Chapter 34 debate――予想外の苦戦?――
day:8/6/2035 thr.
三十分後、渋滞には巻き込まれはしたがなにも異変はなく、俺達は会場――広島県庁の会議室にたどり着いた。
席にはすでに金髪の少年と、黒い肌の少女が座っていた。その二人の反対側にある二席に、俺達も腰掛ける。
会場のすみでは、新聞社やらテレビ局やらのカメラマンがカメラを調整している。
「それでは、今から『戦後90年核兵器廃絶国際討論会』を開廷します。まず、お手元の同時通訳機をつけてください」
広島県知事が、日本語と英語で指示し、俺達はイヤホン型の通訳機を耳につける。
「次に、討論会のルールです。この会議では、まずアメリカ側、日本側の順に意見を行い、質疑応答を行います。最初に行う意見発表の時には、自分のフルネーム、学年を言ってから発表してください。質疑応答の後、観覧者の方々からジャッジを下してもらいます。それでは、アメリカ代表の方々、発表をお願いします」
むむむ……? 要するに、発表する前に名乗れってことか? コレって、ライブ配信されてないよな……?
そんな事を考えていると、アメリカ側の少年の方が席をたった。
『こんにちは。俺はイーサン・エドワード・ベイカー、十四歳です。俺は、核兵器はあったほうがいいと思います』
……!? 初っ端からぶっ飛んだ意見が来たな……核があった方が良い、だと!?
『理由としては、核兵器は政治的な意味が強いからです。核があれば抑止力で戦争を防げるし、いざという時敵国の首都にズドンと落とせば、それ一発で、第二次世界大戦みたいに戦争が終わる。そんな便利な力を俺はなくすのはやめといたほうがいいと思います』
俺は、イーサンの意見を聞き、納得と憤慨を覚えた。
確かにそうだ。戦争を子供の喧嘩に例えると、核兵器はナイフだ。
他の連中は拳で殴り合っているのに、一人だけナイフを持った奴がいたら、誰も手を出そうだなんて思わない。
ケンカを売られたとしても、そいつの首を引き裂くだけで、すぐにケンカは終わる。
だが、それじゃ駄目なんだ……
『次は私の番ですね。私はルナ・ソフィア・ジャクソン。十三歳よ。私は、核兵器は多すぎてもダメだけど全部なくすのもダメだと思う』
ふーん、次は変則的なのが来たな。
『さっきイーサンが言った通り、核抑止力は必要だと思う。でも、もし使われた時に、何千発も報復で打ち合ってたら星が壊れちゃうでしょう? だから私は【多すぎず、かといって全てなくさない】っていう意見を持ちます』
報復防止、か。
でも、その『唯一持っている一発の核兵器』がツァーリ・ボンバみたいな、東京都心で爆発した場合、宇都宮や伊豆辺りまで被害が及ぶようなやつだったら意味がないんじゃないか……?
「ありがとうございます。それでは次に、日本代表の方々、発表をお願いします」
そう言われて、俺と星奈は一瞬顔を見合わせた。
だが、愚問だった。星奈の顔には『私から発表させて』とはっきり見て取れる。
「それでは私から。私は一ノ瀬 星奈。十三歳です。私は、核兵器は全部解体してゴミ箱に突っ込むべきだと思います」
うん。星奈のことだから、どストレートに言うと思った。
「理由は簡単、あの兵器は無関係な人まで、それこそ敵味方関係なく虐殺する、しかも爆発跡地に入るだけでも原爆症に苦しめられる悪魔の兵器だからです。だから、私は核兵器は不要だと思います」
星奈はそこまで言い切ると、席に戻って息を吐いた。
よし……次は俺の番。台本は頭に入っている……はずだ。そう心の中でつぶやいて、席を立つ。
「最後に俺から。俺は有川 大和、十三歳。俺の意見も、核兵器は根絶するべきだというものです」
よし……滑り出しは好調だ。
「理由として、さっき星奈が入った内容に加え、核兵器は、兵器としては過剰……オーバーキルすぎる。敵も味方も民間人も無差別に傷つけ、数発爆発させるだけでこの星を破壊できる」
一発しか使わなかったとしても、容易に国一つ、いや使いようによっては大陸一つの人間を皆殺しにできるだろう。
「こんな物をもし本当に使わないとしても、誰かが間違ってスイッチを押す可能性は? プログラムの誤作動で発射される可能性は? ゼロとは言い切れないでしょう。こんな化物は必要悪ではなく、絶対悪です。だからとっととなくすべきだと俺は考えます」
それに、テロリストとかにクラッキングされて、制御を奪われたりするかもしれない。この世界には、『完全』と『絶対』は有りえないからだ。
未だに記憶が戻らないバスジャック事件や、今年俺達が巻き込まれた四月の暴走事件、五月の天使事件。
それに、もっと昔にあった同時多発テロや北朝鮮による日本人拉致事件、第二次世界大戦中の大量虐殺。
どれも、事が起きる直前まで、誰もが『絶対に起きるわけがない』『完全なセキュリティがあるから大丈夫』みたいな事を、思っていた。
だが、現にそれら全て実際に起きたこと。
『マーフィーの法則』……だったか? 人間は失敗できる余地があれば、必ず失敗する。だから致命的な事態になる前に、確実にこの世からなくさなければならないんだ。
「それでは、質疑応答を開始してください。発言の前に、必ず挙手をお願いします」
そう言われた直後、イーサンが手を上げた。
『はい、質問です。えーっと、【悪魔の兵器】って女の子の方が言ってましたけど、日本に俺達アメリカが核を叩き込んだから戦争が終わったわけで、むしろ平和を作る有用な道具なんじゃないんですか?』
言い終わる前に、星奈はガタンと音を立て、立つ。
「なにを言ってるの!? あんた、アレでどれだけの人が死んだのかわかっていってるの!?」
『約21万人。第二次世界大戦の民間人も含めた犠牲者数、約8500万人の中の0.2%です。たったそれだけの人間が死ねば、戦争が終わる。必要な損失ってやつですよ』
「たった!? 『たった21万人』ですって!? 21万人『も』の間違いでしょ!!』
『もしも、あそこで戦争が終わらなかったらどうなっていました? 『米兵に屈してはならない、死ぬまで戦え』みたいな司令でも出て、日本人は全員カミカゼ特攻してたんじゃないんですか? そう考えると、その事態を防いだアメリカには感謝してもらいたいですね』
イーサンの不敵な物言いに、星奈はどこからどう見てもキレている。あのままほっといても、絶対ロクな事にならない。
なお反論しようとする星奈の肩を掴み、無理やり座らせる。
「大和! ちょっと――」
「星奈、熱くなりすぎだ。ここは俺に任せろ」
そう言って挙手しながら立ち上がる。
「イーサン……って言ったっけ? 確かに君の意見にも正しい部分がある。だけど、間違ってもいるよ」
まっすぐ相手二人を見ながら、ゆったりと言う。
「確かに、あそこまで追い詰められた日本はなにをするかわからない。『手負いの獣ほど恐ろしいものはいない』って言葉もあるくらいだからな。だけど、だからってあんな物を使う理由にはならない。アレで死んだ人はほぼ民間人だ」
『民間人って言っても、もうすぐ 戦場に立つ人間だと思いますけどね』
ルナも、手を上げて口を挟む。全く、二対一か……面倒だ。
「わかってないな……日本はな、原子爆弾を落とさなくても戦うための物資、人員が足りなくなっていた。なのになんで落としたか? ソ連をビビらせて、戦後、有利な立場を確保したかったからだ」
もしも、あのときアメリカが核を使わなかったら、恐らくここまで核兵器は増えなかっただろう……
いや、第二次世界大戦で使わなかったとしても、もしかしたら朝鮮戦争で使ったかもしれない。ベトナム戦争で使ったかもしれない。それに、スパイによって核兵器の情報がソ連に伝わったという史実もある。
そもそも、この兵器を作ったその事実が、ここまで世界を歪めている。
「それに、もう一つ。あの兵器はハーグ陸戦条約や、ジュネーブ条約を無視してるし、三番目の大量破壊兵器として禁止条約まで作られている。アレが『平和を作る道具』? 冗談にもほどがある」
イーサンは俺の反論を聞き、負けじと言い返してくる。
『だが、米軍がアレを落とさなかったら、日本人もアメリカ人も犠牲者が増えているし、日本政府もハーグ陸戦条約の適用除外だという見解を出していますが?』
「『日本政府の見解』? 『政治家の言いわけ』の間違いだろ。そんなものはどうでもいい。イーサン、あんたの意見は『使ったほうが犠牲者数が少ない』っていうものだったな? 確かに傍観者の立場だったら『犠牲者数が少ないってことは、悲劇が少なかったんだな』って思うだろうが、当事者の立場だったらどうだ?
その自慢の頭で考えてみろよ、家族が跡形もなく消し飛んで、自分も原爆症で苦しむ、地獄のような光景を!」
そこまで言い切って、俺は席に座った。
やってしまった。星奈に格好つけて『熱くなりすぎだ』だなんて言ったが、俺だって人のことを言えないじゃないか。
でも……多分ここまで言わないと伝わらない。被爆者の方々の思いは。
「それでは質疑応答を終えます、観覧者の方々は――」
俺には、司会の人の声が遠く聞こえた。
次回予告
討論会の後、大和たちは海中戦闘の訓練に、海へ。八月の青い空、青い海、白い砂浜、そして雰囲気をぶち壊すBN。
環境に気を付けて、次の大会に備えるために練習だ!
潜航のchapter35、10月10日、午後六時~七時ごろ公開予定!!
薄氷は、まだ割れない。
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