冷たい令嬢・妹の沈黙
三日目、姉妹の朝はいつもどおり始まった。ノエラはいつもの柔らかな調子で姉の茶を替え、余計な質問をしない。だが卓上の招待状には、一度開封して戻したような浅い折り目があった。
異母妹ノエラは二つ年下で、社交界では病弱でおとなしい令嬢と思われている。姉のそばではよく笑うが、大勢の前では目立つ場所へ決して立たない。
写しと正文には、小さな違いが積み重なっていた。日付の数字、敬称、欄外の穴。単独なら誤記でも、並べれば誰かの手順が見える。
宮廷では事実より順番が重かった。誰が最初に王妃へ語り、誰が最後に否定したかで、同じ出来事の意味が変わってしまう。
街角ですれ違った配達人は、公爵家の馬車を一度も見ていないと証言した。それは正しく、だからこそ誰の用件を運んだかまでは分からなかった。
窓の外で王都の鐘が鳴った。姉妹は同じ屋根の下にいるのに、それぞれが伏せたものについて、一度も問いを交わさなかった。
レティシアは人の心を断定しなかった。利害で動く者にも恐れがあり、善意を語る者にも守りたい立場がある。単純な敵を作れば、見落とすものが増えるだけだった。
オスカーは確認できた時刻を欄外へ書いた。記憶は後から整えられるが、鐘の音と受領印は別々の場所に残る。二つが重なるまで事実とは呼ばない。
姉妹のあいだには、幼いころからの合図があった。言葉にすれば他人にも奪われるため、指先やカップの向きだけで、今は話さないという意思を確かめる。
王都の新聞はまだ王家の名を出さず、「ある高位令嬢」とだけ書いた。名を伏せても誰を指すかは明らかで、曖昧さだけが責任を負わずに残った。
反論の機会は与えられているように見えた。ただし期限は短く、必要な資料は王宮が預かり、証人は面会を禁じられている。形式の公平と実際の公平は別だった。
(本文実測:743字)




