勧誘、或いは悪意なき脅迫
遅れてすみません。
「本庄享君、君は超能力者なの?」
夜子ははっきりと訊いた。
自分が頂点に立つための工作は惜しまないが、元よりまどろっこしいのが嫌いな性格なのが夜子だ。
膝の上に人質──猫質を乗っけて、こてんと首を傾げる。
なまじ美少女なだけあって、その仕草は様になっていた。
今いるのは生徒会室。
夜子が上座の生徒会長の席。享が下座。塁一はその真ん中の席に座って、成り行きを見守っていた。
「えっと、はい」
肯定の返事に夜子の双眸がギラリと光る。
獣じみたその光に塁一は「ああー」と、嘆息をついた。
「超能力者──昔、捕まえ──いえ、探そうとしたことがあったけど、まさか実在したとはね」
「そんなこともあったな」
昔、超能力がブームになった時、夜子が「超能力者を捕まえて、一儲けする!」と言い出し、夜子に付き合わされてゴールデンウィークを丸々潰されたことがある。
五日間探し回って見つからなかった存在が、まさか生徒会役員探しで見つかるとは──色々複雑だ。
「君がさっき使ったのは、えーっと、さ、さ、サコキネンスよね?」
「夜子、違う。サイコキネシスだ。念力」
「そうそう、それそれ。サイコーギネス!」
「言えてない」
実は慣れてない横文字は苦手な夜子であった。
「にしても、俺は夜子ほど順応性ないから、今一つ信じらんねぇんだけど・・・・・・本庄、もう一度見せてもらっていいか?」
「あっはい! じゃあ・・・・・・その花瓶を浮かします」
享はさっきと同じように手を翳す。すると、やはり享の手が光り、花(生徒会長就任祝いとして塁一が夜子に買わされた)の生けられた花瓶が宙に浮き上がる。
「おぉー! マジもんだ。すげぇ」
二度見れば納得する。塁一もなかなか順応性が高かった。
そして、あの花瓶が夜子が実家から持ってきた名匠による飛び上がるほど高い有田焼であることは黙っていることにした。
「すごいわね、サイコーギネス。どうやって使えるようになったの?」
このままサイコーギネスって覚えてたら、いつか恥かいて八つ当たりされそうだから、後で訂正しとこう。
塁一は心に決めた。
享は享でガチガチに緊張してるからか、夜子の間違いに気づいてないようだ。
「えっと・・・・・・一応、遺伝です」
「遺伝!? ということは、ご家族皆さんが超能力を使えるのかしら?」
「はい。父がテレパシー、母が瞬間移動、姉は首が伸びます」
「・・・・・・最後のなんか違くね?」
「妖怪?」
塁一の呟きに、夜子はろくろ首を想像した。
脳内のろくろ首の首が蝶々結びになったところで、享が声を上げる。
ぐっと握られた手には汗が滲んでいる。
「あの! お願いします、会長、雀野先輩、超能力のことはどうか──」
「当然、他言しないわ」
「あ、ありがとうございます!」
ほっと胸を撫で下ろした享に、夜子はまるで聖母のように(塁一から言わせれば魔女の笑み)微笑み、椅子から立ち上がって、享の真横にたった。
享も回転椅子を回して、視線を合わせる。
「本庄君、君の秘密を隠し通す為にも、生徒会に入ってくれない?」
「え?」
享が首を傾げると、夜子が身を屈めて密やかに言った。
先程まで、生徒会に入りそうな雰囲気だったが、秘密がバレてしまい、少し警戒されてるのを察知したのだろう。夜子はもう一度、一から勧誘するつもりだ。
「実はね、この森明高校の母体である森明学園はとある機関と繋がっていてね、隠れ蓑に丁度いいと思わない?」
「へ? へ? 機関?? 隠れ蓑???」
享の頭上にはてなマークが乱舞しているのが分かる。
説明を求めるように視線を向けられた塁一が、夜子の代わりに説明する。
「あー、森明学園は元々、巨大財団によって創設されてな。財団自体は訳あって解体されたけど、当時の力とか横繋がりはまだ残ってるんだ」
「あのクソ──いえ、前生徒会長が開拓した新たなコネクションもあるから、いざという時に利用出来るわ。ね?」
「そんなんですか・・・・・・でも、やっぱ・・・・・・一年ですし」
「ニーちゃんの為にも、ダメ?」
「ニー!」
そこで享がハッと夜子に抱き抱えられたニーを見る。
夜子は物凄く遠回しに、このままだとニーの世話を出来なくなるぞっと言っているのだ。
まぁ、その事に気づいているのは塁一だけだが・・・・・・。
ニーは「にゃあ」と享を呼ぶように鳴いた。
「・・・・・・・・・・・・」
沈黙。
しかし、夜子は不敵に笑っている。
もう夜子には享の答えが分かっているのだ。
そして享は顔を上げ、やはり夜子の予想通りの返事をした。
「俺で良ければ・・・・・・よろしくお願いします」
受諾の言葉に夜子は微笑んだ。
この時、唯一この先を予想し得た塁一は、ただただ享の行く末を案じたのだった。
次話も遅れます。




