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囚人棟の(裏)動物使い  作者: 蛇炉
6/10

第六話 点呼と整理

特殊懲役二日目


AM5:30 ハッちゃんの部屋 



『――――朝だ!!、起きろ!!!』



いつものように、乱暴に部屋の扉をガンガン叩きながら怒鳴り声を上げている。

もちろん、怒鳴っているのはサカだ。



「・・・・・・っん?」



のっそりと布団から顔を出し、薄めで辺りを見渡してみた。

変わらぬ所々ひび割れた天井

サカが扉を叩くたびに、パラパラとホコリが落ちてくる。

それが、扉の小窓から差す光に照らされ、ユラユラと地面に落ちていく。

俺はのそのそと布団から出ると、大きなあくびをして、軽く体をほぐす。

毎度の事ながら、一日床で寝ると体がガチガチになってしまっている。

すると、先ほどまで差し込んでいた光が突然何かに遮られ、部屋の中が暗くなった。



『――――何をもたもたしている!!!、早く出てこいっ!!!!』


「わかってるって・・・うるせぇな」



ぼやきつつ、手で軽く髪の毛を整え、扉の前に移動した。

そして、おきまりの台詞を言う。



「囚人番号8番、ただいま起床いたしました~」


『――――語尾を伸ばすなッ!!、出ろ!!』



ガンガンと響く怒鳴り声とともに、いやな音を立てて重苦しい扉が開かれた。

瞬間、部屋の中にまぶしい暗い光が差し込んできた。


(まぶしっ?!)


俺は両手を顔の前へかざし、目を細めた。



「・・・なんで、明かりが全部ついてんだ?」



細めた目で辺りを見渡してみた。

ぼんやりだが、即席の明かりにロウソクをおいたり、壁に取り付けられている裸電球(普段は点いていない)まで光を放っていた。

目が慣れてきたので、顔の前にかざしていた手をどけてみた


俺の目に飛び込んできたのは、人の列

俺と同じぼろ布を身にまとった、囚人の群れ

どいつもこいつも、生気の無い顔でノソノソと歩いている。



「な、なんだこれ・・・」


『――――もうすぐ始まる。お前は最前列へ行け・・・向こうでドルマクの指示に従えばいい、以上だ。』



サカにそう言われ、俺は疑問に思いつつもノソノソと歩いている囚人どもの間を縫って、どんどん前へ進んでいった。

どこまでも続く人間の壁をどんどんかき分けて進んでいく。

しばらくして、ようやく人の波が途切れているのが見えた。



「っしょと、ふぃ~、やっとついた」


『はいは~い!!みんな囚人番号が若い人から並んでね~・・・あ、左からだよ左から』



人の波を抜けると、少々間延びしているドレスの指示を聞き、俺は列の左を目指した。

そして、ようやく列の端が見える位置まで来た

ここから、七番目のやつの隣に居ればいいわけだ。

俺は、指で左から「一・二・三・・・」と指さし確認しながら数を数えていき、七番目のやつの隣に自分の体をねじ込んだ。



お、おい・・・お前は何か聞いてるか?


「ん?・・・いや、何も」



突然隣のやつにそう言われ、俺は素直に首を横に振った。


長い間ここに居るが、何をするのかサッパリだ。

それも・・・一度にこんな人数を集めてなんて・・・


そんなことを考えながら、俺は後ろを振り返ってみた。

ここから見える範囲でも、人の頭がず~と後ろまで続いている。

軽く見積もっても、500人は軽く超えているだろう・・・


すると、サカがカツカツと足音を響かせながら、人の間を縫って後ろから歩いてきた。

最前列を抜け、10歩ほど進んだところでぴたりと止まり、こちらを振り返った。



『――――集め終わったぞ、始めてくれ』



サカの呼びかけに応じるように、突然明るい室内が一瞬だけ暗くなった。

すると、サカの隣には、いつの間にかドレスが立っていた。



『――――はいはいみんな~、元気に囚人生活楽しんでる?。僕は君たちの顔を見たら一気に元気がなくなったよ☆』



うざったい挨拶に、俺はイラッとしたが、後ろの方でザワザワと騒ぎ始めた。


な、なんだ?

何で後ろの奴ら、ざわざわしてるんだ?


ドレスはそんな空気を感じ取ったのか、わざとらしく首を傾げた。



『――――そうだよね、おかしいよね?。こんなに距離が離れてるのに、なんで君たちに俺の声が遅れて聞こえないのか・・・これには深い深~い理由があるんだけど、それ始めると説明だけで二日かかっちゃうんだけど・・・いいよね?聞いてくれる?、聞いてくれるよね。実はこれには俺の能力と関係していて・・・』


『――――ドルマク、ふざけてないでさっさとやれ』


『――――なんだよ、相変わらずノリが悪いな~』



ブーブーと文句を言い出したドレスを、サカはギロリとにらみつけた。

すると、ドレスはわざとらしく両手を胸の前でかざし、顔を明後日の方向へ逸らした。



『――――お~怖い怖い・・・わかったよ。それじゃあ皆さんお待たせしました!!、お呼びしよう・・・僕らのリーダー “バイル・マリカス”で~す』



そういうと、ドレスは突然背中から大きな羽を出現させると、その羽を大きくうねらせ、その場でクルリと回って見せた。

すると、どこから現れたのかドレスの羽のカゲからバイルが姿を現した。

バイルは、両手を隠すように袖に突っ込み、フードを目深く被っている。

突然現れたバイルに驚いたのか、後ろの方が少しザワザワとしている。



『おはよう、諸君・・・私が “バイル・マリカス”だ。』



ドレスと同じようによく通る声で、バイルは自己紹介をすると、再び後ろの方がザワザワとし始めた。



『静かにしてくれ・・・これから“点呼”を始める。な~に難しいことは無い、ただ、私に自分の囚人番号を呼ばれたら、速やかに返事を返してもらうだけで良い。』



すると、かなり後ろの方から、ガヤガヤと先ほどよりもうるさい声が聞こえてきた。




  ふざけんな!!!、そんなことのためにわざわざ俺をここに連れてきたのか!!!




その中の一人の男が、ここまで聞こえてくる程大きな声でそう叫んだ。

すると、その男に賛同して、周りの奴らが徐々に騒がしくなっていった。



『ずいぶん元気なようだ・・・その声量であれば問題も無いだろう・・・では、点呼を始める。囚人番号982番』



喧噪の中、バイルは動じること無く、囚人番号を口にした。

しかし、周りの奴らの声のせいで、返事をしたのかすら分からない。



『――――お~い、囚人番号982番く~ん?・・・返事は~?』



すると、バイルの横に控えていたドレスが一歩前に出てきて、努めて明るい声で982番を呼んだ

返事は・・・聞こえない

それも仕方の無いことだ。

こうも不満や怒号が飛び交っていては、個人の声など聞き取れるわけも無い。

すると、今度はサカが一歩前に出てきて声を張り上げた。



『――――最終警告だ!!!!、囚人番号982番!!!!返事をしろッ!!!!』



サカの怒鳴り声にも近い声によって、一瞬で人々の視線がサカに集まり、シーンと静まりかえった。

それから、しばらくして後ろで小さな声が何かを言っているのが聞こえた。

先ほどと違い、なんと言っているかは分からなかったが、とにかく何かを言っているのはわかった。



『――――・・・返事が無いようだ、バイル』



サカはギラギラとした目で振り返ると、バイルはわかりやすくため息をはいた。

そして、何度か首を縦に振り、ふたたびしゃべり出した。



『しかたない・・・これより、囚人番号982番は“脱獄囚”とみなす。“脱獄囚”には制裁を・・・サイガス、いけ』



バイルが言い終わるや否や、サカは両手を地面につき、その場に伏せるような姿勢になった。

そして、大きく息を吸い込んだバイルは、そのまま両手を伸ばして体を反らせ、遠吠えをした。

その声は、空気をビリビリとふるわせるほどの大音量で、全員の意識がその一瞬でサカへと集った。

それから数秒、遠吠えを続けていたバイルがその口を大きくゆがめた。

それによりサカの遠吠えが止み、ウォンウォンと僅かに反響し続ける音の中、サカの姿はその場から消えた。

サカの姿が消えてから、さらに数秒











                    ぎぃやゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・!!!!












遥か後方で、誰かの叫び声が遠吠えの残響に混じって聞こえてきた。

そして、声が聞こえなくなった途端、遥か後方からサカの声が聞こえてきた。



『――――脱獄者への制裁完了っ!!!!、点呼を続けてくれっ!!!!』



ここまでハッキリと聞こえてきたサカの声に、バイルは大きく頷いた。



『さて、囚人諸君。返事は私に聞こえる声でしてくれよ?いいか?・・・では続けよう、981番』









                      は、はいいいぃぃぃ・・・・・!!!!!!





『おっと、ギリギリだな。まあいい次だ・・・980番』








                         は、はいいいいぃぃぃい!!!!







『ずいぶん高い声だな?、もう少し落ち着け。次だ・・・979番』






・・・





『――――979番く~ん!!!起きてるか~い?』


                う、うすっ!!!!!!!






『――――な~んだ、ただのタイムラグか~』


『ふむ、もう少し早く返事をした方が良いぞ?、次だ・・・』



こんな感じで、バイルはどんどん番号を呼んでいった。

バイルは、囚人番号の大きい者から順に呼んでおり、後方に居る奴らからどんどん声が上がる。

たまに間に合わず、ドレスが声を張り上げた直後に返事を返す者もいたが、それは距離のせいだ。

その後も、バイルの呼びかけに遅れる物はいなかった。

そして、呼ばれる番号はどんどん小さくなっていき、ついに俺のいる最前列まで番号が回ってきた。



『ふ~む、もう最前列か・・・なあ、20番?』



・・・あっ!!、はいぃっ!!!!



『ははは、すまないすまない。ちょっとした出来心だ・・・もう一度ちゃんと呼ぼう。20番』



はいっ!!



『うむ、良い返事だ。次だ・・・16番』



うぇっ、へぇいッ?!



『はっはっはっは!!!、おもしろい返事だっ!!!』



カラカラとドレスと一緒になって笑うバイル

笑い終わると、その後もバイルは、妙な順番、妙なタイミングで番号を読んでいく


・・・あの野郎、ふざけやがって

何で俺たちの列だけ


俺はバイルをにらみつけながらそんなことを考えていると、不意にバイルと目が合った。

俺はすぐに視線をバイルからそらした。



『どうしたんだ?何か言いたそうだな・・・囚人番号8番』


「はい」



高圧的な態度だが、俺は自分の番号を呼ばれたので、静かに返事を返した。

すると、バイルはにやけていた顔を真顔に戻し、少しの間を置いてから首を傾げた。



『随分冷静だな・・・もう少しリアクションをとっても良いのではないか?・・・なあ、8番』


「はい」



また呼ばれたので、さっきと同じ調子で返事をした。


俺は引っかからない。

確かに俺の番号を呼んでいるんだ、ここで返事をしなかったらおそらく制裁される。


すると、バイルはため息をはき、隣にいるドレスをちらりと見た。

ドレスは、それに笑顔で答えると、片手をあげて大きくて手を振った。



『――――はいは~い!!それじゃあ、最前列にいるみんな?これからちょっとしたゲームをしたいと思いまーす!!!』


「・・・は?」



俺は思わず声を上げてしまったが、ほかの最前列にいる連中も似たようにざわざわしたりしてるから特に問題は無かった。



『――――最前列のみんな、よ~く聞いてね?僕が提案するゲームは単純明快!!、これから僕が三桁の数字を言うから、その数字が入っている番号の人以外は一歩前に出てきてね?・・・あ、返事はしなくて良いからとにかく一歩前だよ?いい?』



ドレスの説明に、周りの奴らはさらにザワザワとし始めた。

そりゃそうだ、今まで通りならただ返事をして待っていれば無事に終わったのに、いきなりゲーム・・・しかも意味不明な

いったい何を企んでるんだ?



『――――もちろん、ペナルティはあるから・・・ペナルティの内容は、ペナルティになる人が決まってからのお楽しみだよ☆。じゃあ、始めるよ~』



ドレスが両手を大きく広げると、背中から生えている大きな翼も同じように広げられ、ドレスの体二回りほど大きく見えた。



『――――制限時間は10秒、前に出なかったらペナルティ!!数字は・・・“318”』



声高々と数字を言ったドレス

俺は、迷わず一歩前に出る


すると、ほかに二人の囚人が俺と同じように一歩前に出てきた。

ほかのやつは、ぴくりとも動こうとしない


・・・あれ?おかしいな

一人なり無くないか?


俺は右奥の方へ視線を向けてみた。

その瞬間



『――――は~い、タイムアープッ!!!!前に出ていないのは・・・1番、3番、8番、そして“18番”のはずだね?・・・あらら~?、18番くんは何で前にいるのかな?』



にっこり笑いながら、18番の前に移動したドレス

すると、18番はガタガタ震えながら口を開いた。



          い、今。前に出ないとペナルティって・・・あんたが



18番がドレスを指さしながらそう言うと、ドレスは少し困った表情を浮かべ、静かに羽を広げた。



『――――え~、それは君たち以外の人に言ったつもりだったんだけどぉ?・・・まあいいや、とにかく勘違いでも間違いは間違いだよ ☆ペナルティ決定☆』



ぱあっと笑顔を浮かべてそういったドレスは、18番に一歩近づいた。

腰から砕けた18番は、みっともなく尻餅をついた。



               で、デタラメだ・・・横暴だ!!!



恐怖を色濃く含んだ叫び声を上げ、18番は後ずさった。

だが、ドレスはそれを許してくれなかった。



『――――はいはい無駄だよ?、僕からの制裁は“雨”だよっ!!!』



広げていた羽が一度バサリとはためいたと思うと、羽が18番とドレスを包み込み黒い塊になった。

ボコボコと形をゆがませながら、黒い塊は空中へ飛び上がった。

その後を追って顔を上げてみると、光に照らされているはずの真上が黒い影のような物に覆われていた。




や、やめっ・・・死にたくなr  ザクッ      ゴパァアアンッ!!!!!!!




18番の声のすぐ後、何かを切り裂く音と、破裂する音がした。

音がして数秒、上に広がっている影から、赤くてどろどろした水が俺たち最前列の囚人とバイルへ降り注いだ。


鉄くさくて、暖かい真っ赤な雨

ビチャビチャといやな音を立てて降り続く赤い雨



『――――あっはっはっは☆、ほらほらぁ、恵の雨ってやつだよみんなぁ。あっはっはっはっは!!!!!』



ドレスの狂ったような笑い声が、影の中から響いてくる。


・・・そうだ

こいつらは、そういう奴らなんだ・・・


赤い雨が降る中、俺はドレスが潜んでいるはずの影を見上げた。

響居てくる声は、あらゆる方向から聞こえてきているようで、気がおかしくなりそうだ。



『・・・ドレス!!いい加減下りてこい!!』


『――――はいは~い☆』



楽しそうにドレスは返事をすると、上から羽ばたく音が聞こえた。

その瞬間、上空の暗い闇の中からドレスが姿を現した。

ドレスは、一直線にバイルの元へ飛んでいき、先ほどたっていた位置でホバリングすると、ゆっくり地面に降り立った。


(・・・うわぁ)


そして、ドレスの姿を見て俺は顔をしかめた。


ドレスは、先ほどの雨に濡れたせい(そう思いたい)で、顔や服にベットリと赤いシミができていて、僅かではあるが鉄くさい臭いがした。



『――――じゃあ、次行くよ~!! 制限時間は7秒 ペナルティは“雨”!!数字は・・・“019”』



それを気にすること無く、楽しげな声でドレスは、どんどんゲームを進めていった。

18番の事もあり、間違えるやつは問答無用で殺されると理解した俺たちは、必死にドレスのいう数字に耳を傾けた。

ドレスの言う余計な条件やペナルティ名を聞かされるので、それに動揺して間違えるやつが続出した。

既に、最前列の人数は半分ほどに減ってしまっていた。



『――――バイル、そろそろ止めにしない?これ以上ヤッたらペナルティじゃなくなるよ?』



頬に付いた赤いシミを拭いながら、ドレスは首を傾げて見せた。

すると、バイルは静かに首を縦に振った。



『そうだな。・・・居なくなった者の、データを更新しなければな』



バイルの言葉に、ドレスは何度もうなずき俺たちの方を向いた。

そして、口の横に手をかざし、でかい声でサカの名前を連呼した。

すると、カツカツと少々早歩きでサカが戻ってきた。

サカは、少々不機嫌そうだったが、ドレスが何かを耳打ちすると、サカは少しだけ嬉しそうな顔をした。



『――――そうか・・・了解した』



サカがドレスにそういうと、ドレスとサカはバイルの方へ視線を向けた。



『では・・・これにて“点呼”を終了とする。諸君は速やかに部屋に戻ってくれ。私は、通常業務に戻る・・・後は頼んだぞ?サイガス、ドルマク』


『――――まかせろ』

『――――はいは~い』



二人の返事をきき、バイルはゆっくりと俺たちに背を向けて帰ってしまった。

すると、サカが声を張り上げた。



『――――今から、我とドルマクが監視につくッ!!  全員、速やかに自室へ戻れッ!!』



サカの号令に、何人かがぞろぞろと動き始めた。

すると、今度はドレスが口を開いた。



『――――あっ、渋滞しちゃうから、後ろの列から順番にね~・・・守れなかったら“制裁”だよ』



制裁という言葉を聞いた途端、俺たちは一斉に口を閉ざし、一時的に動きを完全に止めた。


(制裁・・・)


俺は目前に広がる人の頭を見ながら、ぽつりと頭の中でつぶやいた。


さっき、二人の人間の命が失われた。

いや、奪われたの方が正しい・・・

勝手なルールで、奴らの憂さ晴らしで


ただただ、てきとうな理由をつけ、殺された

まるで、虫や何かをつぶすように・・・


ここでの俺たちは、それと同価値

もしくはそれ以下なのだ。


(命ってのは・・・そんなに軽い物じゃ無いんだがな)



『――――・・・聞いてるかい?』


「ん?」



突然肩を叩かれて、顔を上げてみるとドレスが俺に笑いかけていた。



『――――聞いてなかったのね・・・ハッちゃんは、この後仕事があるから、このまま俺たちに付いてきてって言ってたんだけど・・・』


「ん、そうなのか?。仕事って、俺は一体何をするんだ?」


『――――う~ん、もう少し掛かりそうだから、ちょっと待ってて、後でちゃんと説明するから。』


「わかった」



俺は返事を返すと、後ろをどんどん流れていく奴らを見送った。

どいつもこいつも、ため息をはいたり隣とやつと話したりはしない。

姿勢を正し、身じろぎ一つせずに自分たちが動き出せるときまでジッとしていた。


(こうしてみると・・・結構すごいな)


俺は、自分のあごを撫でながらそんなことを思った。

ここから見える範囲だけでも、ゾロゾロとうごめく人の頭は、若干の嫌悪感を感じた。



『――――もたもたするな!!、キビキビ動けッ!!』


『――――でも、前の人を抜かしたらダメだよ~』



厳しく叱咤するサカ、軽い口調のドレス

対照的な態度で指示を飛ばす二人

時たま、どちらか片方が何かを耳打ちし、あっという間に姿を消し、また姿を表すという奇妙な現象があったが、気のせいだと思って気にしなかった。


しばらくして、とうとう最前列の奴らが動き出し、ゆっくりとした足取りで自分の部屋へ帰っていった。



『――――さて、今ので最後かな?』


『――――ああ、最後の囚人が部屋に入った・・・問題ないだろう』


「ふわぁ~・・・終わったか?」



大きなあくびをしながら、ゆっくり立ち上がった俺の所に二人が近づいてきた。

ドレスは、俺から見て右手側を顎でしゃくった


そして、ドレスはそのまま顎でしゃくった方向へ歩き始めた。

サカは、俺の所へ来ると、また腕をがっちり掴んできた。

そして、サカに腕を引かれながら、ドレスの後を追うことになった。

自分で歩けると主張してみたが、サカは聞く耳を持たず、結局目的地に着くまでサカは腕を放すことは無かった。



『――――ホント・・・素直じゃ無いな~、サカは』



先を歩いていたドレスが、首だけをこちらに向けてそういうと、サカは少しだけ声を低くしてドレスにくってかかった。



『――――うるさい、黙って先導しろ』


『――――はいは~い、しっかりエスコートしますとも、サカもしっかりね☆』



サカは、短く吠えてドレスを威嚇した。

ドレスは肩をすくめてみせ、それからは黙って俺たちの先を歩いて行った。



『――――・・・やつの悪ふざけだ、気にするな』


「・・・なにがだ?」



サカの言葉に、俺は何の話か分からず首を傾げた。

するとサカは、ばつが悪そうに俺から視線を外した。

そんな様子に、ドレスが一人クスクスと笑っていたのは、二人が知るところでは無かった。


















==============









『二人ともご苦労・・・それにハッちゃんも、よく来てくれた』



バイルの労いの言葉に、サカとドレスは軽く頭を下げた。

俺は、特に何の反応もしない。



『さて、ハッちゃん。ドレスから話を聞いていると思うが・・・念のため確認しよう、お前が何をするか知っているか?』


「・・・全然」



ハッキリ何も知らない事を伝えると、バイルは「ハァ・・・」とため息を吐いた。

そして、俺の隣に居るドレスの方を見ると、ドレスは「あー・・・」と言いながら明後日の方向に顔をそらし、にっこりと笑っていた。

それを見て、バイルはまたため息を吐いた。


・・・苦労が絶えないって感じだな

バイルも大変だな~



『なら、説明する必要があるな。これからハッちゃんには、事務仕事を手伝ってもらいたい』


「じむしごと?」



聞き慣れない言葉に、俺は首を傾げながら言葉を繰り返した。

すると、出口付近に控えていたサカが説明してくれた。



『――――事務仕事というのは、囚人の管理、収容状況、運営状態等々を書類にまとめ、必要であれば修正する仕事だ。』


「・・・お、おう?」



なるほど分からん



『――――簡単に言うと、バイルに言われた通りに情報をまとめれば良いんだよ』


「あ、なるほど・・・そういうことか」



ドレスの簡単な説明で、やっと腑に落ちた。

そして、同時にある問題が浮上した。



「でも、俺、字は読めても書けないぜ?」



『『――――はっ?』』



サカとバイルがほぼ同時に声を上げた。


いや、え?なんで?


俺は首を傾げながら二人を見たが、二人は俺と視線を合わせた後、ゆっくりとバイルの方へ視線を向けた。

すると、バイルは机に視線を落とし、ペンをスラスラと動かして何かを書いていた。

不意にペンの動きが止まり、バイルが顔をゆっくり上げた。



『ハッちゃんが字を書けないことは知ってる。事務仕事は、字を書くだけの仕事ではない。二人も知っているだろう?、ハッちゃんには、そちらの手伝いをしてもらう。』



バイルは二人にそういうと、納得したのかそれ以上は何も言わなかった。

バイルはもう一度二人の様子を見て、何も無いことを確認し、咳払いを一つした。



『・・・さて、ではハッちゃんに仕事内容を伝えよう。一度しか言わない、よく聞いてくれ』


「お、おう」



改まってそう言われると、少しだけ緊張する・・・

さて、俺は何をするのか・・・



『ハッちゃんには、資料をある規則に沿って分別してもらいたい。細かいことは順次説明していく、とにかく“資料を作り終えたら分ける”・・・それだけの単純な作業だ』


「分別するって・・・その紙切れの山全部か!?」



俺はバイルの周り高く積まれている大量の紙の山を指さしながらそういった。

すると、バイルは首を横に振った。



『いや、これはもう分けてある。ハッちゃんには、今から処理するデータを分けてもらいたい。主に、“文章だけ”か“それ以外”の二種類に分ければいい・・・わかったか?』


「わかった・・・それくらいなら、俺にもできそうだ」



俺がそういうと、バイルはにっこりと笑顔を浮かべた。

そして、視線を落としてまた手元の紙に何かをスラスラと書き込んだ



『――――バイル、我はそろそろ見回りに戻る』

『――――俺もそろそろ仕事に戻るよ~』


『わかった、通常業務に戻ってくれ』



バイルの言葉に、二人は一様に頷いて、サカは扉から、ドレスはなぜか素早く飛び上がってどこかへ行ってしまった。


(ドレス・・・仕事してたんだな)


俺は上を見上げながらそんなことを思った。

普段のあいつからは、仕事をしている姿は思い浮かばない。



『ハッちゃん、そろそろ仕事を始める。しっかりな』


「おう」



俺は軽く返事を返して、その辺の壁に寄りかかった。

というのも、俺の仕事はかなり楽だ。


資料を分けるということは、バイルが紙切れに何かしら書き終えてからそれを分けることになる。

つまり、俺は仕事の大半を休んでいられると言うことだ。


(どんなに早くても、一枚作るのに数分くらいは掛かるだろう・・・)


俺は内心「楽な仕事だ」と思いつつ、バイルを見守っていた。

バイルが、手と首をほぐし始め、一度大きく肩を回すとペンを手に持ち、姿勢を少し前屈みにさせた。

やっと始まるのか、と思ったそのとき



『ハッちゃん、この三枚を分けてくれ』


「・・・」


『ハッちゃん?、聞いているのか?、資料ができたから分けろ』


「・・・ええっ?!」



今、何が起きた?


俺は目の前で怒ったことが理解できず、自分の目を疑った。

確かに今、本当に今ペンを握って書き始めようとしていた所のはずだ。

なのに、なんてバイルの手に三枚の紙が俺に差し出されているんだ?

俺は目を白黒させながら、ぱっくり口を開けたままバイルを見ていると、バイルが一つため息を吐いた。



『驚かせたようだな・・・よし、こうしよう。私は今の要領で資料を渡していく、ハッちゃんは、資料が来たらとにかく分けろ・・・いいな?』


「お、おう・・・」



俺は返事をして差し出されている三枚の紙を受け取った。

受け取った紙を確認してみたが、そこにはびっしり文字が書かれており、そのうち二枚には少し大きめのグラフや写真があった。


あ、あり得ない

この量を・・・今の一瞬で?


俺は信じられずにバイルを見ようと視線をあげると、さらに信じられない光景が俺の目に飛び込んできた。



「えっ」



俺の目の前に、厚さ1センチ程の紙の束ができており、その上にどんどん紙が積み上げられていた。

今の一瞬でこれだけの量が・・・


そうしているうちに、俺の目の前の紙の束はどんどん増えていく。


(や、やべぇ!!!)


俺は慌てて目の前にある紙の束を掴み、文章のみとそれ以外に分けた。

それはもう・・・素早く

だが、それでもバイルの処理の方が早いのか、同じくらいの紙の束がまた目の前に置かれていた。


(くっそ、早すぎるだろ!!!!)


俺は悪態をつこうと思ったが、その時間も惜しいので心の中でつぶやくのにとどめ、とにかく手を動かした。

全力でやって、やっと少し遅いくらいだろうか?

最初の数秒まではいろいろ考える余裕はあったが、それから後は頭をからにして、ただ一心に紙を分け続けた。


















==============











『ふむ・・・これで全てだな』


「・・・あ~、疲れた~」



両手を投げ出し、俺は後ろに倒れ込んだ。


お・・・終わった~~~!!!!!

・・・マジで疲れた



『・・・少々、資料を渡すのが早すぎたか?』


「いや、もうそういう次元の話じゃ・・・手品だろ、あれ」



俺はそう言って、バイルの背後にある机を指さした。


あれから一心不乱に紙を分け続けたのだが、俺より先に処理し終えたバイルが、途中から一緒に紙を分ける作業をしていた。

バイルも、この作業は普通の早さで、俺とたいした変わらなかった。

本人曰く“作るのは容易いが、確認や分ける作業は素早くできない”のだそうだ



『普段はこれを全て一人で処理する・・・この作業だけは省略できないのでな、かなり助かった』



バイルはそういうと、俺の方へ骨の手を差し出してきた。

俺は、差し出されたその手を掴もうとして、ぴたりと自分の手を止めた。


・・・本当にこれは本物の骨なのか?


俺は差し出された手をジーッと見つめた。

すると、バイルが手を引っ込めようとしたので、慌ててそれを両手でつかみ、グイッと引っ張った。


表面は・・・かなりボロボロ

あちこちに傷があるし、へこんだり欠けたりもしてる・・・

素材は・・・木じゃない、なんだこれ?


俺は、バイルの手を指の腹でなぞったり、爪でこつこつ突いてみたりした。



『あー、んんっ!!!ハッちゃん、そろそろ手を離してもらえないか?』


「ん?・・・ああ、すまん」



気まずそうなバイルを見て、俺はパッと両手を離した。

バイルは、ホウとため息をはき、俺に捕まれていた手を閉じたり開いたりしていた。


・・・あの動作、動作確認か?

・・・やっぱり義手?


なめらかな動きをするバイルの手。

あいつの義手は、あそこまで綺麗な動きはできなかった・・・はず


・・・

・・・・・

・・・・・・・?



『・・・ハッちゃんは、私の手に興味があるのか?』


「あー・・・いや、昔俺の知ってるやつが似たような義手をつけてたから、同じやつじゃないかと思ってな」



そう言いながら、俺は頭の中で昔馴染みの顔を思い浮かべた。


いつも落ち着いてて、周りの人に指示を出したりまとめるのが上手かった・・・

そういえば、あいつは俺に文字を教えてくれたんだっけ・・・?


名前は確か・・・?



・・・あれ?

名前・は・・?



そこまで思い出して、俺の思考は停止した。


・・・なんだ?

名前が・・・出てこない

・・・ド忘れか?



『ハッちゃん、どうした?。体調でも崩したのか?』



突然バイルがそう声を掛けてきた事で、俺は意識の中から現実へ一気に引き戻された。

何度か瞬きをした後、俺は慌てて首を横に振った。



「あっ、いや・・・ちょっと考え事を」



するとバイルは、興味を無くしたのか「そうか」と一言つげ、俺に背を向けると、先ほど二つに分けた紙の束を掴み、机の周りにある紙の山の一つに片方の束を置いた。

もう片方の束は、中身をパラパラと確認してそのまま乱雑に机の上に置かれた。



『ダメだな・・・やはり非効率か』



バイルはつぶやくと、手に持っていた資料をそのまま手放した。

骨の手から紙が滑り落ち、そのすべてが地面に散らばった。



「何してんだよ。折角分けたのに」


『それはもう使わない、処分だ』



バイルは床に散らばった紙の一つを指さした。



『今回は焼却処分だ・・・』



バイルはそういって右手の人差し指をたてると、それをクイッと折りたたんだ。

その瞬間、ボッという音とともに、紙が炎に包まれた。



「お、おお・・・燃えた」



突然の発火現象に、俺は少しだけ驚いた

すると、バイルは椅子に腰を下ろし、おっさんくさいため息を吐いた。



『いや~、やはり何かに座るのはいい・・・』



バイルは椅子の背もたれに体を預け、顔を上にのけぞらせ目を細めた。

両手をだらんと垂らし、またため息を吐いた。



「お前、座ってるのが好きなのか?」


『ああ、体からすべての力を抜いて、リラックスできるからな~・・・素晴らしい』



バイルのだらけきった雰囲気に、俺は体から少し力が抜ける感覚がした。

そこで初めて、自分は無意識に気を張っていたのだと気がついた。


(なんだかんだ言って・・・俺も怖いのか、こいつらが)


鼻から息を吐きながら、両目をつぶって肩を意識的に下げた。



『よくやってくれた。・・・今日はもう部屋に戻っても良いぞ?』


「お、マジか!!じゃ、俺帰るわ」



俺は声を弾ませながらそうバイルに告げると、そのままきびすを返して部屋を出た。



『・・・はぁ、相変わらずだな・・・あいつは』



バイルが何か言ったような気がしたが、既に部屋に帰って何をするかを考えていた俺の耳には届いてこなかった。

そして無事に部屋に帰ってきた俺は、丁度良い時間だったので、シャワーを浴びるために風呂場へ駆け込んだのだった。



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