賑わいの裏側・3
王都の、白い石畳。
魔学研究所をあとにしたデュー達は、次の目的地や今後の事を話し合うべく、宿を目指して歩いていた。
と、ふとオグマが思い立って足を止める。
「……そういえば、切らしているものがあったな」
「旦那、買い出しですか? 良ければ俺も荷物持ちに……」
「いや、いい。先に行っていてくれ」
リュナンの申し出をやんわりと断ると、オグマは仲間達の側を離れて道具屋へと引き返す。
「宿で待ってるからな」という少年の声にちらりと振り返り、去って行った。
「……一人で買い物、ねぇ。人見知り、治ったのかしらん?」
「「あ」」
イシェルナのそんな一言は、彼の背中には届かない。
――道具屋で買い物を済ませたオグマは、一緒に買った花を手に、宿とは違う方向に足を向けた。
賑わう城下町から少し離れ、いくつもの石碑が並ぶそこは、墓地。
並び立つ墓石のひとつを見つけると、その前に佇み刻まれた文字をじっと見つめる。
そこに眠る者の名前、そして没年は……
「そこにいたか、オグマ・ナパージュ」
「っ!?」
墓前に供えられるはずだった花の白い花弁が、ひらひらと舞い散る。
背後から現れた気配に、咄嗟にオグマは飛び退き小刀を構えた。
そこにいたのは、黒ずくめの服装に仮面で顔の上半分を隠した怪しい男。
その身に纏ったぞくりとする殺気が、オグマに戦闘態勢をとらせていた。
「今の武器はそれか」
「……お前は、誰だ」
「さぁ、『誰』だろうな?」
仮面の男はゆったりとした動作で剣を抜くと、裏腹に凄まじい勢いで瞬時に距離を詰める。
まずい、と本能が危険を感じ取り、詠唱を省略して雷撃の術を放ち牽制をする。
そのまま男から離れようとした時だった。
「……そう、次はそう動くんだったな」
「なっ……」
読まれていた。
一瞬の動揺から生まれた隙を逃さず、仮面の男の刃がオグマの身を貫いた。
「そして、こう」
「う、ぁ……っ」
剣を引き抜かれ崩れ落ちるオグマを無慈悲に見下ろす仮面の奥の冷たい瞳。
「こんなものか。呆気ないな」
「お、まえは、いったい……」
「……消えろ、オグマ・ナパージュ。お前を消して、俺は……」
力量の差、というより何もかも知り尽くされているかのような感覚が、絶望感を生む。
逃げようにも、治癒術をかけようにも、この状況では……――
「旦那ッ!」
豪快な斧槍のひと薙ぎが仮面の男を襲い、オグマから引き離した。
「リュナ、ン」
「旦那、大丈夫ですか? こいつは一体……!?」
「ふん、邪魔が入ったか」
男はリュナンの登場に興が削がれたのか、くるりと踵を返した。
「待てよっ!」
「俺を追うよりその男を治療した方が賢明だぞ」
仲間がいるならともかく、今の状況では返す言葉もない。
敵をみすみす逃がすしかない己の無力さに、リュナンの両手に力がこめられる。
「う……くそ、旦那ぁ……」
やがて黒衣の姿は視界から消え、場に元の静けさが戻ってきた。
「……ど、して、ここに……」
「やっぱり手伝おうと思って道具屋行ったら、花を買って墓地の方に歩いてったって聞いたもんでね! いいから喋らないでください!」
一息で喋りきるとリュナンはオグマを担いで歩き出す。
「俺じゃ治療は出来ない……少しの辛抱ですからね、旦那っ!」
しかし、深手を負って朦朧としているオグマからの返事はなかった。




