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第二八番隊  作者: 鱗田陽
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不義理の連鎖③

「まだ何か? 七太郎をどこかに連れて行ったようだが」

 権吉が、まるで心外だ、と言わんばかりに喚き立てた。その馬鹿げた道化師みたいな姿をじっくりと見やって、白鳥は溜息をついた。

「いえね、あなた達の言っていることが、どうにも怪しくなりまして」

「何だと! 被害者の遺族を疑うのか?」

「……そう言うわけじゃあないんですが――」

「妻の父親からこの店を受け継いで二十年だ。俺は背一杯やってきたつもりだぞ! 税金だって毎年高い額を支払ってきている」

 まあ、よく言われることだ。しかし白鳥には関係ない。誰がいくら納めていようと、彼の給料は変わらないし、大抵の税金は公僕の給料よりも社会福祉に費やされている。

「そうですか」

 白鳥は冷然と返し、それから怒り狂う権吉を睨んだ。

「では、一応もう一度、六助さんと七太郎さんへの評価をお聞かせください」

「六助は出来そこないだ。七太郎に仕事ばかりを押しつける。酒を飲み、暴れることもしばしばだ」

 本当に? と視線だけで尋ねると、権吉はますます苛立った様子で頷いた。

「……それは我々の聞いた情報と違いますね」

「どういうことだ?」

「先ほど、あなたの倉庫に窺ったのですが七太郎さんがいましてね」

「当然だろう。奴は働いている」

 と、そこで河津が溜息交じりに首を振り、白鳥は額をぴしゃりと叩いた。

「一晩飲んで、倉庫の藁に包まって寝ていましたよ」

「何だと?」

 不機嫌そうに権吉が足をふみならす。すると奥から林太が出てきて、主の剣幕に色を失くした。

「お前――」

 どうやら部下の名が思い出せないらしい。林太を指差し、険しい形相を向けた。

「――お前、七太郎は働いているんじゃないのか?」

 権吉が唸るような声を上げた。対して林太は縮み上がっている。なにしろ三組の双眸に射抜かれているのだから。

「え? いや、あの」

 林太が素っ頓狂な声を上げた。なるほど良く分かった。こいつが原因か……。

 河津が、指の骨を鳴らしながら近づくと、林太は慌てて踵を返した。しかし、返したところで終わりだ。白鳥が後ろを取っていて挟み撃ちにされているのだから。

 河津は愛用の捕縛用の縄で縛りあげると、そのまま八双屋から出て行った。残された白鳥は忌々しげに口元を歪める権吉を見やって、ほんの些細な疑問を吐いた。

「本当に知らなかったんですか?」

「俺は、この店のことで忙しいんだ!」

 むっつりとした顔を崩さず、権吉は店の奥に消えてしまった。

 それで仕方なく白鳥は近くで聞き込みを続行した。河津はもう番所へと向かったのだろう。であるから昼の日差しの中一人きりである。

「八双屋のことなんですがね」

 と話しを切り出した時、彼は白鳥屋と提携している船屋にいた。その店主はピッシリとした髷を撫でつけ、得意先の次男坊の話に集中していた。

「ええ、あそこはちょっと、ねえ」

「そのちょっとを聞きたいわけですよ」

「……じゃあ、こっちに」

 別におっさんと耳打ちしたいわけじゃないが近づいてみる。船屋の店主は躊躇いがちに、ぼそぼそと呟いた。

「あの店は、元はといえば奥さんの父親の物だったわけです。しかし、権吉が店に入った途端にその義理の父親が亡くなりましてね。あっという間に店を継いだんです」

 奥さんも何年かあとに急死したんですよ、と付け加えた。顔を離すと、船屋の店主は微妙な顔をしていた。まあ、あまり吹聴していい話ではない。

「そういう言い方をするってことは、あの権吉が怪しいって、みんな思っているわけですか?」

「ええ、曲者は林太の方ですがね」

「ほお?」

「……丁稚の頃から勘案すれば、二十年は働いているでしょう。あまり出来も良くはないのに順調に出世しているようです。権吉の奥さんを看取ったのも彼だとか……」

 なんて話を聞いて、白鳥は物憂げな表情を浮かべたまま番所に戻ってきた。

 まずは平野の元だ。彼女は裏手の土蔵の中にいて、中から七太郎の悲痛な声が聞えてきているわけである。中で待機している同心に聞くと、どうやら平野と二人きりらしい。

 中に入ると段々と七太郎の声が大きくなっていく。尋問をする時、平野はひたすら無言だ。相手が話す気になるまで、ただじっと待ち続けるのである。

 常人ならば一時間も彼女と時を過ごせば嫌気が差してくる。二時間経てば泣きだし、三時間で洗いざらい話そうとする。今は二時間と少し……。酩酊状態の男が自暴自棄になるには充分だ。

「―――それで、そのお、六助の、悪評を」

「はっきりと言え、六助を殺したのか? 奴の背中には圧迫痕があったぞ」

「め、めめ滅相もない。昼間、言い争いになって、せ、背中を殴っただけです」

 なんて言葉が途切れがちに聞えてくる。邪魔するのも悪いから近くで待機していると、平野が一室から顔を覗かせた。ここには簡易的な仕切りがあるだけで、もちろんのこと元はただの土蔵だったわけである。

「……なんだ?」

 平野は予想以上に険しい顔をしていた。であるから白鳥は慌てて身を引き締めて、この女性に用件を伝えた。

「誰に悪評を報告していたのか、聞いてくれませんか?」

 必要なのか? とかいう無駄な言葉はない。平野はすぐに戻って、七太郎の襟首を掴んだ。それだけでもう何もかもを話したい気分になるわけだ。

「林太です! あの手代の。何でも言えって言われていたから何でも言っていたんです!」

 その答えに満足して、今度は番所の中に入る。勝手口から上がり、廊下の中途にある一室に入る。そこでは林太が嘘泣きをしている。河津はちょっとばかし同情的で――この人も大概甘過ぎる――入ってきた白鳥に目を伏せた。

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