森の奥のひみつ・3
ミレニアが『聖霊の森』と呼んでいたそこは、デューには覚えのある場所だった。
村の双子の子供、カネルとシナモンが言いつけを破って遊び、シナモンが迷子になってしまった、あの森だ。
そしてシュクルと出会い、ミレニアが初めて聖依術を使った場所でもある。
「随分奥まで行くんだな、あの時とは違って」
「シナモンが見つかったのは入口からそれほど離れてない場所じゃったからの。この森は案外広いのじゃ」
深い緑の中を進みながらのミレニアの言葉に、それ以上奥へ迷い込まなくて良かったと心から思った。
「あんな小さな子、こんな森の中じゃ簡単に隠れちゃいますよね」
「ああ、考えただけで恐ろしいな……」
「そうですよ、あの子絶対将来美人になるのに」
「……え?」
リュナンの言う意味がわからずオグマは目を瞬かせるが、それ以外のメンバーからは一斉に冷たい視線や非難のまなざしが集まった。
「さすがに犯罪だろ、お前……」
「ルナ姐にやたら反応してたからてっきりボンキュッボンのお姉様好みかと思っとったが……シナモンはダメじゃぞ?」
お姉ちゃんを自称するミレニアが節操なしの軽薄男ににらみを利かせる。
「そうですよ、シナモンちゃんにはシュクル君が……」
「なっなななんでそうなる!?」
どさくさに紛れてとばっちりを受けたのはシュクル。
否定しようにも動揺が隠しきれず、反応するだけ墓穴だったりするが本人は気付いていない。
「ああ、やっぱり人数が増えると賑やかだな……」
「静かな森が一気にやかましくなったな。風情も何もあったもんじゃない」
容赦ない少年にばっさりと切り捨てられ、オグマは困り顔になる。
「だいたい、こんなに騒いでちゃ自分から魔物を引き寄せるようなもんだろ?」
「それもそうなんだが……明らかに自分が格下だと悟ったらいくら魔物でも襲って来ないと思うぞ?」
口元に手を添え、小さく唸るオグマに異を唱えたのはリュナン。
「そこが障気が出る前の話、なんですけどね旦那。俺はよくガトーさんのパシ……お使いに行かされてる時弱い魔物にも襲われましたよ?」
「ああ、そういえばそうか。アトミゼもそういう魔物が増えてきた。もしかしたら何らかの影響を……」
むむ、と真面目に考え込むオグマをよそにミレニアとシュクルが顔を見合わせる。
「「……パシリ?」」
「さ、さーてチビちゃん、マナスポットはどこにあるのかなー?」
すかさずリュナンがわざとらしく遮って大袈裟な動きで辺りを見回した。
「まぁパシリの話は後で詳しく聞かせて貰うとして……この奥じゃ。木々に隠されてわかりにくくなっとるが……」
がさがさとミレニアの小柄な体が緑の中へ分け入っていく。
ともすれば見落としてしまいそうなところに、小さな道があった。
そこを進んでいくと、やがて開けた場所に出る。
「ほら、見えるじゃろ?」
「これは……」
急に、目の前が明るくなる。
緑に護られるように、泉とそれを囲むように咲き乱れる花畑、そして石碑がそこにあった。
「綺麗な場所……」
薄暗い森でもここは陽の光が差すらしく、泉の水面がキラキラと輝いている。
思わず、フィノが感嘆の声を漏らした。
「ああ、本当に……聖霊が棲む森、というだけの事はあるな」
「けど、あの石碑は?……見るからに怪しいんですけど」
一行が石碑の側に歩み寄ってよくよく見ると、文字らしきものが刻まれているのがわかった。
……が、判明したのはそこまでで、掠れて殆ど読めなくなっていた。
「これは……古代アラムンド文字?」
「オグマ、読めるのか?」
「いや、どのみちこれだけ消されていては……だが、本で見たのと同じ文字がいくつか確認できるな」
と、オグマが石碑を調べていると、ミレニアの髪飾りとシュクルの首輪の石がキィンと音を立てて光を放った。
「な、なんだ?」
すると石碑がひとりでに動きだし、それぞれが咄嗟にその場を離れる。
石碑が停止し、おそるおそる覗き込むと、そこには下に続く階段が現れていた。
「これは、めちゃめちゃ怪しいのう……」
「ミレニア、知っていたんじゃないのか?」
「わしは知らんぞ。ただ見るからに怪しい場所じゃとは思ったが……」
階段の先を覗きながら、ミレニアが呟く。
ふら、と吸い寄せられるようにその足が動いた。
「お誂え向きに現れた入口……行ってみるしかないじゃろう」
「何があるかもわからないのにか?」
「ふふ、折角の招待を受けん訳にもいかんじゃろ」
そのまま先頭をきって中へ入っていったミレニアを「おい、待て!」とデューとシュクルが追う。
「あ、待ってください、危ないですよー!」
フィノ、オグマも続いていき、出遅れたリュナンがぽつりと残される。
「あー、そんなあっさりと……チビちゃんは将来大物になりそうだなぁ……」
ぽり、と頬を掻くと、彼もまた階段を下っていった。




