砂海に潜む魔・2
リュナン達が行動を始めた頃、カッセが飛ばされた辺りでは他の仲間も次々と意識を取り戻し、集まっていた。
「ぺっぺっ、うえぇ~口の中がジャリジャリなのじゃぁ~」
「ああ、ったく最悪だな……ここはどの辺りなんだ、って言ってもこれじゃわからねーか」
「イシェルナ達は近くに見当たらないし、この状況、厳しいな……」
時折強く吹く風が砂を巻き上げながらデュー達を襲う。
「奴等のことだ、無事に決まっておる……きっと、たぶん」
シュクルは落ち着かないようで尻尾や耳をしきりに動かしていた。
口では強がっているが不安を感じるのは彼だけではない。
「砂嵐が止むのはいつになるかわからない……待っていても埒があかないな」
「あ、そうじゃ! たしかおじうえに貰ったアレが……」
言うが早いかミレニアが道具袋を漁り、小さく丸いコンパスのようなものを取り出す。
「その珍妙な道具は?」
「わしのおじうえが作った魔方針というアイテムじゃ。マナスポットとか強いマナに反応するらしいぞ、すごいじゃろ!」
興味を示して覗き込むカッセに、ミレニアが自慢気に説明する。
彼女にとって叔父は、優秀で何でも知っていて優しい、大好きな人間の一人なのだ。
「そうか、これがちゃんと動けば目的地を教えてくれるかもしれないな」
「むっ、妙に引っ掛かる言い方じゃのうデュー」
「得体の知れない道具だしな。正直、半信半疑だ」
魔学に馴染みのないデューにはにわかに信じられないらしく、ミレニアに睨まれるが今にも口論を始めそうな二人の間にオグマが割って入る。
「ま、まあまあ……この状況じゃあこれに頼るしかないだろう? 数歩先も見えなければ今どっちを向いているのかすら不明なんだ。闇雲に進むより……というより、ことこういうものに関してザッハの腕は確かだ」
「それもそうか……にしても、オグマがそう言うなんて、本当にミレニアの叔父とつながりあったんだな」
オグマの口振りだと、実際に目の当たりしたようなふうに聞こえる。
かつては王都の騎士であった彼が、性格や雰囲気もまるで違う魔学研究所の人間とどうやって知り合って、どんな関係になったのか、興味がそそられないと言えば嘘になる。
そして後にその姪とも知らずに出会い、今こうして旅をしている偶然も。
「っていうか、ミレニアは騎士団に兄がいて城の研究所に叔父がいて、なんでシブースト村なんて王都から離れたとこに?」
「あっ、魔方針が動くのじゃ!」
デューの疑問を遮って、ミレニアが声を発した。
見ればコンパスの針が、はっきりと一方向を示している。
「……行き先は決まったようだな。早く他の三人を見付けねば」
「さっきの魔物に気を付けて、じゃの」
一行は魔方針の指す先を目指し、歩き出した。
―――――
砂の海に吹きつける強風で視界もろくに利かない中、占いを頼りに進むことになった若き神子姫の手は、責任の重さに震えていた。
形のない、不確かなもの。それもまだ未熟な己の占いが、仲間達の命運を左右するという重圧は大きい。
「ねぇフィノちゃん、神子姫の占いってどういう感じなの?」
「え、あ、はい……意識を集中させて、いろんなものを感じ取るんです。見えるものは断片的で、あんまりハッキリしていないことが多いから、見えたものから自分で考えないといけないんですけど」
「その杖持って踊ったりするの?」
「えーと、大掛かりなものだとそういう時もありますよ」
ふうん、と返すとイシェルナが考え込む。
未来が見える、などと言われても神子姫以外からすればいまいちぴんとこない感覚だ。
「的中率は人によります。わたしはまだ半々くらいなんですけど」
「でも、フィノちゃんは確かに何かを見て、デュー君のところへ行ったんでしょう? はるばる王都まで」
「んで、実際に異変は起こってたわけだ。すごいじゃないですか、嬢ちゃん」
起こってたこと自体は喜べませんけどね、と付け足してリュナンが笑う。
「……きっと、大丈夫ですよ。俺は嬢ちゃんの占いに託します」
「で、でも……」
「ただの占いじゃないわよ、なんたって“神子姫”の占いなんだから」
大丈夫、と二人の手がフィノの薄い肩に置かれる。
「あ……」
その感触、ぬくもりに不思議と不安が払いのけられ、勇気づけられた気がして、自然とターコイズの目がゆっくりと瞼を下ろす。
後ろには確かに二人を感じる。
未熟な自分の占いに行く末を懸け、信じてくれる仲間が、背後にいる。
ならば、やるべき事はひとつ。
(おかあさん、みんな……わたしに力を貸して!)
すると暗闇の中に、小さいけれども確かに強く輝く光が現れた。
光はイシェルナ達には見えないが、フィノの前にはっきりと行くべき道を示す。
「見えました! あっちですっ!」
先程までとうってかわって力強い声色で光の見えた方角を指す駆け出し神子姫の表情には、迷いが消えていた。




