シェルフィのお仕事【些細なお手伝い】
ミスリルウッドタウン。
鍛冶でご盛んな国『ムスペラド』の縁の下の力持ち、別な言い方をすれば最底辺に位置するド辺境な町である。
国的な地理だと、国の中心である王都ムスペラド・シティから南へズズズイっと馬車で10日程行った場所で、町から南は対岸が見えないくらいの川幅がある大河だし、西は天辺が雲に隠れる程の大山脈。
唯一人が進める南西側は鬱蒼とした大森林で、手前側こそ普通に人が入れるけど、ちょっとでも奥に行けばもう狂暴な魔物が現れるデンジャラス満載の半分は秘境だったりする。
つまり、ここは事実上世界の果てといっていい。
そしてアタシ、シェルフィ・ヌディスは、そんな果てを相手に日々にらめっこしている監視員をしている。
週三日、森を観てるだけのお仕事。
……、いやいや、監視するお仕事。
たまに監視だけじゃないけども……。
森の浅い所は街の生活資源を担ってる部分でもあり、建材や燃料としての木材。食料としての動植物類。それらを採集する人で結構賑やかしい。
アタシはそういう人達の警護役でもあるので、彼等が活動する昼間は中々に忙しいのだ。
「シェルフィ、悪りぃが丸太運ぶの手伝ってくれ。今年の若けぇ奴が三人ばかしヘマして足挫いたから人手が足んねえんだあ」
「はーい」
ほら、こんなお手伝いもあるし。
あたしが監視員として使ってる『鉄甲姿躰』の火を入れる。
エンジンがブルンとひと震えし、機体全身が僅かに振動して目覚める。
まるで人が正座しているような駐機姿勢から“脚”を展開して二足歩行形態にする。
もっとも脚っていっても多少背が高くなる程度の短足さんだけど。
あたしのキグルミックは戦車や自動車が幾つも適当にくっついて、それに手足が付いた感じの外見な、動く監視塔だ。
巨人と見えなくもないけど、どうも大昔の車とかを強引にヒトガタにしたせいか、適当な鉄の箱が積み重なったよえな印象しかない。
大昔にこの辺りの危険に対処する為に適当に突貫で造ったという物なので、所謂『在り物』流用の機能優先なゴチャ混ぜな機体であり、変なデザインだという事実は無視されたのだそうだ。
ま、実用性は充分あるのでアタシに文句言う気はない。
先週メンテしたばかりのエンジンは特にグズる事も無く暖気が終わり、サポートを頼んだ木商ギルドの親方、ノッコさんの後にズンズンと付いていく。
森との境界まで行くと、作業の邪魔と綺麗に整備された草原の大地に木々の間から20本ものロープが伸びて来ていてる。
この先に件の丸太が結わえてあるのだろうと分かった。
「親方、このロープ一本で丸太も一本?」
「そうだ。本当はもっと運べるのはあるんだが、葉枯らし分が一昨日の雨で水っ気が抜けて無くてな。もう少し放置しておく事にしたんだ」
「了~解」
暗に別の日も手伝えと言われました。
ま、いいけどね。
キグルミックはあんまり自由にしゃがめないので地面近くまで伸ばした“腕”の、荒事にしか使いようの無い無骨な“手”にロープを一本、持たせてもらう。
だって卵を割らないように持つ繊細さがあるマトモな指なんて付いてないもの。
この大きな腕は、本来は魔物相手に殴るのに使う物騒な鉄塊なのよ。
「丸太が見えたら、そのまんま投げるんで離れててねー」
「ほいよー」
ロープを軽く引っ張って問題無しと確認し、キグルミック自体を後退させて丸太を森から運び出す。
ノッコ親方達はさすが木の専門家達だけあって、ズルズルと負荷も無く引っ張れば、途中で木立に引っ掛かる事も無く、丸太の先端が姿を表した。
後はキグルミックの馬力とアタシの腕の見せ処だ。
丸太自体を掴む分には問題ないので、ガシっと巨大な鋼鉄の指で槍を掴む要領で長さ十メートル程の一本を持ち上げる。
ミスリルウッドタウンの防壁までは約500メートルくらい。
んー、上半身の回転モーメントだけじゃ届きそうにないので、『投げ槍モーション』は止め。ここはこの間設定した『砲丸投げモーション』を試して見よう。設定は“球”投げだけど、丸太の端を掴めば同じだろう。
昔の人がどんな感性で造ったのかは知らないけど、戦車や自動車みたいな物を動かす操作方法でヒトガタな存在が動かせるわけがない。
自動車のハンドルじゃどうやったって自動車的な事しか出来ないものね。
だからか、人の動作的なものは予め『一連の行動』を記録したディスクをセットする事で出来るようになっている。
このディスクは直径五センチ程度の厚紙製の円盤に所々穴をパンチさしたもので、元々はディスクオルゴールの機能を使い回したのだそうだ。
これを機体の読み取り機にセットすれば、穴の開いた部分に対応する動作を連続行動して、一連の意味のある動作とするんだね。
で、今セットしたのはアタシが最近ディスクに記述した動作パターンで、三回ほどジャイアントスウィングした後に指を開く投擲モーション、つまり『砲丸投げ』を模したわけである。
せっかくヒトガタをしているのだから、それらしい動きもしたいよねと作ったのだけど、うん、いいタイミングだね。
上半身と下半身の接合部、お腹の部分にある『ジャイロ機構』で直立自体に問題はない。けど全身を使う大回転への保険として、左足の裏からパイルバンカーを打ち出して地面に固定。右足を蹴り出す事で回転する力を得る。
こんなこともあろうかと、キャビンの生活用品は小まめに収納ケースに仕舞ってあるので飛び散る心配も無い。
ただちょっと、失念してたけど。
キグルミックは構造上元々背後にウェイトがあるので、回転すればあたしのには全力で前に加速するような遠心力が発生する筈だったんだけど、そこにちょっと誤算があった。
丸太の方が回転時の慣性が大きくて、キグルミック自体が回転の中心寄りになっちゃったんだよね。
で、その中心軸はあたしが操縦する席の位置より微妙に背凭れ側となり、あたしは座席から放り出される形の遠心力に晒されたのだ。
シートベルトしてるから操縦パネルにぶつかる事はなかったけど、締まるベルトの圧に負けて緩く当てるような位置取りだったオッパイがバルンって感じに跳ねた。
跳ねた拍子に暴れた先っちょが、おもいっきり計器板に擦れてイタヒ。
あたしの惨状は兎も角、投擲自体は無事に終了して外を見れるペリスコープ越しに丸太は綺麗な放物線を描いていくのを確認した。
ま、概ね成功と内心喜ぶ。ちょっと擦り切れて血が滲んでるけど、言わば名誉の負傷な感じだよね。
応急処置に擦れた部分に唾つけて湿らして、それから落下地点の確認をと頭部のキューポラを開けて裸眼で確認……する前に、親方達のアホっぽい、いや唖然とした表情に気づいた。
みんな同じ方向向いてるので、その視線を追ってみれば、それは町の方角であり、あたしが丸太を投げた方向でもある。
で、あたしもノッコ親方同様、アゴがカクンと落ちた。
狙い違わず丸太は街へと飛んだんだけど、その飛距離がちょっと予想外で、実に見事に城壁に突き刺さってたんだよね。
あ……、あれぇ?
「シェルフィ、『あヒャン♡』とか色っぽいかけ声あげたかとおもえば、スゲエ動きで丸太投げやがったなぁ……」
うわ、そんな声出してたのかと焦る。
本人的には痛かっただけなんですけどね。
「つうかよ、そろそろ“仕舞え”や。俺は兎も角、うちの連中には目の毒過ぎるぞ」
言われて気づく。
余りの惨状に思わずキューポラから全身を晒してた。
ハッチの縁に腰掛けてるからお尻の肉がギュッと持ち上がってる。最低限の布地しかないパンツなので、見上げてる連中からは何も穿いてない感が半端無い。
上はもっと悲惨だ。ブラは当然シャツすら着てないので平均よりかなり大きめのオッパイは白日に晒されている。
ある意味通常業務の格好なのだけど、だからと言って軽々しく晒す気はない日常の姿。
やっぱり暑い機内温度なので全身は汗まみれだし、シートベルトに擦れて出来た赤い擦過傷が、素肌を彩るある意味倒錯的な色気になっているようで、アタシを注目する樵達の視線、うんにゃ眼力の圧力がトンデモナイ。
全員前屈みなのも、地味に“くる”。
「あっ、キャア!」
あわてて機内に引っ込む。
慌て過ぎて縁にデコぶつけた。イタヒ……。
「つーか、観られて嫌なら服着ろや」
「熱いんだもん!」
塔機の密閉性はやたら高い。10分も詰めっきりになるとかいた汗で服に動きを取られやすくなり、鬱陶しくなるからと何も着なくなるのだ。
それでも、まだパンツだけは穿く。
いや、穿くように習慣漬けた自分は偉いと思う。
だって物心つく頃からこの仕事してるし、その当時は『羞恥心?ナニソレ?美味しい?』だったから、その感性に忠実なあたしは文字通り『真っ裸』だったのだ。
だから、今の状況だって進化してるのだ。
乙女の羞じらいは……、ちゃんと育んでいるのよ。
「まあ、いいけどな。つうか、残りもさっさと頼むぞ。今度は壁ぶち破らんように加減しなぁ」
「ううう、はぁい」
小っちゃい頃から知られているノッコ親方にはあたしは未だに幼児同然に扱われる。
微妙な思春期の葛藤に苦しんでるとは微塵も思われて無かったりする。
でも兎に角、本来のお仕事とは関係無いけど請け負った以上終らせるのは当然以外の何でもない事なのである。
今度はさっきみたいな感じにならないよう、エンジンの出力抑えよう……。
後、オッパイとベルトの間にタオルでも当てよう。
「あー、シェルフィ。取り合えず服着ろ」
微調整してたらまた注意された。
「んう、もう外出ないから大丈夫なのにっ!」
つい反発。思春期ですから。
「んにゃ、直ぐ出ることになるぞ。ほれ、あれ見ろ」
ペリスコープ越しにノッコ親方の指差した方向、街の方をと見れば──
「あっ……」
通用門から土埃を上げて駆けてくる人がいた。
儀礼用とはいえそれなりの重量のある全身鎧を着た外見は、町の住人なら知らぬ者いない有名人だ。
ミスリル青年自警団団長ブラス・ショウベル。
ある意味アタシの天敵。
「ああああああぁぁぁぁぁ……」
「御愁傷さん、アイツが来るまでもう一本は片付けれるだろう。さ、さっさと続けろ」
はんば身内って遠慮無くなるよね。
ついでに、何処までもノッコ親方は仕事人間なのだった。
あああああっ!




