第1話 「警告は遅すぎた」
——この物語を読んだ瞬間、ひとり死ぬ。
ページの上に、そう書かれていた。
インクは滲んでいる。
まるで、誰かが焦って書いたみたいに。
「……くだらない」
俺は鼻で笑った。
こんな脅し文句、今どき誰が信じる。
そう思いながらも、ページをめくる指が少しだけ重かったのは——気のせいだ。
——二人目だ。
「は?」
思わず声が漏れた。
さっきまでなかった文章が、そこにある。
——今、あなたが読んだことで、もう一人死んだ。
「……ふざけてんのか?」
本を閉じようとした、その時だった。
ポケットの中でスマホが震える。
嫌な予感、なんて言葉じゃ足りない。
もっと、粘ついた何か。
画面を見る。
【速報:市内で男性が突然死亡】
「……は?」
記事を開く。
原因不明の心停止。
目撃者によると、男は何の前触れもなく、その場に崩れ落ちたという。
「……偶然だろ」
そう言いながらも、喉が渇く。
指先が冷たい。
——三人目になる。
ページは、勝手に進んでいた。
「やめろ」
思わず声が出る。
——やめるという選択は、今あなたがした。
「……は?」
——だが、その選択もまた“観測”だ。
背筋に、氷を流し込まれたみたいな感覚が走る。
「観測……?」
——読むこと。理解すること。意識すること。
——それらすべてが、この世界では“確定”を意味する。
ページの文字は、もう“文章”じゃなかった。
何かが、こっちを見ている。
——あなたは今、疑っている。
「……」
——だから、確定した。
その瞬間、
遠くで、何かが割れる音がした。
窓の外。
歩道橋の上で、誰かが倒れていた。
人がざわめく。
叫び声。
サイレン。
——四人目だ。
「……っ!!」
俺は本を叩きつけるように閉じた。
呼吸が浅い。
心臓がうるさい。
「違う……違う……」
こんなの、ただの偶然だ。
俺が読んだから人が死ぬ?
そんなわけあるか。
——今、あなたは否定した。
「……っ!!」
閉じたはずの本。
その表紙の上に、文字が浮かび上がる。
——否定もまた、観測だ。
「やめろ……」
手が震える。
視界の端で、スマホがまた光る。
【速報:連続不審死か】
「……やめろ……やめろやめろやめろ……!!」
——次は、誰にする?
その一文を見た瞬間、
頭の中に、ひとつの顔が浮かんだ。
——選択を確認した。
「……あ…」
それは、
俺が一番、思い出したくなかった顔だった。
——五人目だ。
(第2話へ続くーー)




