヌ流の最強【こん棒アタック】だ。


「ゴブぞう……スラすけ……」


 スラすけがいつの間にかロープを完全に溶かしていたと、その時に気付いた。


「うおあああああ」


 俺は無我夢中になり、何かを召喚した。

 いや、俺は召喚してはならない何かを召喚してしまったのだ。

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