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婚約破棄された悪役令嬢は、証拠だけを信じる ~感情ではなく記録で真実を覆す、静かな逆転劇~  作者: 竜太郎


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裂けたレース・妹の沈黙

三日目、姉妹の朝はいつもどおり始まった。ノエラはいつもの柔らかな調子で姉の茶を替え、余計な質問をしない。だが卓上の招待状には、一度開封して戻したような浅い折り目があった。


公爵家の長女であるレティシアは、二歳で母を亡くした。母の顔を覚えてはいないが、礼儀作法と婚約の取り決めだけは、十六年たっても娘の肩へ残っている。


公爵家へ近づく者は減ったが、完全には消えなかった。没落を見越して利益を拾う者、恩を売る者、ただ心配する者が同じ顔で門をくぐった。


ノエラは姉の手袋のほつれを直しながら、怖いかとは聞かなかった。代わりに明日の朝食を一緒に取れるかと尋ね、未来が続く前提だけを差し出した。


写しと正文には、小さな違いが積み重なっていた。日付の数字、敬称、欄外の穴。単独なら誤記でも、並べれば誰かの手順が見える。


廊下の向こうでノエラの扉が閉じた。朝になれば妹は何も知らない顔で現れ、姉もまた何も気づかないふりをするのだろう。


反論の機会は与えられているように見えた。ただし期限は短く、必要な資料は王宮が預かり、証人は面会を禁じられている。形式の公平と実際の公平は別だった。


レティシアは人の心を断定しなかった。利害で動く者にも恐れがあり、善意を語る者にも守りたい立場がある。単純な敵を作れば、見落とすものが増えるだけだった。


オスカーは確認できた時刻を欄外へ書いた。記憶は後から整えられるが、鐘の音と受領印は別々の場所に残る。二つが重なるまで事実とは呼ばない。


姉妹のあいだには、幼いころからの合図があった。言葉にすれば他人にも奪われるため、指先やカップの向きだけで、今は話さないという意思を確かめる。


(本文実測:690字)

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