表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/42

忘れられていたイベント

腹を括ると言って、何をしたら良いんだ……?

 瑞希と話したあの日から、ずっと腹の中は重しが入ったかのように重く、また、そわそわとしてざわざわとして、心が落ち着かない。

 僕は何から話したら良いんだ……?

 味覚が無いことか? それとも別……。


 夏休みに入って1週間経った日、僕は暑苦しい一人暮らしのワンルームで悶々とした日々を送っていた。

「一人で唸っててもしょうが無いな。部室行ってギターでも弾くか」

そう独りごちると立ち上がり、家を出る。

 一歩表へ出ると、太陽が体を溶かそうとしているかのようにジリジリと照りつける。余りの暑さに頭がクラクラするし、歩きながらも頭の中をぐるぐる回る不安ごとがうっとおしくて、もういっそ太陽に溶かされてしまいたかった。

 部室についてアンプやらギターやらを用意して、練習を始める。適当にメロディーを紡いだり、曲を通したりするが、何だか身が入らない。気分転換を図るつもりだったが。これじゃあ何の意味も成さない。

「どうするっかな~」

 夏休み、真っ昼間の部室にわざわざ来る人などそうそう居ない。それに、この話は誰かに話したいモノでもなかった。話したくても、どこから話せば良いのか分からないし……。


 時計の針は15時を指していた。部室に来て早2時間が経とうとしている。今度やると聞いていた曲もあらかた弾けるようになってきたし、そろそろ帰るかな。そう思った時に扉が開いた。入ってきたのはえっちゃんと、もう一人は彼女と同じ2年の錦埜美知留にしきのみちるだった。

「おわっ。コジローさん居たんですか。オハヨウゴザイマス」

誰も居ないと思っていたのか、えっちゃんが少し驚いた様に声を上げ、挨拶をした。それに続くようにしてミチルも挨拶をする。僕もそれに答えはしたが、

「コジローさん、聞いて下さいよ。ミチルが――

「ごめん。もう帰る所なんだ。また今度ね」

「……? そうっすか。おやすみなさい」

「うん。おやすみ」

 いつもならこのまま話に花が咲くことだったろう。えっちゃんもミチルも何か不思議そうな顔をして見送ってくれた。

 ああ、駄目だなあ。人に悟られないようにしないととか考えすぎてたな……。これじゃあ、不安がありますよって言ってるようなモノじゃ無いか。

 とぼとぼと帰り道を歩く。すると、前から春樹が歩いてきた。

「今日はやけに知り合いと会うなあ」

 そう小さく呟くと、僕は春樹に近づいていく。

「おはよ」

 そうどちらからとも無く言うと、他愛も無い談笑を交わす。

 数分経ち、別れ際。

「じゃあな~。次会う時は合宿かな」

「合宿……。お、おう! そうだな」

「なんだ? まさか忘れてたのか? 毎年あんなに楽しみにしているのに」

「そんなわけないだろ~。ちゃんと覚えてたって。じゃあ、また、合宿でな」

「おう」

忘れて居たわけではない。ただ、最近のゴタゴタで気に留める間がなかったのだ。

 そうか……合宿か……。ウチのサークルでは毎年3泊4日で合宿に行く。別にバンドをしに行くわけじゃ無いが、毎年みんな何故か楽器を持って行く。一応スタジオの設備を備えているホテルに泊まる事もあり、昼間とかはよくバンド練習をしている光景を目にする。 そうか~。合宿かあ。最近少し遠ざけていたゆっこと3泊4日……。どうなることやら。


 不安を感じる僕を余所に、無情にも時は過ぎ去り、合宿が始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ