竜の路を往く・2
人の言葉を理解し、話し、精霊をその身に宿す術をもつ特殊な種族・聖依獣が人との交流を絶ってから、長い時が過ぎた時代。
人々は聖依獣と暮らした日々の名残も忘却の彼方に、マナの恩恵と魔学の発達により発展した文明の中、便利な生活を送っていた。
そんな現代において、もはやおとぎ話の中の存在と思われていた聖依獣との交流を続けている部族がいるという。
「オグマ、知っていたか?」
「い、いや……私も何でも知っている訳ではないが、それにしても聖依獣が人と交流を続けていたなどと……」
「グランマニエの王は、少なくとも聖依獣が消えてなどいない事は知っていたようですね。騎士団を向かわせて、聖依獣を狩ろうとしていたのですから」
かつて王都騎士団に所属していたオグマが、ミナヅキの言葉に信じられないといった顔をする。
「貴方が知らなくて当然です、オグマ・ナパージュ殿。これは貴方が騎士団にいた頃より、後の話です」
「な、何故、私のことを……?」
「この島は世界と繋がっています。各地の情報は、それなりに入っていますよ」
驚くオグマにミナヅキは上品な微笑みで答えた。
直後、その表情が凛と引き締まる。
「……我々については、現時点でお話できるのはこのぐらいです。では、本題に入りましょう」
「本題……」
一同息を呑む中、デューは端に引っ掛かるものを感じ、胸元に手を当てる。
(王の、聖依獣狩り……?)
が、今は個人的なことはさておき、話を聞かねばならないだろう。
違和感を振り払うと少年もミナヅキの言葉に耳を傾けた。
「あなた方は、王都の地下に行ったそうですね。奥で巨大な牙を見たとも、それを聖依術で浄化したとも聞いています」
「ん? わしらそこまで話したかの?」
確かに彼女にはこの島に流れ着いた経緯を説明したが、ミレニアとシュクルを早く休ませなければいけなかった状況で、それは最低限の必要な部分だけ。
「一部始終は、彼が見ていました。カッセ、こちらに」
「はっ」
呼び声に静かに応えたのは、青年の声。
彼はマンジュの住民とも違う、不思議な格好をしていた。
体格は小柄で、肌の殆どを衣服やマント、あちこちに巻かれた布で隠して、どんな顔立ちをしているのかすら不明だ。
唯一わかるのは強い光を宿した瞳が、どことなく憂いを秘めているように思えたこと。
「見ていた、って……あそこ、そうホイホイ人が立ち入れる場所じゃないわよね?」
イシェルナがもっともな疑問を口にする。
王都の地下への入り口はマーブラム城の中に隠されていて、普通は存在にすら気付かないだろう。
それを、どうやって侵入して一連の出来事を見ていたというのか。
しかしミナヅキもカッセもそれには答えず、話を続けた。
「話題を戻しましょう。異変が顕著にこのアラカルティアに現れるということは、もう急がなくてはいけない段階かもしれません」
「異変……王都の障気騒ぎに、マナを喰らう魔物か」
「ええ、どちらも情報は得ています。ですから、いずれあなた方にカッセを接触させるつもりでしたが……まさか、こんな形でこの島にやって来るなんて」
運命とは時に皮肉なもんじゃのー、とミレニアがしみじみ呟く。
そもそもデュー達が出会い、共に旅をしているのもそんな皮肉めいた偶然の積み重ねが生んだ結果でもあり、本来ならば全然違う場所でそれぞれの暮らしを送っていたことだろう。
「……これもきっと、何かの導き。図々しい頼みだと、重々承知しております……それでも、聖依術を扱える人間はこの現代では限られているのです」
「世界各地のマナスポットの調査、か?」
「調査と、浄化です。調査だけなら我々マンジュの民でも可能なのですが……」
ミナヅキは心苦しげに目を伏せ、それでも尚も一行に訴えかける。
「そりゃもともとそのつもりじゃが、今のわしらにゃ船もないしのぅ……」
「船の修理にはまだしばらく時間がかかります。船員や乗客たちは責任をもって我々が送り届けますが、あなた方にはそれでは遅すぎるでしょう。なので、少々危険で大変なのですが“九頭竜の路”を通っていただきます」
九頭竜の路……その耳覚えのない言葉に、デュー達は顔を見合わせるのだった。




