第二話 僕の叔父さん、康お兄ちゃん その九~やっぱりなぞなぞ~
スパイから一夜明けて、また朝を迎えます。
第二話、ラスト! が始まります。
楽しみにしていただけたら、
ワクワクしていただけたら、嬉しいです。
では、どうぞ。
そうしてまた朝が来た。
姫たんはいつものように重役出勤で
「おはようだわよ」
と言った。
みんながそろうと、康お兄ちゃんは、みんなに話がある、と切り出した。
「実は昨日」
僕は康お兄ちゃんが、尾行されてんの、気付いてたんだ、なんて言いだすんじゃないかと思って、ドキリとした。
「義姉さんと雪ちゃんには言ったんだけど、知り合いの店から、本マグロの大トロ、わけてもらったんだ。美味いぞ。刺身にしてもらうからみんなで食べよう」
ほっと胸を撫で下ろしていると、康お兄ちゃんはさらに続けた。
「それから、これ。鳴き砂。姫たん知ってる? 珍しいでしょ。採ってきた。環奈と麟と姫たんにあげる。雪ちゃんにはもうあげてある。兄ちゃんたちは欲しくても我慢してくれよ」
「甲子園の砂か?」
お祖父ちゃんが言う。
「違うよ」
「なんじゃ。違うのか」
お祖父ちゃんは肩を落とした。
「採ってきたって、いつ? どこから?」
お姉ちゃんが訊いた。
「昨日」
「昨日?」
「そうだよ。どうかした?」
「ううん」
とは言ったが、お姉ちゃんの疑問はもっともだった。
「綺麗なお月様だったぞ」
「昨日はずっと曇ってたわよ」
お姉ちゃんが返した。
「東京はな」
康お兄ちゃんはさらっと言ったのだけど、僕たちには強く引っかかった。
「……東京はって、じゃあ、どこ行ってたの?」
お姉ちゃんが訊いた。
「内緒。教えない」
康お兄ちゃんは笑った。
「いや、でも、東京はって言ったってことは、康お兄ちゃんは別の場所でお月様を見たってことよね。でも神奈川でも千葉でも、鳴き砂って採れないよね?」
「沖縄に行ってきたんだよ」
「嘘だあ」
みんなで声がそろった。
「ほら。だから内緒にしたかったんだよ」
「沖縄に、昨日の夜行って今日の朝には帰ってこられないでしょ」
またお姉ちゃんが訊いた。
「秘密があるんだよ。沖縄に半日かからずに行って帰ってこられる秘密が。でもこれは本当にトップ・シークレットだから、言わない。意地悪じゃないぞ」
「東京にある、沖縄のアンテナ・ショップに売ってるのを買ってきたってこと?」
お姉ちゃんが訊いた。
「ノー。でもトップ・シークレット」
「誰かからわけてもらったのを、話を膨らませて話してる?」
僕が訊いた。
「ノー。でも、トップ・シークレット」
康お兄ちゃんは得意げだった。
新幹線を使ったって、飛行機に乗ったって無理だ。
昨日ではなく、数日前に誰かからもらったものを、冗談ではぐらかしながら言っているのだろうか?
それなら辻褄が合う。
そのとき、僕の脳裏によぎるものがあった。
「宇宙人と交信しているんだわよ」
点と点が線になった瞬間だ。
新幹線や飛行機では無理でも、UFOなら、(おそらくではあるが)可能だ。
「康お兄ちゃん、UFOって信じる? 宇宙人って、いると思う?」
僕は訊きながら、答えは知っていた。
「なんだ、いきなり。UFOも宇宙人も信じてるし、いると思うぞ。知ってるだろ?」
そう、康お兄ちゃんは昔っから、僕が幼稚園児のころから、この手のテレビ番組が大好きだった。
最初は小さなものだった信ぴょう性が、徐々に大きくなっていく。
好きが高じて、UFOを呼べるようになった?
好きが高じて、宇宙人と交信できるようになった?
いやいや。
でも……。
僕は容易くは否定できなくなった。
鳴き砂という確たる物証もあるのだから、余計にだ。
お母さんと雪が朝ご飯を運んできて、話は中断された。
でも、と僕は思考回路をフル回転させる。
UFOに乗ったの?
なんて直球は投げちゃいけない。
そんなのは愚の骨頂だ。
もしもこの疑念が正解なら、乗ったと認めたら康お兄ちゃんの身に危険が迫るかもしれないし、交信している宇宙人に縁を切られるかもしれないからだ。
イエスと答えるはずがない。
本マグロの大トロが食卓に運ばれてきて、大袈裟ではなく、僕は唾を飲んだ。
「美味しそう」
とお姉ちゃんはトップ・シークレットの正体に興味はなさそうだ。
康お兄ちゃんは、だろ、いいいとこだけど特別にって、大サービスだって、言ってた。
相当後ろ髪引かれてたな。
さあ、座って、座って。
食べようよ。
みんなでいただきますを言って食べながら、僕は思った。
この肉、本マグロの大トロの刺身だって話だけど、人肉だったらどうしよう。
譲ってくれたひとっていうのが実は宇宙人で、さらってきていろいろと実験した挙句の残りを、本マグロの大トロと偽ったのでは……。
なにを馬鹿なことを。
宇宙人にも失礼だ。
そう、僕のなかでも宇宙人はいる。
確定だ。
だからこそ、否定をしきれないのだ。
えいやっとひと口食べて、まぎれもない大トロだったので、僕も舌鼓を打った。
「美味いだろ、麟」
「うん。美味いね、このじんに、いや、大トロ」
「寿司にしたら一貫千円はくだらないって話だ。朝から贅沢だな。俺のおかげで」
「自分で言っちゃ駄目だろ」
お父さんが言って、食卓が明るくなった。
深く追求をしたいのだけど、いい方法が見つからない。
加えて、大トロが僕の思考を滞らせる。
なんだかんだと言えないまま、僕の茶碗は空になった。
「お代わりする?」
とお母さん。
「いや、もうお腹いっぱい」
「俺も、ごちそうさまだ」
そういって康お兄ちゃんは背伸びをした。
僕は二度見した。
僕は、二度見を、した。
何をか?
康お兄ちゃんは半袖のTシャツを着ていたのだけど、Tシャツの袖から、見えていたのだ。
文字と記号の中間のような痣が。
そう、まるで、宇宙文字のような、痣が。
僕は言葉を失ってしまい、口をパクパクと、アワアワとさせるのがやっとだった。
そんな僕に、康お兄ちゃんはウインクをした。
やっぱり謎の漢だ、康お兄ちゃんは。
康お兄ちゃんと同じく、わたしもUFOとかUMAとか、
その手のテレビ番組がやっていたら、予約録画して観るくらい
好きです。宇宙人、いると信じて疑わないのですが、
みなさんはどうですか?
第二話を読んでいただけて、康お兄ちゃんを好きになってもらえたら
嬉しいです。
では、また。




