再び、霧の山脈へ・4
オグマが暮らす山小屋の中は綺麗に片付いていて、必要最低限の家具と調理道具、あとは本棚があるくらいだった。
テーブルを囲むようにして座ったデュー達は部屋中を見回す。
「散らかってないな、アイツが居座っていた後だったのに」
「なんだかんだ義理堅い性格なんですかね、もしかして」
やたらと粗暴さが目立っていたが、受けた恩はきっちり返すようだ。
その証拠に先ほども怪我を癒やしたオグマに危害を加える事なく、驚くほどあっさりと引き下がった。
「だからデュー君が無闇にケンカをふっかけなければ……」
「それはもういいだろ、フィノ」
「デュー君は子供扱いとかチビって言葉に反応し過ぎです! それじゃあ見た目だけじゃなく器も小さく見えますよ!!」
軽く流そうとしたのに手痛い反撃を食らって絶句するデューにリュナンが思わず吹き出した。
「くくっ……嬢ちゃん、言いますねぇ……」
「リュナン、うるさい。それよりどうしてここにいるのか説明しろ」
少年には似つかわしくないぎろりと射殺すような眼光にリュナンは「おお、怖い」と降参のポーズをとる。
「……どうしても何も、俺は殆ど入れ違いくらいのタイミングでガトーさんのとこに帰って来てたんですよ。それで、話を聞いて急いでぶっ飛ばして来ました」
「でもよくこのアトミゼ山脈に来ると思いましたね」
「まあそれはガトーさんが、きっと一度この家に立ち寄るだろうって」
そこまで言ったところで、リュナンは涙目になり両手でオグマの左手をガシッと掴んだ。
「旦那、なんで俺を置いて行っちゃうんですか!? 寂しいですよぉぉぉぉぉ!!」
「っ!?」
――ビリリッ!――
驚いた拍子に雷の低級術が発動してしまい、リュナンはたまらず飛び上がった。
「ぴぎゃっ!?」
「あっ、す……すまない、つい咄嗟に……」
「何やってんだ、バカかリュナン」
術で回復してもらい立ち直るとリュナンはわざとらしく咳払いをして、話を戻した。
「ガトーさんも言ってましたけど、俺がこのままフォンダンシティでお手伝いやってる方が幸せなんじゃないかって、旦那思ってます?」
「……違うのか? 活き活きと仕事をこなしていたからてっきり……」
恐る恐る答えるとリュナンは机を叩く勢いで身を乗り出した。
「あれはヤケですよヤ・ケ・ク・ソ! 人使い超荒いんですからあの頑固オヤ……じゃないガトーさんは!!」
「あんまり興奮するとまた電撃くらうぞ」
デューの言葉に我に返りオグマに視線を向けると、少しびっくりしているのかきょとんとしていた。
「……と、とにかく、俺は旦那に恩返しをしたくて来たんですから。ガトーさんにも許可をいただきましたし、これで帰れなんて言わないで下さいよ?」
「恩ならもう……」
「まだまだ全然です!」
目を血走らせて鼻息荒く言い切るリュナンに「パシリ生活から抜け出したいだけだろ」と笑うデュー。
「ま、まあまあ……リュナンさんが来てくれたら頼もしいです……よ?」
「微妙に疑問形なのが引っかかるけどありがとう嬢ちゃぁぁぁん!!」
「きゃあ!?」
優しい言葉をかけられて感涙のあまり飛びかかるリュナンをすかさずカウンターでデューが阻止する。
「いい加減にしろ」
「ぐはっ」
叩き落とされて突っ伏すリュナンにオグマが歩み寄り、覗き込むと、
「食卓では、もう少し静かにな?」
「……すびばせん」
こうして、また一人道連れが決まったのである。




