祝宴の葡萄酒・夜の記録
その夜、レティシアは「祝宴の葡萄酒」について確かめられた範囲を整理した。夜、レティシアは起きたことを日付順に書き留めた。感情と推測を別の頁に置き、確かめられた事実だけを細い筆で残す。
レティシアは相手の言葉を遮らず、答えを急がなかった。その沈黙は慎重さではなく冷淡さと呼ばれ、王太子の微笑だけが寛容さとして受け取られた。
レティシアは自分に有利な証言も、その場で採用しなかった。確かめられない味方の言葉へ寄りかかれば、後で崩れた時に真実まで巻き込まれる。
貴族たちは王太子の選択を未来の権力として読み、まだ下されていない裁定へ先に従った。席が一つ離れるだけで、翌日には十家の招待が消えた。
そのころ、王都の小さな菓子店で、宛名のない包みが一つ受け取られた。届けた者も受け取った者も、ノエラの名を口にしなかった。
廊下の向こうでノエラの扉が閉じた。朝になれば妹は何も知らない顔で現れ、姉もまた何も気づかないふりをするのだろう。
オスカーは確認できた時刻を欄外へ書いた。記憶は後から整えられるが、鐘の音と受領印は別々の場所に残る。二つが重なるまで事実とは呼ばない。
姉妹のあいだには、幼いころからの合図があった。言葉にすれば他人にも奪われるため、指先やカップの向きだけで、今は話さないという意思を確かめる。
王都の新聞はまだ王家の名を出さず、「ある高位令嬢」とだけ書いた。名を伏せても誰を指すかは明らかで、曖昧さだけが責任を負わずに残った。
レティシアは人の心を断定しなかった。利害で動く者にも恐れがあり、善意を語る者にも守りたい立場がある。単純な敵を作れば、見落とすものが増えるだけだった。
(本文実測:685字)




