帰路、或いは次なる悪巧み
早速、夜子がやらかしてます。
もう半分くらい沈んだ太陽を背に、夜子と塁一は茜色に染まった通学路を家に向かって並んで歩いている。
あの後、会計の正式な手続きは後日ということにして、その場はお開きになった。
夜子はるんるんとご機嫌で、スキップでもしそうなぐらいだ。
にこにこととびきりの笑顔で夜子は言った。
「ふふふふふ。まさか、活動初日に超能力者なんてイレギュラーなカードを手中に収めることができるなんて──幸先いいわ。ね? 塁一」
同意を求められて、塁一は力なく頷いた。
「そうだな。つか、お前本庄を何に利用するつもりだ? 言っとくけど、いくら超能力者といえど、あいつは常識を弁えた一般人だ。法に触れる事だけはさせるなよ?」
一応釘を刺しておく。
塁一は今まで、夜子のせいで必要に迫られて危ないことをしている。
何度か警察に話も訊かれた。笑えない。話したら同情されたんだから、もっと笑えない。
享がそんなことに巻き込まれたら──と心配している塁一に夜子は呆れ顔を見せた。
「心外ね。私がいつそんなことをしたというのよ?」
「おまっ、どの口がいうか! 七面鳥の時や狂言誘拐の時だって──」
「過ぎたことを愚痴とうるさい。全く。まぁ、本城君のことは安心なさい。義務教育時代ならいざ知らず、高校で下手な真似はしないわよ。退学にでもなったら、今までの苦労が水の泡じゃない」
「・・・・・・・・・・・・」
すでに生徒会長の座を手に入れる為に、色々やらかしているというのにこの言い様。塁一は黙るしかなかった。
「それに、彼の出番はまだだしね」
「まだ?」
聞き返すと、夜子はニヤリと笑った。
(あ、ヤバい。絶対ロクなこと考えてない)
即座に察したが、どうしようもない。
何を言っても夜子が自分の意見を妥協で変えるなんて、ない。絶対に。
本日何度目か分からない頭痛を伴いながら、これからどうするか考えていると、夜子が立ち止まった。
「・・・・・・」
「ん? どうした?」
「塁一、人が来ないか見張ってて」
「は?」
言うが早いか、夜子は自分の鞄を投げるように塁一に預け、有り得ない跳躍力で、道路とを仕切る塀に登り、そのまま中へと消えた。
塀の向こうは民家だ。
つまり──
「おっ、おい! 何やってんだよ!」
塁一が塀の向こうに声を飛ばすと、夜子の声が返ってきた。
「決まってるでしょ。不法侵入」
・・・・・・言った側からやらかした。
「いやいやいや! 待て待て待て! それ犯罪だから! 七面鳥事件の時も言ったろ!」
「知ってるわよ。まぁ待ってなさい。面白いことになるから」
ザッザッザッと砂利を踏み歩く音がする。夜子が敷地の奥へ進んだらしい。
塁一は内心怖々と道路の左右を見渡していると、突如、馬鹿げたぐらい大きな声が響いた。
「ぎゃああああああああっ!!!? 誰!? 誰!? てゆーか、何して──わぁあああああああああ!!!」
・・・・・・・・・・・・しーん。
今度は水を打ったように静まり返った。
夜子が何かしたのは見なくとも明らかだが、それにしても尋常じゃない叫びだった。
塁一は慌てて、その家の表門に回り、一応小さく「お邪魔します」と呟いてから中に入り、そのまま庭先に回り込む。
夜子が侵入した辺りは縁側らしく板敷きの向こうの襖は開け放たれており、そこには椅子の上に乗り上げて、天井を素手で破壊している夜子とあたふたとしながら止めようとしている和装の少女がいた。
この状況を見た塁一の行動は迅速であった。
即座にスニーカーを脱ぎ捨て、屋敷内に上がり込み、夜子の首根っこを引っ張って畳の上に座らせ、大きく息を吸ってから──
「何やってんだ!!! お前はぁあああああ!!!」
後に、この時の塁一は悪鬼羅刹の如き恐ろしさであったと、和装少女は語ったのであった。
夜子の天井破壊には一応理由があります。
それは次の話で分かります。
理由はありますが・・・どっちにしても不法侵入して他所様の家の天井を破壊するのはダメです。
当たり前の事ですが──ふみわは小心者なので、一応書いておきます。