取り戻した空・3
そして翌日、宿屋の前にて。
「うーむ、よく寝たのじゃー☆」
気持ち良さそうに伸びをするミレニアがそのまま空へと視線を上げる。
「信じられんのう、これが本当にわしらがやった事とは……」
「余も正直驚いておる。聖依術にここまでの力があるとはな」
地下で見た巨大な牙にはただそこに在るだけではない、何か得体の知れない恐怖を感じた。
目の前で見た時には、その圧倒的な存在感にすくみ上がってしまったが……
「確かに今、ここにある現実だ。お前らが障気を消し去って王都を救った事はな」
ふいに背後から声をかけられ、見れば宿屋から出て来る一人の少年が。
「デュー……」
「ったく、お前らといると退屈しないな」
皮肉めいた口調だが、彼なりの好意を感じ、ミレニアは口許を綻ばせる。
他の仲間達も出てきて、ミレニア達に歩み寄った。
「おはよう、小さな英雄さん達♪ 体の具合はもうだいじょぶ?」
「もうばっちり元気なのじゃ!」
「もともと大した事ではなかったからな」
この期に及んでまだ強がるシュクルにイシェルナはクスリと笑みを零す。
「さて、これで一応問題は解決した訳だが……これからどうするんだ?」
「ああ、そうか……もともと別の目的があって来たんでしたっけ?」
仲間に加わってまだ日が浅いリュナンが尋ねると、イシェルナが手をひらひらさせた。
「目的って言ってもあたしは大したモノじゃないわよ」
「イシェルナは面白そうだから、みたいなノリで来たからのぅ……そういえばオグマは、アトミゼに戻るのかの?」
話を振られてびくっと反応するオグマ。
「そうだった。オグマは落石で帰り道が塞がれてそのまま……」
「あ、その、私は……そうだな、一度様子を見に戻ろうと……思う。ガトー殿にも無事終わったと報告をしたい」
たどたどしくそう答えると、フォンダンシティにいるであろう恩人を想い、遠い目をする。
「わたしも報告をしに帰らなきゃ。お別れは寂しいですけど……」
はるばる東大陸からやって来た神子姫は杖を握り締めてそう言った。
「フィノちゃんはかなりの長旅よね」
「はい。良ければいつか遊びに来て下さい」
「うふふ、そうするわ♪」
和やかに笑い合う女子二人。
しかしそんな光景を目の保養に出来るのもあと僅かだと気付いたリュナンは心底残念そうだ。
「みんなバラバラになっちゃうんですかね……」
「そうねぇ、あたしも一度師匠のとこに帰ろうかしらん? お土産話いっぱい出来たし♪」
その一言で一斉に注目が集まった。
「師匠?……武術の、か?」
「ええ、そうよ。あたしの育ての親みたいな人かしら。ちょっと大雑把でいい加減なんだけど☆」
沈黙と共に訪れる、何とも言えない微妙な空気。
皆何かを言いたげな顔をして絶世の美女から目をそらした。
「……何よぉ、その反応? ねぇ、オグマ?」
標的に定められた大きな小動物がびくりと肩を跳ねさせた。
「あっ、え……その、私は……師匠がいるならあの腕前も納得だな、と……」
「本当にそれだけかしらん?……ほら、白状してしまいなさいな★」
「うう……っ」
美女が睨むと凄味も違うのだろう。ふるふる震えて怯えている。
戦いが多くなると忘れがちだが、オグマは人が苦手なのだ。
まずいと思ったデューがすかさず間に入る。
「あとその性格もな」
「あらん、言いにくい事をズバッと言っちゃうのねん?」
「少年、男らし過ぎ……」
イシェルナはオグマを解放するとデューに歩み寄る。
「貴方は記憶を取り戻すんでしょ? 行くアテはあるの?」
「特にない……が、しばらく王都にとどまろうと思う。ここなら情報集めにも向いてるし仕事もありそうだからな」
デューがそう言うとミレニアの瞳に陰が落ちる。
「……それじゃあ、デューとはお別れじゃの」
彼女にしては、珍しくしおらしい声で。
だがそれも一瞬で、振り向けばすぐに笑顔を見せる。
「カネルやシナモン達の顔が見たくなったからの、シブースト村に帰ろうと思うのじゃ。ここまで連れ回しておいて悪いのじゃが……」
「ミレニア……」
フッと脳裏に蘇る、彼女の兄の言葉。
もしかしたらこの王都は彼女にとってはあまり居心地が良くないのではないだろうか?
「いや……ここまで連れて来て貰えただけで充分だ。後の手掛かりは自力で探そうと思う」
「すまんの、デュ……」
謝罪を遮ったのは彼女の頭上にポンと置かれた手。
デューが彼女の頭を撫でているのだ。
「デュー……?」
「ありがとう、ミレニア」
いつもなら見せない、素直な笑顔。
どこか大人びた表情がミレニアを僅かに赤面させるが……
「…………デュー……なんか気持ち悪いのじゃ」
「なんだと!?」
そこでそう簡単に甘酸っぱい展開にならないのが、この二人なのであった。




