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婚約破棄された悪役令嬢は、証拠だけを信じる ~感情ではなく記録で真実を覆す、静かな逆転劇~  作者: 竜太郎


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裂けたレース・王宮の廊下

王宮へ場所を移しても、「裂けたレース」をめぐる視線は消えなかった。王宮では、声を潜めた会話ほどよく響いた。レティシアが通ると話は止まり、去った後にだけ「婚約者」という言葉が残った。


レティシアは相手の言葉を遮らず、答えを急がなかった。その沈黙は慎重さではなく冷淡さと呼ばれ、王太子の微笑だけが寛容さとして受け取られた。


宮廷では事実より順番が重かった。誰が最初に王妃へ語り、誰が最後に否定したかで、同じ出来事の意味が変わってしまう。


レティシアは妹へ調査の中身を話さない。知らなければ疑われずに済むと考えたからだが、ノエラの目には時折、説明より先に結論を知る者の静けさがあった。


反証は見つかるたび別々の場所へ預けられた。レティシアは一か所へ集めれば、正しい資料ほど先に失われると考えていた。


噂は夜のうちにも増えていく。レティシアが守ろうとした事実より、彼女が冷たく見えた一瞬のほうが、多くの口に覚えられていた。


レティシアは人の心を断定しなかった。利害で動く者にも恐れがあり、善意を語る者にも守りたい立場がある。単純な敵を作れば、見落とすものが増えるだけだった。


オスカーは確認できた時刻を欄外へ書いた。記憶は後から整えられるが、鐘の音と受領印は別々の場所に残る。二つが重なるまで事実とは呼ばない。


姉妹のあいだには、幼いころからの合図があった。言葉にすれば他人にも奪われるため、指先やカップの向きだけで、今は話さないという意思を確かめる。


反論の機会は与えられているように見えた。ただし期限は短く、必要な資料は王宮が預かり、証人は面会を禁じられている。形式の公平と実際の公平は別だった。


(本文実測:687字)

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