砂海に潜む魔・4
数多の冒険者を喰らってきたのであろう砂海の悪魔も、長期戦の中で少しずつ疲労を見せてきた。
とはいえこちらもただでは済むはずがなく、気を抜けばやられてしまうのはお互い様。
「苦しいですね……さすがの俺もちょっと疲れてきましたよ」
「体力バカがそんな事言い出したらおしまいだな、そろそろ片をつけるか」
デューはそう言うと仲間達に目配せをし、剣の柄を握り直す。
「まずはわしから、ゆくぞ!」
ミレニアが炎の初歩術で火の玉を飛ばし、魔物の動きを止める。
その隙に詠唱を終えたフィノが杖を振り、耐久性を弱める術をかけた。
「効果は長くはもちません、続いて!」
「はいはーい!」
イシェルナが懐に潜り込み、丸みを帯びたやわらかい巨躯に鋭い突きを加える。
フィノの補助のお陰かその一撃が響いたらしく、魔物が大きく仰け反った。
「いくぞオグマ!」
「わかった!」
好機を逃さず、オグマの詠唱に合わせてデューが地を蹴る。
「具現せよ、蒼き女神の無慈悲なる剣!」
「いっけえぇぇぇぇ!」
デューの大剣がオグマによって一時的に氷の力を宿し、青白い光を纏う。
大振りなひとふりは弱った魔物に直撃し、砂漠についに巨体が倒れる音と震動が響き渡る。
「……やっ、た?」
呟きがひとつ、ぽつりと漏れる。
静寂の間があって、それからようやく魔物を倒した安堵と喜びが沸き上がってくる。
「やっ……たあぁぁぁ!」
「はぁー、もうこんなのはごめんなのじゃ……」
安心したら力が抜け、一気に疲労感に襲われる一行。
その場にへたりこむ者もいれば、すかさず仲間達に治癒術をかける者も。
そんな中でシュクルがおそるおそる倒れた魔物に歩み寄り、様子を窺う。
「手強い奴であったな……まだ倒せたのが信じられぬ」
「! 不用意に近付くな、シュクルっ!!」
瞬間、それまで閉じていた目が見開かれ、小さな獲物の姿を捉える。
「ひっ」と声を発したきり恐怖ですくんだシュクルをすかさず庇って飛び出したカッセに、魔物の最後の力を振り絞った攻撃が掠めた。
「ぐ、っ……!」
「カッセ!」
体格差がある分、僅かに当たっただけでも一撃は重い。
シュクルを抱いたまま地面を転がるカッセの頭から、頭巾が外れそうになる。
魔物の目から光が消え、今度こそ動かなくなったのを確認すると、オグマが駆け寄る。
「大丈夫かカッセ、今治療を……」
「近寄るなッ!」
片手で頭巾を押さえいつになく強い語気で拒むカッセだったが、我に返ると慌てて頭巾を直し、ばつが悪そうにそっぽを向いた。
「……いや、悪かったな。治療は不要だ」
「けど、怪我を……」
「問題ない。それより、早く先へ進むぞ。砂海を抜ければ近くに休める場所があるはずだ」
そう言い捨てると仲間達の訝しむ視線を背にシュクルを地面に下ろし、一人歩き出す。
ミレニアの手の中で魔方針が静かに砂漠の終わりを指していた。




