Chapter 16 The atomic bomb "Fat Man"
day:5/24/2035 sun
俺、星奈、大翔、鈴、ハルの五人は、新幹線N700S〈かもめ〉に乗って、長崎県の長崎駅に向かっていた。
幸運なことに、俺達五人は同じ班。本来一人少ない四人班だったのだが、そこに無理やりハルがねじ込まれたということだ。
「そういや、平和学習って何するんだ? てか、そもそも長崎って戦争に一番無縁そうな場
所じゃんか、戦争起きて狙われんのって、やっぱ東京とかじゃねぇのか?」
大翔が、足を組んでスナック菓子をかじりながら言った。
「何いってんの、たしか、えっと……なんたら爆弾が落とされたんでしょ!」
鈴が、慌てて反論する。だが、肝心なところが言えていない。
にしてもなんたら爆弾ってなんだよ? ◯◯爆弾って名前の武器なんて、たくさんあるだろ。C4爆弾とか。
「なんたらじゃなくて、原子爆弾な。簡単に言うと、プルトニウムの核分裂を――」
「あ、大和、そこら辺大丈夫。資料館で読むから。それよりこっち!」
鈴がスマホを操作して、ある画面を表示させる。
「あ、それってパーソナルマークの要望とパーソナルネーム、あとカスタマイズを考えろってやつでしょ! それカスタマイズまでは終わったんだけど、残り二つが難しくって……」
星奈がペラペラと話し始める。
「まぁ、星奈の長広舌は置いておいて、とりあえずやってみましょう!」
というわけで、鈴主催で、パーソナルネーム名付け大会が始まった。
「やはり本名をもじってみますか? 例えば、大翔さんは『タイガー』みたいな感じに」
ハルが、意見をいう。
「いやぁ、それじゃ流石に単調じゃない? それだったら大和が『バトルシップ・ヤマト』になっちゃうよ」
星奈が反論する。まぁ、妥当な意見だろう……って、戦艦ヤマト!? ちょっとそれだけは勘弁を!
「そんなら、+アルファでなんか英単語を付け足すのはどうだ?」
『バトルシップ・ヤマト』だけは、何があっても、なんとしても回避しないと……!
「お、大和ナイス! だったら俺は……そうだな、『シューティングタイガー』で」
俺の言葉に反応して、大翔がスマホに入力を始める。
よかった、なんとか流れが変わった。
「だったら、私は『サイバーベル』かな?」
鈴も入力を始める。
にしても、俺のやつはどうしようか……本名からのもじりは使えないし……
「うーん、どうしようかな……私のやつ」
どうやら、悩んでるのは俺だけではなく、星奈もだった。
「星奈、『スターロード』なんてどうだ?」
「ロード? なんで道?」
「違う違う、”road”じゃなくて、”lord”、君主の方。ほら、お前の二号機の剣の名前が、アーサー王のやつ由来じゃん。だからだよ」
「あ、そゆこと」
星奈は、ポンと手を打って納得した。
「で、俺のやつなんだが……どうしよ、戦艦大和だけは嫌なんだが……」
『次は〜長崎〜長崎〜終点で〜ございま〜す』
つぶやいた途端、終点のアナウンスが流れた。窓から外を見てみると、もうトンネルを抜け、市街地に突入していた。
「それじゃあ、荷物持って席立とうか」
星奈が、ポツリと呟いた。
「みなさん、荷物をきちんと持っていますか? 迷子にならないように気をつけて見学して
ください。十一時半までに、原爆資料館ロビー前に集まってくださいね? それでは、言って良し!」
俺達の担任である、理科の先生の小島先生が、指示を出す。
俺達五人は指示に従って、原爆資料館の中に入った。
「またここに来る事になるとはな……」
「大和、てめぇここに来たことあんのか?」
大翔が口を挟む。
「ああ、私たち二人は五島出身だから」
星奈が、大翔の口にした疑問に答えた。
「ここ予備知識無しの初見じゃ最悪吐くぞ? ある程度事情を知ってた俺達の時でさえ、二、三人体調崩したから」
「「え、えぇ……」」
初見組の二人が情けない声を上げる。でも、これは脅しじゃない。事実だ。アレは本当に酷い……
「そんじゃ、行くぞ」
俺が大翔、星奈が鈴の手を掴んで引っ張っていく。
「「ちょ、ま、やめてぇぇ!!」」
「館内ではお静かに」
取り残されたハルがつぶやいた。
「まずは……被爆時計か」
歩いてゆくと、ぼろぼろになって、文字盤が黄ばんでいる掛け時計がショーウィンドウの中に収められていた。
針は、十一時二分で、時を刻むのをやめている。
「原子爆弾『ファットマン』が炸裂した、午前十一時二分に破損し、それから九十年同じ姿を残しているそうです」
「ハル、ネットの文章をそのまま言うのはのはやめとけ」
「……何故わかったんですか?」
「俺も昔、そのサイトを見たから」
口論の後、さらにそこから少し進むと、炸裂直後の風景を再現したエリアに入った。
爆発の熱線によって変形した給水タンクや、破損した浦上天主堂の実物大レプリカが置かれていた。
「嘘だろ、石柱に人の影が焼き付いちまってる」
大翔がうめき声を上げる。
「さっきの時計でも被害が見え隠れしていたけど、直接叩きつけられると……」
鈴は、口元を抑える。
「向こうの方に、被爆者の持ち物が置いてあったりするよ……」
一度見たことのある星奈も、声が震え、顔を青くしている。
俺自身も、もう手汗がびっしょりとしている。そんな手で、置いてある石柱を触ってみる。
本来滑らかだったはずの石が、一度溶けたことによって生じた気泡のせいで、表面がコンクリートよりもザラザラしている。
「皆さん、先に進みますよ」
ハルが、いつも通りの口調で言った。
更に先に進むと、原子爆弾の実物大模型が置かれていた。
『デブ男』というコードネーム通り、原子爆弾は楕円形をしている。サイズは、大人一人よりも大きい。
全体的に黄色、だが金属板の継ぎ目は黒く塗装されているそれは、見た目だけでも禍々しい。
「インプロージョン型である『ファットマン』は、広島に落とされたガンバレル型の『リトルボーイ』よりも威力は高かったそうです。ただ、長崎県は山が多く、爆風と熱線が遮られたため広島県よりも、被害は少なかったそうです」
ハルが、解説を始める。
「また、被爆者の方々の証言によりますと、原子爆弾は爆発直後『小さな太陽』――火球を生成しました。表面温度は七千℃、太陽のそれよりも千℃も高かったと米軍が確認しています。その数秒後、秒速約280kmの速さの爆風と、猛烈な熱線が照射されました」
「でも、恐ろしいのはそれだけじゃないの」
星奈が、ハルの言葉を引き継ぐ。
「原爆で、本当に恐ろしいのは……放射線よ」
俺達五人は更に歩みを進めていった。ショーウィンドウには、焼けた金属製の弁当箱や被爆した瓦、溶けたガラス瓶、骨の欠片がこびりついたヘルメット、焼け焦げ、所々が破けた服などが展示されていた。
そして、ついに問題の場所にたどり着いた。
そこには、放射線の影響を受け、髪が抜け落ちたり、血を吐いたり、瞳が白く濁っている人の写真があった。
他にも、がんでなくなっていく恐怖が書かれていたり、放射線の影響で、頭が異常に小さい赤子の写真。
あまりの衝撃で、皆、声が出せなくなってしまった。
そして、大翔と鈴は案の定、トイレに駆け込んだ。
「にしても……本当にあったんだよな、あれ……」
平和祈念像前のベンチで、アイスを食べながら俺はつぶやいた。
「ほんと……なんだか、作り話みたいだよね。でも……本当に、証拠は残ってるんだよね……」
星奈もアイスを食べながらつぶやく。
二人はまだ籠もっていて、ハルは平和祈念像を眺めている。五月とは思えないぐらい暑いが、あの年の、あの日もこんな気温だったのだろうか。天気は曇りだったらしいけど。
「決めた」
「何を?」
俺のつぶやきに星奈が反応した。
「パーソナルネーム。俺のパーソナルネームは――」
その時、『平和の泉』と名付けられている噴水が、大量の水を吹いた。平和祈念像に止まっていた鳩の群れが、その音に驚き飛び立つ。
鳩の群れはこちらに飛んでくる。
「うおっ!」
「きゃぁ!」
羽根が宙を舞う。鳩たちが通り過ぎた後、俺の手元に黒い風切羽が残った。
突然、頭が割れるような、インフルエンザや新型コロナにかかったときよりも激しい痛みがし始めた。
「くッ……!」
「え、ちょっと! どうしたの!?」
脳裏にちらつくのは、バスの中の風景。俺の手元には、何故か血にまみれた黒い拳銃が。必死に投げ捨てようとしても、手のひらにくっついて離れない。
腐り、白骨の見える死体が襲いかかってくる。
反射的に銃を向け、引き金を引く。
弾丸は命中した代わりに、後ろに反動でふっとばされた。だが、弾丸が当たっても奴は動きを止めない。
震える手で、もう一度銃を向ける
途端、横から誰かに掴まれた。
「大和、ちょっとしっかりしてよ! ねぇ、ねぇってばぁ!」
必死に、星奈は大和を揺り起こそうとしていた。彼には持病とか、そんなものはない。体調も良さそうだったし……何が合ったの?
「ねぇって……あ」
その途端、彼の目が見えた。また、瞳が赤くなっている。私が見た限り、これで三度目だ。
だが、赤かった瞳は数秒で元の黒に戻ってしまった。
何だったのだろうか? あれは?
「や、大和?」
「いってて……今のは……?」
「いまのって何!? 何があったの?」
「いや、わかんな――」
大和が頭を掻きながら、答えようとしたとき。
「ひったくり! 待ちなさぁい!」
パーカーのフードを目深に下ろした男が、私たちの傍を通り過ぎる。その後ろを、息を荒げたお婆さんが追いかけていた。
「星奈、行くぞ!」
「え、待って! 後五分で集合時――」
大和は、さっきまで体調を崩していたのを感じさせない、確かな足取りで追いかけてゆく。
全く……もう仕方ない!
私も、その後に続いた。
「はぁ……ありゃぁねぇよ……」
大翔はトイレから出て、爆心地公園の木にもたれかかった。向こうのベンチでは、鈴もまだ気持ち悪そうにしている。
それにしても、まだ腹の中の赤ん坊にまで影響があるとは……ったく、おっそろしい。
だが、そんな物騒なもんがまだ一万二千発以上残ってるとは、各国の首脳は戦争のことしか頭にねぇバカなのか?
それに、こっから西に数百キロ行ったら、ガンガン核兵器を製造してる中国と北朝鮮。だいぶヤバいだろ、これ……
「ん? 何だありゃ」
向こうのほうを見ると、大和と星奈の二人が誰か知らんオッサンを追っかけ回していた。
「まてぇ! ひったくりめぇっ!!」
大和が手に持ってるアイスをぶん投げて、犯人の頭にぶつける。ああ、もったいない……
「覚悟ぉっ!」
星奈がボロ傘で殴りかかるも、BNと生身じゃ勝手が違うせいでスカッと空を切っている。
「あーあ、めんどくせぇ……」
右足の靴を脱いで、構える。
「だいたいこんな角度で投げれば……っと」
俺のスニーカーはぐるぐる回転しながら、犯人の頭にあたった。
「あ……大和のアイスのとこに当たっちまった……」
靴底だったからまだよかったけど……
「え!? 靴どっから飛んできた!?」
俺は混乱した。いきなり俺達が履いているのと同じ、第四蒼天校の指定靴が飛んできたからだ。
「どいてください」
「うぉっ?!」
慌てて声がした方を見るとハルがいた。音すら立てずに近寄ってきたハルは、ブレザーのポケットからスタンガンを取り出し、男の左腕に押し付け、起動させた。
「アバパバッバッババパヴァバッ?!」
みょうちくりんな日本語にすらなっていない、騒がしい奇声を上げて男は気絶した。
「大和、これを。星奈はおばさんをここまで連れてきてください、私は警察と学校に連絡します」
ハルは俺に一本、結束バンドを手渡しながら言った。
「合点承知の助っと!」
星奈は返事して、全速力でもと来たほうに走ってゆく。
「ハル、これじゃ多分縛れないと思うけど?」
「親指同士を後ろ手に縛っておいてください」
そう言いながら、ハルは左耳に手を添え、目をつむる。
「へいへいっと」
大人しく作業を始める。
にしても、これだけでいいのか? すぐに逃げれそうな気がするのだが……
「通報は完了しました。あとは、警察官が来るまでここで待機だそうです」
そんなこんな言ってるうちに、お婆さんがと星奈が階段から降りてきて、何故か大翔がケンケンでこっちにやってきていた。




