竜の路を往く・3
「どうか、この世界に起こりつつある危機を食い止めてください」
深々と頭を下げ、一行にそう託したミナヅキは、代わりにマンジュの民の全面協力を約束してくれた。
もともとそのつもりだったデュー達は、カッセに連れられて里の裏にある井戸へ。
「ここが、九頭竜の路の入り口だ。中は複雑に入り組んで枝分かれしているが、道を間違えなければジャンドゥーヤへはそうかからないでござろう」
「ジャンドゥーヤ、って……」
地続きでもない、大陸から切り離されたマンジュ島からどうやって行くのだろうか。
「まさか、九頭竜の路とは海底洞窟のことか!?」
オグマの言葉に、カッセは静かに頷いた。
「その通り。この海底洞窟は世界各地に繋がっていて、行こうと思えば世界中に行けよう。マンジュの里に伝わる、秘密の抜け道だ」
「そうやって、王都の地下へも行った訳か……カッセ。あの時の声は、お前だろう?」
シュクルには、カッセの声は聞き覚えがあった。
王都の障気騒ぎの元凶、地中深くに生えた巨大な牙を浄化する際、そのあまりの禍々しさに気圧されそうになったシュクルを叱咤した声だ。
「……そうだ」
「えっ? 声なんて、聞こえませんでしたよ?」
「声は頭の中に直接響くようだった。余はよく知らぬが、そういう術があるのだろう」
カッセはそれ以上返答せず、シュクルに背を向ける。
「準備が出来たら、ここから降りて東の大陸へ向かう。先も言ったが複雑で迷ったが最後。道案内として、拙者がついて行こう」
「うむ、よろしく頼むのじゃ」
こうして、船で向かおうとしていた大陸に歩いて向かうことになった一行。
道具を買い揃え、準備を済ませると深い深い穴の中へと降りていく。
「果てしないな……これだけで、一般の人間には厳しい」
「そして魔物も出る。ゆえに、あの船の船員や乗客にはここを通れる者はほぼいないであろうな」
ここが秘密の場所であることが一番の理由なのだろうが、地底を通る洞窟を延々と歩く、おまけに魔物まで出るとなれば戦う力も体力もない人間はおとなしく船の修理を待つしかない。
雑談する声が反響する中、しばらくすると井戸の底が見えた。
薄暗いながらも仄かに照明らしきものが見え、フィノはその光を見つめる。
「灯りがあるんですね」
「蛍煌石の散りばめられた壁……あの、森の地下にあった遺跡と同じじゃの」
もしかしたらここも、古い文明の名残なのだろうか。
壁や天井はしっかりと補強されており、魔物との戦闘でうっかり崩れるような危険はそうそうない……と信じたい。
何せ、万が一のことがあれば、逃げ場はないに等しいのだから。
「ここから別の大陸に行けるなんて……なんだかすごい話ですねえ」
どこまでも伸びる竜の道を前に、リュナンは感嘆の声を洩らした。




