俺だけに
こちらは前作『ぼくをみて。』の続編です!
宜しければ、前作からご覧ください。
既に読んで来たよの方は、御足労いただき誠にありがとうございます!
駅に着くと、恋人の春海は自然と目を覚ます。
相変わらずどういう仕組みなのか分からなかったけれど、二人連れ立って、スクールバスを降りる。
外は、暑さがマシになってきているように思う。
今日も送ってくれる春海と並んで、話すのは、開けたばかりの、ピアスのこと。
「お風呂入る時、気を付けて。忘れた頃に手をぶつけて結構痛いから」
「っふ、確かに忘れそう」
「あと髪拭く時も」
「ああ」
「あと寝る時も」
「……おお」
意外と耳って、いろんなところで、いろんな時に触れているのだなと思う。
失って初めて気付く、ではないけれど。
ピアスとはいえ一応傷なので、気を付けねばと思う。
けれど、それより何より、本当に、開けられたことが嬉しかった。
しかも、思ってもみない、春海とのお揃い。
少なからず痛むのに、お揃いにして開けてくれたことが嬉しかったし、これからどんなピアスを着けるのかも楽しみだった。
一ヶ月はファーストピアスのままの方がいいと、春海が言っていたので言う通りにする予定で。
けれど、本当に楽しみだった。
片耳一つだけピアスの穴がある俺と、三つ開いている春海。
両耳用のピアスを買えば、自動的にお揃いが増える仕組みが、楽しみで、嬉しくて仕方なかった。
思い付いた当初は春海に開けてもらえると思っていなかったし、春海のを開けるとも思っていなかった。
春海のお陰で、凄い経験をしたな、と思う。
もうじんじんとはしなくなったピアスを、そこにあるか確かめる様に、左耳に手をやる。
「こら」
春海に見付かって、直ぐ止められてしまったけれど。
ちゃんとそこにあって、開ける瞬間、好きだと言われたことも覚えている。
「嬉しい」
「……はぁあ」
……いよいよいつもの、監禁したい、すら言わなくなったな。
なんとなく俺の言葉を噛み締めていそうな春海を、呆れながら見る。
春海は困った顔をしてから、笑っていた。
俺はこの傷のお陰で、もう少し、早く大人になることを我慢していられそうだった。
俺と春海の初恋を応援するというファンクラブには、『愛のお揃いピアス!』と、速攻でバレて広まっていた。
ピアスを開けてから、春海は暫くバイク通学を休むとのことで、その間、朝から一緒に登校ができるようになった。
だから駅で合流して、バス停の列にはまだ並ばずに、二人で話していた。
「嬉しい誤算だな」
「……」
緩む頬をそのままに言うと、春海は黙って胸元を押えている。
多分、監禁……と考えているのだな、と思う。
春海は、俺に素直な気持ちを伝えられることに弱いみたいで、だから最近はなるべく、思ったことをそのまま伝えている。
好きだとか、そういう言葉は、俺の中では必殺技、みたいなイメージがあったけれど。
素直な気持ちを俺が言う度に、春海が嬉しそうで、嬉しそうな春海を見る度に、俺も嬉しい。
だから、思った時は秘めずに、伝えた方がお互い幸せだなと気付いた。
自分の気持ちを伝えた方が良いだなんて、自分を偽り、良い子に化けていた『僕』の時は微塵も思えなかった。
皆、自分が言って欲しい言葉『だけ』を求めていたから。
でも春海は、俺自身の気持ちを乗せた言葉に喜ぶ。
思ったことや、感じたことに、蓋をしなくていいのは、こんなにも息がしやすいのだなと、最近よく思う。
「春海、好き」
「……なにぃ」
「ははっ」
春海がよく言う『デレ』ってやつが、多分キャパオーバーしたんだろう。その場にしゃがみ込んで行く春海を見ながら、俺は笑った。
学校へ向かうバスは、まだ来ない。
昼休み、俺は音楽準備室で春海と並んで、お弁当を開ける。
暑さはマシになってきたものの、まだ外を歩けば汗をかくし、これまでの蓄積ダメージで割とバテていて。
お弁当を開けたまま、ぼーっとしていたら、春海から梅干しを口にねじ込まれる。
容赦ないと思いながら齧って、舐めて。
いつ食べても美味しいから凄いよなぁと思っていたら、視界に、そろそろか?って顔をした春海が入ってくる。
だから顔を寄せて、目を伏せる。
春海はちょっと笑ってから、俺から種を舌で回収していった。
あんなに照れていた春海が、今やもうこんなにも手馴れていて。
視線を上げると、まだ種を含んだまま、こちらを見ている春海と、目が合うから。
「ん」
キスのおかわりを強請ると、触れるだけのキスが、幾つか降ってきた。
「素直」
「ん。その方が春海嬉しそう」
「……うん。ちょっと心臓持たないけど」
「ははっ」
笑って、すぐ近くでひそひそと話していた春海から離れる。
手を伸ばすと、優しく春海が握ってくれる。
「最近、よくどきどきさせられる」
「そお?」
「そう」
「俺もずっと乱されてて悔しい」
「いつ?」
「……キス、とか。上手くなり過ぎ」
「ふふ」
握られた手を、春海の親指がなぞるから擽ったい。
お互いどきどきして、どきどきさせられているのは、何か良いなと思った。
夏休み以降、ずっと俺ばかり乱されていたから。
俺も春海を乱せているなら嬉しい。
「でもあんま色気出さないで」
「色気?」
「そう。最近金井くん色気あるよねって、聞く。春海のファンが増えてる」
「ええ」
なんだそれ、って困っている春海。
でも実際、春海は夏休み以降、本当に色気が増していると思う。
多分、恐らくだけれど、俺と、長い夜を越えたから。
後は、大好きなばあちゃんを、そう遠くない未来、失うかもしれないという不安が、どこか儚さを生んでいて。
それが色気として出ているような、そんな感じ。
春海の魅力が増すことは素晴らしいけれど、周りまでメロメロにするのはちょっとダメだろ、と思う。
「俺だけにモテとけ」
「分かった」
「ははっ」
ほんとかよ、って笑って、俺はお弁当を食べ始めた。




