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囚人棟の(裏)動物使い  作者: 蛇炉
5/10

第五話 部屋掃除

誤字・脱字などが多々あるかもしれませんが、ご了承ください。

「うっ・・・ううっ・・・」


『――――ほらほら頑張れ、あと少し』



ドレスはニコニコと笑顔を浮かべ、手をパチパチと叩く

俺は壁にぴったりくっつきながら必死に手を動かす。

しかし、視界の端にチラチラ見えるそれのせいで、自然と体が震えてしまう。



「た、頼む。手伝ってくれよ~ぅ」


『――――え~、俺がやったら意味ないじゃないか』



俺は半べそをかきながらドレスに懇願したが、ドレスはヒラヒラと手を振るだけで拒否した。

いつもの俺なら、文句の一つも言えただろうが、今はそれどころではない。

足はガクガクと震えるし、体に力も入らない

しかし、手だけは俺の意志に反して上下に動き続けている。


不意に、重心がわずかにずれてバランスを崩し、体が壁から離れ、大きく後ろへ傾いた。

視線が上に向き、ドレスの大きな羽の一部が見え、体が強張った。

自分の状態を理解した俺は、慌てて体を起こして壁に張り付いた。

ビタンッと勢いよく体がぶつかって少し痛かったが、何とか体制を立て直した。



「な、なあドレス。そろそろ・・・限界・・・」


『――――え~、ハッちゃんダメだよ。ここがどこか忘れちゃったの?・・・ほら』



そういってドレスは、俺の頭を両手で掴むと、クイッと手首を下に捻った。

自動的に俺の顔が下に向き、視線も下に向くわけで・・・



「ぎぃぃやああぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!!!」



俺は下を見た瞬間、叫び声を上げていた。

視界がグワングワンとゆがみ、頭がクラクラした。

そのまま意識を手放しそうになったが、それを何とか押しとどめた。



「わわわ、わかったわかったわかった!!!わかったから下見せんな~~ッッ!!!!!」



俺は頭を挟んでいるドレスの腕にしがみつきながら、再び叫び声を上げた。



俺達は今、とある場所の掃除をしている。

掃除の内容は、拭き掃除だけ


やるのは、“窓拭き”だ


洗剤吹きかけて、清潔な水で湿らせた布でガラスを拭くだけ。

単純明快、そして簡単

ガラスの枚数もそこまで多くない。


窓には、でっかい長方形で周りは木でできた枠があり、枠の真ん中から十字型になるようにさらに木が伸びていた。

その枠に収まるように、これまたでかいガラスが四枚はめ込まれていて、俺が拭くことが出来るのは下の二枚だ。


バイルから聞いたときは、それを聞いて『随分ラクな仕事だな?』と思ったが、それは間違いだった。

問題なのが、窓のある場所

その場所が・・・



「何でこんな高い所に窓つけたんだよーーーーっ!!!!!」



俺が再び叫ぶと、俺の声は建物内に響いた。

俺の声はしばらく響いていたが、やがて目下に広がる空間へ、吸い込まれるようにして消えていった。

そう、あり得ないくらいの高さにポツンと一つあるのだ。

外には出てないし、暗くなっているわけでもないが、まるで真っ暗な穴のようで何も見えない


すると、ぼうっとした光が空間の真ん中あたりにともり、それがゆらゆらと動いた。




――――おおーーーいいぃぃ、だああいぃじょおぉぉぶかああぁぁあドぉおルぅぅうマああぁクぅぅう???




遥か下の方から、エコーの様な音が混ぜた声がかすかに聞こえてきた。

すると、いつの間にか俺の頭の上から消えていたドレスが大きな声を出した。



『――――大丈夫だよ~~!!!!、ハッちゃんがちょっと怖がってるだけだだから~~~~!!!』



ドレスが両手を口の横にくっつけながらそういうと、ややしばらくして先ほど同じ調子で声が聞こえてきた。

どうやら、サカが心配して声をかけてきたらしい。

しかし、私の耳ではなんて言ってるか聞き取る事はできなかった。

すると、窓ガラスの上を拭いていたドレスが俺の目の前まで下りてきた。



『――――“時間が掛かりすぎてるし効率が悪すぎる。邪魔になるようなら、突き落として構わない”ってさ』


「なっ?!、あんのクソオオカミ・・・後でぶん殴る」



俺はサカを頭の中で思い浮かべて、その顔に自分の拳をめり込ませるのをイメージした。

だが、下は見ない・・・・絶対にっ!!!



『――――それは大いに構わないけど・・・まさか、ハッちゃんが高所恐怖症だったなんてしらなかったよ』



突然ドレスがそうつぶやくと、ふぅっとため息をはいた。

そして、大きく羽をはばたかせて、俺の視界の正面に入るように移動した。



「わ、悪いかよ!!!!苦手なもんな苦手なんだよっっ!!!」



俺は顔を背けるように上を向きながら声を張り上げると、ドレスは困ったような顔で俺を見下ろす位置に移動した。



『――――落ちたりしないよ?。最初に説明したけど、あの闇は僕が創った風の膜。ここから落ちても、あの闇より下には絶対に落ちないようになってるんだ・・・でも』



そこまで言うと、ドレスはにっこりと微笑んだ。



『――――あまり持続しないし疲れるから、効果が切れたらそのまま落ちるね☆』



ドレスは俺にそういうと、再び羽をバサリと羽ばたかせ、その場でくるりと前周りをして見せた。

そして、口で『ヒューッ』という音を鳴らしながら俺の横を通り過ぎ、視界から消えた瞬間『ベチャッ』

と音を出した。

一連の動きを追えたドレスは、再び俺の目の前までくると良い笑顔でニカッと笑った。


い、急げってことか・・・

落ちて死にたくなかったら、早く終わらせろって言いたいんだなッッ!!!!


俺は、震える足をしかりつけながら必死に窓ふきに専念した。



『――――そうそう、その調子その調子。集中してたら高さなんて気になんないよ』



ドレスは色々口出ししながら俺にそういっていたが、今は振り返ってドレスを見る余裕はない。

今はただ、窓を拭くということに集中して、早く地上へ戻る!!!!!


俺は今まで生きてきた中で一番集中してるんじゃないかというくらい集中し、窓を拭き続けた。














==============














『はいはい、お疲れさん。どうだった?外の様子は』


「見る余裕があったと思うかこの変態野郎ッッ!!!!」



軽い調子で話しかけてきたバイルに俺は暴言を吐いた。

すると、隣でドレスが肩をすくめて見せた。



『――――ハッちゃんのせいで普段の倍以上時間がかかったよ。それどころか、力使ってたから余計に疲れたよ』


「悪かったな役立たずでッッ!!!」



俺はわめきながらドレスを見た。

すると、少し身体を引きながら両手を胸の前でかざした。



『――――ま、まあ・・・次やるときにもっと早くやってくれたらいいんだけどね』



苦笑いを浮かべながらドレスはそう言うが、俺はもう二度とやるつもりはない。


絶対に!!!

命に代えてでも!!!!


俺はドレスを睨み付けながらそんなことを考えていると、ドレスは苦笑いをした。



『――――ハッちゃん、目がコワイよ?・・・危機迫る表情してるよ?』


『――――はっはっはっはっ!!!!、これは相当きてるなハッちゃんよ』


『これはもう、窓ふきは頼めそうもないな』



三人が一様な反応をすると、最後に口を開いたバイルは言い終わると手元に視線を落とした。

そして、真っ白な骨の手をカタカタと鳴らしながらペンを走らせた。



『・・・“高所恐怖症につき、三階以上の仕事は不可”っと』


「ナメんな!!!、二階でもう目眩がするぞ!!!」



俺がそういうと、バイルがピタリとペンを止めると、俺の顔を見てきた。

しばらく俺の顔を見ていると、再びペンを走らせた。



『・・・“極度の高所恐怖症、一階以外の仕事は不可”』


『――――お、おい。それはさすがに言いすぎではないか?』


『――――いやいやサカ。本当にそれくらいだから、さっきの様子見たら納得しちゃうよこれ。』



バイルの手元をのぞき込むように、サカとドレスが顔を寄せた。

それを鬱陶しそうにバイルは手で払うと、ペン立てにペンをさし、ほおづえを付いた。



『これは・・・仕事もかなり限られてくるな』


『――――俺は、元から期待はしてなかったがな』



サカはそういって、俺を一瞥して鼻を鳴らした。

俺はその態度にムッとして何か言い返そうと口を開こうとした

しかし、ドレスの言葉に俺は言葉を詰まらせた。



『――――もう、夜のお仕事してもらうしかないんじゃない?』


「ッッ!!!!!」



すると、三人がほぼ同時に俺の方を見ると、三人は俺の身体を上から下へなめるように見てきた。


うっわ~・・・

気持ち悪ぃ


俺は顔をしかめながら三人の顔を順番にいた。



『『『――――いや、ないな~』』』



声を綺麗にそろえて、三人はかぶりを振った。


・・・なんだろう

それはそれで腹立つ!!!!



「わ、悪かったなッッ!!!色気がなくてッッ!!!!」


『『『――――いやいや、別にそう言う意味じゃ・・・』』』


「声を揃えるな腹立つッッ!!!!」



俺は地団駄を踏みながら三人を睨み付けると、バイルが代表して頭を下げてきた。



『そ、そんなに怒らないで欲しい。良かったじゃないか、俺たちのお眼鏡に合わなくて・・・なっ?』



そういって、バイルはサカとドレスに同意を求めた。

すると、ドレスはコクンッとうなずいたがサカはあごに手を当てて俺のからだを再び見つめてきた。



『――――いや、我は気に入らんが、我が器の方は全力で欲しているな・・・交代するか?』


「断る、二度と出て来るな」



俺はサカの言葉を聞いてハッキリ首を横に振り、それを否定した。

すると、サカは突然目をカッと見開いたかと思うと体を大きくのけぞらせ、唸り声を出し始めた。

しばらくすると、うなり声はやみ、のけぞらせた体を元の体制に戻した。



『ハッちゃんそりゃないでしょ!!!、俺はハッちゃんみたいな子大好きなんだよッッ!!!!』



砕けた口調で話し始めたサカは、俺に向かって必死にそう訴えていた。


ああ・・・本人のご登場だ


俺はサカを見ながら嫌そうな表情をして、続けた。



「俺はお前のこと大ッ嫌いだけどな」


『ヒドッ!?、そりゃないよハッちゃん!!!!』



するとサカは、縋り付くように俺の方へ近づいてきたので、俺は数歩距離を取り、体をサカから離した。

それを見たサカは、口をあんぐりと開けてカクンッと方を落とした。

それを見ているほかの二人は、自分の口に両手を当てて必死に笑いを堪えていた。

そんな三人を見て、俺はため息混じりにバイルに進言した。



「っで?、利用価値のない俺はこれからどんな仕事をすればいい?」



俺の言葉を聞いたバイルは、未だ笑いが収まらない様子で返事をした。



『そ、そうだな・・・フッ、一階層なら掃除が、で、出来そうだから・・・プフッ、今から行ってくれ・・・フフッ』


『――――そ、それなら・・・ププッ、俺がまた手伝って・・・ハッ、もうダメ・・・アッハッハッハッハッハハッハッハッハッハハハハッッ!!!!!』



話している途中で、とうとうドレスはサカを指さしながらゲラゲラと笑い始めてしまった。

それにつられるように、バイルも大きな笑い声を上げ始めた。

すると、やっと我に返ったサカが、自分に指をさして笑う二人を見て首を傾げた。



『――――む?・・・我はなぜ二人に笑われているのだ?』



サカは、しばらく視線をさまよわせ最終的に答えを求めるように俺を見てきた。



「・・・哀れだな」


『――――う、うむ???』



訳も分からずうなずいたサカは、とりあえず状況を理解しようと再びキョロキョロと視線を漂わせたのだった。















==============














『――――あ~、疲れた・・・』



モップにもたれかかりながらドレスがそういって大きく息を吐き出した。

吐き出した息が、何もない部屋の中で少しだけ反響する



「なんだよ。まだ30分も経ってないぞ?」


『――――俺、歩くの苦手なんだよ~』



ドレスは、顔だけをこちらに向けて、やる気なさげにそういうと、その場にしゃがみ込んでしまった。



「座るなよ。ほら、まだまだあるんだから、シャキッとしろ」



俺はしゃがみ込んでいるドレスの襟首を掴むと、無理矢理立たせようとしたがドレスは俺に捕まれたままの格好で宙に浮き上がった。



『――――動きたくな~~~い』

「・・・」



俺はそのままドレスを引っ張って見た。

すると、ドレスはそのまま空中をスライドするように動き、重さを全く感じない。



「・・・えい」


『――――わ~~~』



俺は、試しにドレスをぽんと押してみた。

間の抜けた声を上げて、ドレスはスーッと滑っていった。


・・・これは、おもしろい


俺はにやりと口元をゆがめ、滑っていくドレスを眺めているとドレスは自分が止まったのを確認してから、ストンと地面に着地した。



「あっ・・・」


『――――何“あっ”って・・・ほらほら、さっさと行こう』



そういってドレスは近くにおいてあったバケツを取ると、俺の横を通り過ぎて部屋の外へ出て行ってしまった。



「・・・ちぇ」



自分の持っているモップの頭を蹴り、その勢いのまま肩にモップの柄を乗せた。

そして、ドレスの後を追うように部屋を後にした。














==============














『――――はい、終~了~っと』



そういってドレスは、両手を放って後ろに倒れ込んだ。

危ないと一瞬思ったが、倒れる前にドレスの体がフヨフヨと浮き上がったので俺もその場にドカリと座り込んだ。



「ふぃ~、思ったより部屋あるんだな」



俺は右手に持っていたモップを脇に置き、肩を大きく回しながらそういった。

すると、空中を漂っているドレスはクルリと半回転して俺の方を向いた。



『――――そりゃ、“囚人棟”って言うくらいだから多いよ・・・まあ、一階の一部しか掃除してないから全体の10分の1くらいの部屋数しか見てないけどね』


「ああ、そっか・・・確かここ、三階まであるんだっけか?」



俺は天井の角へ視線を向けながら、首を傾げて見せた。

すると、ドレスはニヤリと笑った。



『――――おしい・・・この建物は、全部で五階だよ』


「はあ?、そんなにあったか?」



ドレスは、俺の方を見て嬉しそうに羽をばたつかせると、俺の前まで飛んできてストンと地面に降り立った。



『――――あるよ。各階で部屋数も役割も全然違うし、例えば、今いる一階から三階までは、ハッちゃんみたいな囚人を閉じこめる部屋がある階。部屋数は全部で1,206部屋で、一階だけでも802部屋あるよ』


「は、802ぃ?!」



俺はあまりの数字のでかさに、思わず声を荒げてしまった。


おいおい、待てよ

俺たち今、100部屋も掃除してないぞ?

・・・ってことは、まだ700以上残ってるのか?!


俺は自分の指を折り曲げて計算していると、ドレスはさらに追い打ちをしてきた。



『――――ちなみに、さっき俺たちが掃除したのは73部屋・・・まだまだ頑張らないとね、ハッちゃん☆』



ドレスは、そういってニッコリ俺に笑いかけて来た。


・・・良い笑顔だな

すっっっっっっっげえ殴り飛ばしてぇ!!!


すんでのところで自分の握り拳を捕まえた俺は、怒りで震える手を必死に仕舞い込んだ。

するとドレスは、ぎこちない笑顔を浮かべながら再び宙に浮かび上がった。



『――――ひ、暇になったら俺やサカも手伝うよ。は、はははっ』


「・・・そりょどうも」



俺はドレスを睨みながら息を吐き、近くにあった水桶の取っ手に手を伸ばした。

水桶の水は、これまで掃除した部屋の汚れで濃い灰色に濁っていて、髪の毛や誇りの固まりなど様々なものが浮かび上がっていた。



「・・・これ、水変えないとダメじゃないか?」


『――――ん?・・・ああ、そうだね。それじゃ、今日はもう終わりにしよ』



ドレスはそういうと、嬉しそうに両手をパチンッと打ち鳴らし、俺からモップと水桶を奪うように持った。

すると、モップを二本とも地面に置き、水桶を自分の顔の高さまで上げた。

何をするのかと思って見守っていると、ドレスは水桶を自分の方へ傾け始めた。

そして・・・





ゴクッ・・・ゴクッ・・・ゴクッ・・・





水桶の汚水を豪快に飲み始めた。

汚水は、どんどんドレスに飲み込まれ、あっという間に桶の中身は空っぽになった。



『――――プハァ~ッ!!しみるねぇ~』



まるで、風呂上がりの一杯のような勢いで口元をぬぐったドレスは、何事もなかったかのようにモップと桶を持って俺の横を通り過ぎ、部屋を出て行った。

俺は、そんなドレスをただ唖然としながら目で追うことしかできなかった。














==============














『・・・それで、部屋掃除はどうした?』



『「やめましたッ!!」』



俺とドレスは声をそろえて返事をすると、バイルは悩ましげにハァッとため息をはいた。



『・・・お前達が掃除できる範囲だけでも、802と1部屋あるんだぞ?。たったの73部屋でやめるなよ』


「・・・ん?」



俺はバイルの言った言葉に違和感を感じた。


なんで、802と1部屋っていうんだ?

803部屋でいいんじゃ・・・


俺はバイルの顔を見ながら、首をかしげた。

すると、何を勘違いしたのかバイルは、ニヤリと口をゆがめた。



『掃除した部屋数を知っているのは、ドレスに前もって連絡をもらっていたからだ。おかしな事はしていない』


「あ?・・・お、おう」



俺は慌てて首を縦に振った。


(そ、そういえばまだ掃除した部屋の数は言ってなかったもんな。)


バイルに言われて、俺は初めてそれに気がついた。

しかし、それのせいでもう一つ矛盾が生まれた。



「なあ、いつ連絡もらったんだ?」



ドレスは、掃除を始めてからここに戻ってくるまでずっと一緒だった。

無線のようなものを持ってるわけでもないし・・・

妙な様子もなかった・・・


一体どうやって?


すると、バイルではなく隣にいるドレスが答えてくれた。



『――――おれたちは、脳から出る微量な電気を一瞬で目的の場所まで飛ばすことが出来るんだ。これは脳を持ってる生き物なら本来誰でも出来ることなんだけど、俺たちは少々特殊でそれを身体の外へ出したり、逆に吸収したり出来るんだ。それを応用して、自分の脳の中の情報を少しずつ分割して、電気に変換し飛ばす。それを繰り返すことで断片的で時間もかかるだど、情報を共有できるんだ。さらにこれのいいところは、場所や距離に縛られず、本人が拒否しなければ必ず届くと言う所なんだ。その特性を生かしてやれば――――』



ドレスは、長々と訳の分からない事を次から次へとしゃべり、俺は途中から頭がパンクしそうだ。



『ドルマク、ハッちゃんがそろそろ限界だ・・・意地悪しないで簡単にまとめてやれ』



するとドレスは、俺の方を向き、頭を抱えていた俺を見て、少し申し訳なさそうな表情をした。



『――――ご、ごめんごめん。ついテンションがあがっちゃって・・・つまり、俺たちは“テレパシー”が使えるんだ』


「てれぱしぃー?」


『言葉で表さなくても、自分の考えを相手に伝える事だ』


「ふ~ん」



いまいちピンッとこないが、用はそのテレパシーとか言うのでドレスが報告してたって事だ。

それだけ分かればいい


俺は自分の中でそう決着をつけた。

すると、バイルは少し残念そうな顔で俺を見ると手に持っていたペンを机においた。



『まあ何にせよ、73部屋は少なすぎるし中途半端だ。・・・俺も手伝ってやるから、今日中に終わらせるぞ』



そう言ってバイルは、机に両手をついて立ち上がった。



『――――バイル・・・執務サボりたいだけでしょ』


『ギクッ・・・』



ドレスの言葉に、バイルは分かりやすいくらいハッキリ焦りの色を見せると、俺たちに背を向けて一つ咳払いをした。



『そ、そんなわけないだろう。ただ、このペースでやっていては今日中に終わらないだろうという・・・そう優しさッッ!!、優しさだッ!!・・・さ、さあ!!もたもたしてる暇はない、行くぞッ!』



バイルは取り繕うようにそういうと、足早に出口へ歩き始めた。

俺とドレスは、バイルの去っていく後ろ姿を見送り、お互いに顔を見合わせた。

ドレスは、最初は困った表情をしていたが、すぐに諦めたように肩をすくめると、足下に置いてある桶とモップを手に持った。



『――――じゃあ、行こうか?』


「・・・」



モップを差し出されながらそういわれ、俺は渋々それを受け取ると、バイルの後を追うように部屋を出て行った。














==============














「・・・なあ」


『――――ん~?どうしたのハッちゃん』



やる気のない声が隣にいるドレスから返ってくる。

ドレスは今、空中で両手を頭の下で組み、右足を左足に掛けてふよふよと雲のように漂っている。

それを見上げるような形で、俺はドレスに声を掛けた。



「・・・あれ、俺の見間違いや聞き違いじゃないんだよな?」



そういって、俺は目の前を指さした。

当然、俺が指さしているのは・・・



『♪ふ~ん、ふふ~ん、ふ~ん♪』ビュンッ

『♪ふ~ん、ふ~ん、ふふふ~ん♪』サッ、ビュンッ

『♪ふふふふ~ん、ふ~ん♪』シュババババッ、シュンッ



鼻歌交じりにとんでもない速度で部屋を駆けめぐるバイルだ

バイルは、俺たちが追いつく頃には既に3部屋がぴかぴかになっていた。

いったいどんな魔法使いやがったんだと思って様子を見てみたら、これだ。

楽しそうに鼻歌を歌いながら、マッハで部屋を駆けめぐっているのだ。


掃き掃除、拭き掃除、天井の埃払い、備品の点検

そのすべてを、ほぼ同時に、しかもあり得ない速度でやっているのだ。


あまりに早すぎてバイルが5人に見える・・・

しかも、鼻歌って・・・


いつもと違いすぎるバイルを見て、俺の顔は自然と引きつった笑みを浮かべていた。

すると、隣でドレスが大きなあくびをしながら目をこすり始めた。



『――――昔から掃除好きだったから、掃除の規模と本人のポテンシャル次第で最大10人くらいになるよ』


「ま、まだ増えるのか?!」


『――――むしろ、今日は少し調子が悪いみたいだね、人数少ないし・・・ほら、あそこの雑巾で床磨いてるバイル見て』



そういって、へなへなとやる気なさげに腕を上げると、床の方を指さした。

俺はそちらに目を向けてみると、雑巾で床の一点を恐ろしい速度でこすりまくっているバイルがいた。



「て、手が・・・ブレてる」


『――――あれ、相当キてるね・・・ストレス溜まり過ぎてたんだねぇ~』



ドレスはクスクスと笑いながらそういうと、クルリと一回転して地面に降りてきた。

そして、軽い足取りで床を磨いているバイルに近づいていった。



『――――バイル~。もうそろそろこの部屋終わっても良いんじゃない?』



すると、床を一心不乱に磨いていたバイルが突然手を止め、顔をゆっくりと持ち上げた。

そして、ドレスの顔を見たとたん他のバイル達も一斉にドレスを見た。



『『『『『『まだ汚れてるぞ?』』』』』』



部屋にいる全員が言葉をかぶせてそういった。

俺は、少し気圧されて一歩後ずさってしまった。



『――――・・・でも、まだ部屋残ってるでしょ?』



首を傾げながらドレスはそういうと、バイル達はお互いの顔を見合わせた。

しばらくざわざわしていたが、やがてリーダーっぽいバイルが一歩前に出て来た。



『わかった。次に行こう』



バイルがそういった瞬間、部屋のあちこちにいたバイルが一瞬で消えた。

残ったのは、先ほど前に出てきたバイルだけでポリポリと人差し指で鼻の頭をかいていた。



『――――お疲れ。随分張り切ってるね』


『あ、ああ・・・すまん。楽しくてつい・・・な』



そういうと、バイルは手に持っていた雑巾を桶の橋に掛けると、少し遠くにあるモップを拾った。

それを、一本はドレスに、もう一本は俺に手渡し、部屋を出て行った。

俺とドレスは、その後を追うように部屋を出て、次の部屋へ移動した。

この後、バイルの一連の行動が掃除を終えるまで無限ループに陥ったのは言うまでもない。





こうして、特殊懲役一日目を終えたのであった。





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