取り戻した空・2
王都を障気から救った小さな英雄達は、強力な聖依術を使った反動でまだ目を覚まさない。
まずは宿屋に向かおうとした所で、トランシュがマーブラム城の入口で立ち止まる。
「……すまないが私はここで失礼するよ。報告しなければならない事が山程あるからね」
するとデュー達も足を止め、トランシュを振り返った。
「あら、残念。色男さんともっと一緒にいたかったわ」
「折角ミレニアちゃんにも会えたのに……」
残念がる女性陣にオグマが静かに首を振る。
「彼は騎士団の隊長格だ。今回の報告はもちろん、今後の処理もあるだろう」
「障気騒ぎで閉鎖してしまったネグリート砦の開門や反対側の橋の修理とか、だな」
デューも言葉を補うとトランシュが頷いた。
「それに障気で狂暴化した魔物達もまだ結界の外で暴れている。しばらくは忙しくなりそうだ」
「そういう事なら仕方ないわね」
名残惜しいけど、とウインクをするイシェルナにトランシュも微笑みを返す。
「……今回の件では本当に助けられた。感謝している」
「成り行きというか、ついでだけどな」
記憶を取り戻すのも重要だが、障気のせいで外を自由に行き来できない世界ではそれも難しくなってしまう。
まさか自分でその元を断ちに行く事になるとは、さすがに予想していなかったが。
「ついで、か。まさかついでで救われるとはね」
「救ったのはオレじゃなくお前の妹だろう。それにシュクルも」
「そうだった。しばらく見ない間に大きく、強くなって……」
フッと、切れ長のカーマインの目に慈しみの光が宿る。
トランシュは背負っていたミレニアをリュナンに預け、背を向けた。
「妹を頼む」
「連れて帰らないんですか?」
「そうしたいところだが、君達といた方がミレニアにとっても良いだろう」
口ではそう言っているが、後ろ髪を引かれる兄の思いが背中から伝わってきて、デュー達は顔を見合わせた。
「いいお兄ちゃんね♪」
「名残惜しいのはわかるが、オレ達も早く宿屋に行かないとな」
「あっ……」
ぞろぞろと気配が遠ざかるのを感じ、慌ててトランシュは振り向く。
「……なんだ?」
「その……これから君達はどうするつもりなのか、と……」
苦し紛れに投げ掛けた質問にデューは少し考え込むが、
「特に決めてない。記憶の手掛かりを探す、というのは変わらないけどな」
そうとだけ答えた。
「そうか……早く思い出せるといいね」
「ああ。じゃあな、トランシュ」
軽く手を振ると素っ気無く去ってしまうデューに続き、他の仲間達もそれぞれトランシュに別れを告げると後を追う。
その後ろ姿をぼんやりと見送るトランシュ。
「じゃあな、か……また、どこかで会えそうな気がするよ」
少年の背中に決して重ならない友の影を見て、溜息を吐く。
(年齢も身長も合わない……けれどもこの感覚は何だ? 何故こうも似ている?)
月白の髪が風に揺れ、陽光を受けて輝いた。




