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Chapter 32 Wake up

day:8/4/2035 sat.


 「ん? どうしたんだろうな?」


 颯真は、〈シューター〉を走らせながらつぶやいた。スクリーンに映る敵機の動き、どこか妙に思える。

 さっきまでは威勢よく撃ってきたのに、全く反撃してこない。


「まぁいい。あんなカモ――っと、危ない危ない、負けフラグを言ったらまずい」


 うっかり口にしてあっさりとやられるのは嫌だからな。

 照準を合わせ、トリガーを引く。

 だが、狙った胴体ではなく、弾丸は右肩の装甲に着弾した。


「ちっ、めんどくさいな」


 〈シューター〉の武装を、手にしていたライフルからガトリング砲に変更。


「弾幕張ってれば、いつかは当たるか」


 そうつぶやいて、ガトリング砲の弾丸をばらまく。


「さぁ、いつまで持つかな?」








《危険、危険、危険、危険》


 俺の耳元に、ぼんやりと音が聞こえる。

 ゆっくり目を開けると、そこは〈フルアームド・グラディエータ〉のコクピット。


「え、な、何があったん――」


 言い終える間もなく、こっちに向かって銃弾の嵐が飛来する。


「うぉぉ!?」

 慌てて操縦桿を動かし、機体を急降下させ回避させる。


「畜生……! こいつでお返しだ!」


 〈グングニル〉二丁の照準を合わせようとする。だが――また、あの悪夢が蘇ってくる。

 頭が痛い。怖い。手が震え、冷や汗が背を伝う。


《バイタル異常、大和、どうしました!?》


 ハルの慌てた声がスピーカーから聞こえた。







 星奈は、たった一人――恐らくこの場にいる人間でたった一人、大和の不調の原因に気づいた。


 もしかして――『PTSD』?


 心的外傷後ストレス障害、通称PTSD。トラウマ体験が原因で、その記憶に苦しめられる精神疾患。

 それによって、大和はあんな状態になってしまったのだろうか?

 多分、フラッシュバックの原因は『銃』……?

 引き金に指をかけるタイミングくらいで、大和はパニックに陥ったり、気絶している。

 

 このまま放っておくのは……絶対に、絶対に駄目だ。

 無線機を掴み、電源を入れる。


「大和、聞こえる?」






『大和、聞こえる?』


 無線から星奈の声が届いた。


『今すぐ落ち着いて、高度を取って』


「んな事言ったって――」


 今それどころでは……! 銃を撃っても、変なの見える上に当たんないんだから、意味がない!

 そう叫ぼうとする前に、星奈がハルに命令する。


『あぁもう――ハル! 緊急上昇捺せなさい!!」


《ラジャー》


「ちょ、まっ――」


 突然、〈フルアームド・グラディエータ〉は操縦桿からの操作を受け付けなくなり、銃弾をものともせず、再び跳ね上がるように大空を昇る。

 だが、今の急上昇でHPが多少削れ、残りは五〜六割ほどになってしまった。


「星奈、なんでこんな事をさせたんだよ!?」


『あーもう、とりあえず落ち着いて! 大和、あなた多分、銃を撃っても確実に当たらないよ』


「はぁ? 何言ってるんだ!?」


『だから――その機体の、そしてあなたの一番得意な戦い方は?』


 それは……


「近接戦をしろっていうのか!? あの弾幕をくぐり抜けて!?」


『いいじゃん。あなた言ってたよね――『ゲームは難しい方がやりがいがある』って』


 俺は、その言葉を聞いてからしばらく黙り込んだ。……確かにそうだ。いつだったか、言った覚えがある。

 それに……アイツ以外まともに戦える相手もいない。なら――答えは一つ。


「ああ、そうだな!」


 両手の〈グングニル〉と、その予備弾倉を全て投げ捨て〈フルアームド・グラディエータ〉は更に上昇する。

 雲を突き抜けて、今度は飛び込み選手の様に、地面に向かって真っ逆さまにダイブ。


《アニマ波の確認、完了。リンクシステム、レディ》


 久しぶりに感じる、脳が加速する感覚。機体の速度も、すでに時速500kmを超えている。

 操縦システムが通常のものから切り替わり、視界に〈フルアームド・グラディエータ〉のメインカメラの画像が投影される。


「今度こそ……お前をぶっ倒して、この大会を攻略してやる……!!」


 右手で〈ムラマサ〉、左腕で〈ストームブリンガー〉を引き抜き、猛禽の様に加速する。

 カメラが、〈シューター〉を捉えた。


「行っけぇぇぇぇッ!!!!」


 左腰のワイヤーガンを〈シューター〉の右腕に打ち込み、巻き取りながら更に加速。

 後ろに回り込み、左足の爪先に仕込んであったダガーで〈シューター〉を突き刺す。


《!? 大和、今すぐ〈シューター〉から離れてください!!》


 ハルの慌てた声を聞き、左腰のワイヤーガンをパージして、スラスターを全開にし後ろに飛ぶ。

 〈シューター〉の装甲が、煙をぶちまけながら弾け跳んだ。


「何だ!?」


 飛んできた破片を〈ストームブリンガー〉で叩き落とし、メインカメラをズームさせる。

 視界に写ったのは、打って変わってスラリとした、赤と青のピエロのような姿になった〈シューター〉。


《32式試作増加型(しきしさくぞうかがた)爆発反応装甲(リアクティブアーマー)!?》


 ハルが、慌てた声を上げる。

 聞いたことがある――星奈が読んでたBNの本で、たしか出てきた。いざというときに弾き飛ばし、質量弾にすることもできる追加装甲。使いづらいから没になったらしいが……

 〈シューター〉が太ってたのは、あの反応装甲をまとっていたためなのか……?


『ククク……まさか、『羽衣』を引っ剥がすとは、予想以上だ』


 斎藤は〈シューター〉のスピーカーで話しかけながら、腰に差してあったレイピアを右手に、トランプ――それぞれ、スペードのエース、クローバーの13、ハートの4を左手に掴む。


『それじゃァ……ショータイムといこうかァッ!!』


 そう声を上げ、トランプがこちらに飛んでくる。

 マントを翻して回避し、こちらも駆け出す。


《あのトランプ――高振動単分子ブレードです》


「マジかよ、あれ実用性ほぼ無いだろ!?」


 あんな馬鹿でかいトランプじゃゲームは出来ないし、縁に触ったら切れる? 武器としてもトランプとしても出来損ないじゃないか。どうしてあんなのが作られたんだ?


《恐らく特注品かと》


「もったいないな……って、危な!」


 気を抜いていたら、またトランプが飛んでくる。

 右腕のワイヤーガンをバリケードに刺し、右に避けると今度は銃弾が。


「どこから撃ったんだよ!」


 愚痴りながら、〈ムラマサ〉で銃弾を叩き落とす。だが、その動きを読んだかのように移動先にも銃弾が。

 右腕のワイヤーガンをパージし、上へ飛ぶ。

 強烈なGが俺の体を蝕むのを無視し、最小限の機動で攻撃を回避していく。


《警告、背面粒子推進装置一番、二番の冷却回路に異常。推進剤残り僅か。右肩部、左脚部モーター異常。コンデンサー残り電力三割。活動制限時間までのこり三分》


 見ると、コンソールの機体表示ではあちこちガタが来ていることが分かった。


「もう少し……もう少しもってくれ……!」


 背中のマントをパージし、更に加速する。

 相手も地面を滑るように走り、レイピアから銃弾を、片腕からトランプを投げつけてくる。

 それをそれぞれ右腕の〈ストライカー〉、左腕の〈アイギス〉で受け止め、ひび割れた二つの盾を投げ捨て、〈ブリューナク〉をぶん投げる。

 飛んでいった〈ブリューナク〉は〈シューター〉の左肩に突き刺さる。


「電流を流せぇッ!!」


《ラジャー……!》


 1000万ボルトの電流が、〈ブリューナク〉と〈フルアームド・グラディエータ〉本体を繋いだコードを駆け、〈シューター〉の回路を破壊する。

 コンデンサーの残り電力は二割。自機のHPは残り四割。


「行っけぇぇぇぇぇッ!!!!」


 〈フルアームド・グラディエータ〉は、砂塵(さじん)の中を全速力で飛び出す。


「ハル、隠し腕使うぞ!」


《ラジャー》


 途端、腰のアーマーから一対の、背面から一つのマニピュレーターが、せり出し、腰の後ろに刺してある〈エクスカリバー〉と〈カリバーン〉、左腰に差している〈ライキリ〉を掴む。

 まるで、阿修羅(あしゅら)のような姿。

 五刀流。まだ誰もした事の無い戦い方。

 だが、本来体についていない背面スラスターも、三本の隠し腕も『リンクシステム』の効果か、まるで己の体の様に動かせる。

 左の〈ムラマサ〉、〈カリバーン〉、〈ライキリ〉の三本でレイピアを封じ込め、右の〈ストームブリンガー〉、〈エクスカリバー〉を叩きつける。


「こいつを食らえッ!!」


 震える腕で、トリガーを引く。

 零距離からの〈ストームブリンガー〉の砲撃。いくら操縦桿がブレようと、いくら腕が震えようと、刺して固定すれば……

 まだ、あの光景が思い浮かぶ。


「とっとと……消えやがれぇッ!!」


 頭をコンソールに叩きつけ、悪夢を振りほどく。

 だが、その隙を付かれ、〈シューター〉の弾丸を伴った突きは機体を襲う。

 隠し腕三つは折れ、握っていた二刀も吹っ飛んでしまった。


《コンデンサー、底をつきました。推進剤、残り五五秒分》


 それなら。


「こいつでケリを付ける!!」


 左腕のワイヤーガンを打ち込み、巻き取り開始。それと同時にスラスターを全力で吹かす。

 頭部20ミリや、レイピアの銃弾を受けながら、前に。


《右粒子推進装置、オーバーヒート》


 右の翼をパージして、前に進む。


《左粒子推進装置、フレームアウト》


 左の翼もパージして、加速する。


《推進剤、残り数秒》


 追加装甲をスラスターごと排除し、腰の後ろから抜き取ったダガー二本をぶん投げる。


「うおォォォォォォォォォッ!!!!!!」


 握りしめた、オーバーヒートと摩擦熱により煙を上げる右拳を、〈シューター〉の顔面に叩きつけた。

 拳は〈シューター〉のメインカメラのカバーを砕き、装甲を歪ませ、吹き飛ばす。

 こちらの拳も歪み、折れ、ぐちゃぐちゃになりながら。

 HPバーは……双方……ゼロ。残弾も……残りは無い。あったとしても使えないが……スラスターも……使えない……

 悪いことをしたな……勝つ、そういったのに……また、負けちまった……

 もう……疲れた……眠たい……

 そう思っていると、無線が開いた。どうせ……俺の負けを告げるんだろう。

 だが――






『勝者――〈ピース・パロット〉!!』




 だが、予想に反し、勝者として名を呼ばれたのは、俺。

 HPバーをよく見ると、1ドット、たった1ドット分、HPが残っている。


「よかった……よかった……」


 これで――星奈を……悲しませずに……すむ……
































「で? 俺の迎えはいつ来るんだよぉぉぉッ!!」


 大翔は一人、留置場で一泊する羽目になっていた…………


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